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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部26話 異世界での取調⑵

取調室の重い扉が閉まる。

石の廊下に、ようやく空気が戻ったような気がした。

守は、肩の力を抜いて息を吐く。


「……終わった、か」

「一応ねぇ」


遠藤は軽く伸びをしながら歩き出す。

取調べが終わった直後とは思えないほど、いつも通りの調子だ。


「それにしてもさ」


守は、歩きながら言った。


「両手拘束で取調べって、現代じゃ絶対アウトだよな」

「だねぇ」


即答だった。


「日本だったら、弁護士がすっ飛んできてさ。違法な取調べだったて騒ぎ立てるんだろねぇ。」

「というか、俺らが怒られるな。手錠外して腰縄早くまけって。」


遠藤は笑いながらも、どこか現実的だった。


「椅子に固定、逃走不能、精神的圧迫……はい違法、ってやつだねぇ、検事も真っ青だよ。」

「でも、異世界じゃ普通なんだよな」


守は、先ほどのディートリヒの姿を思い出す。

逃げ場のない椅子。

両手の拘束具。

淡々と進む尋問。


「……なんか、人権人権騒いでる集団が懐かしいよ。」


「それだけ現代は裕福なんだよねぇ、なんせ明日生きるための基盤がこっちよりいいんだから。蛇口を撚れば水が出て、スイッチを押せば火もつくワケだからさ。こっちは割り切らないと、回らないんだろうねぇ」


守は、壁に手をつきながら続ける。


「ここは性善説で出来てないってことなんだよな、きっと」

「元々、性善説なんてのは幻想なんだけどねぇ。人間だって生物上は哺乳類として分類される獣だよ。僕からしたら、ただ喋ることが出来て、意思の疎通ができる頭がいい獣なんだよねぇ。」


やれやれと、遠藤は首を振る。


「ここは黙ったら、死人が続々、やられる前にやらないと被害が出るワケだから。そんな人間は特別なんだって言う考え方はお花畑なんだよねぇ」


守は、少し考えてから言った。


「確かになぁ、現代だとさ、再犯常習か、ネットで知識つけたやつほど、黙秘するよな」

「あー、いるいる。現代の性善説を真っ向から否定する部類の人間達だねぇ」


遠藤は大きく頷いた。


「『黙秘が最適解』って知ってるタイプで取り調べは敵、警察は信用しない、ってやつも多いからねぇ。技術が発達していく弊害ってやつだよ」


守は苦笑した。


「ディートリヒは、逆だったなー。黙るより、吐いた」

「吐かざるを得なかった、が正しいのかねぇ。元々は政治犯的な立ち位置で自分は正しいって思ってるタイプだろうから。それで意図しない被害が出たら自責の念は計り知れないんじゃないのかな」


遠藤は、ふっと視線を落とす。


「逃げ場がない。守るべきものを全部人質に取られてる。しかも、自分がやっていることは内乱行為だし。ここじゃ救いがないよねぇ」


守は、歩みを止めた。


「……日本じゃ、無理だなよなぁ、ここまで追い込むのは」

「だから、日本は日本で歪んでるんだよ。まぁ、でもその中でもホシを落とす調べ官には感嘆だけどねぇ。」


遠藤は、少しだけ真面目な声になった。


「きっと現代では、守れる権利は多い。でも、そのせいで守れない命も多い。なんたって人権団体は極悪非道な被疑者の人権を守れって言うんだものー。そのせいで、何も罪がない普通に暮らしていた人達が被害を被るなんておかしな話だよねぇ。」


一拍置いて。


「まぁ。どっちが正しいかは、簡単に決められないけどねぇ」


廊下の先で、兵士たちが待機しているのが見えた。

ディートリヒを、王国側に引き渡すための護送だ。

守は、ちらりと振り返る。


「……引き渡すんだよな」

「そりゃぁ、僕らはこの世界の法に乗っ取ってるワケじゃないからねぇ。」


遠藤は言った。


「ここから先は、王国の仕事、僕たちは、証拠と調書を渡すだけだよ」


守は、少しだけ迷うように言った。


「……それで、終わると思うか?」


遠藤は、即答しなかった。


「さぁねぇ、王国は王国の論理で動くだろうからねぇ」


そして、苦笑する。


「生かすか、切るか、見せしめにするか、どれでも驚かないよ。何せ、僕たちの街も生きる事で精一杯なんだから他の世界の知らない誰かなんて気にしないようにしなきゃ潰れちゃうでしょ?」


兵士たちが合図を送ってくる。

護送の準備が整ったらしい。

守は、最後に一度だけ取調室の扉を見た。


「凪は……」

「処刑しなかったら、処刑しにいくって雰囲気ではあるよねぇ。まぁ好きにさせなよ。ここにとどまるか、出ていくかなんて彼が決める事なんだからさ。」


遠藤は、静かに言った。


「捕まえるとか、裁くとか、そういう段階は、とっくに終わってるんだと思うよ?君だって被害者の無念だとか怨嗟だとか嫌ほど見てるでしょ?ここは日本じゃないから復讐しちゃいけませんなんて法律はないんだからね?そんな状況なら被害者達は必ず報復にいくと僕は思うなぁ。」


守は、嫌な予感を覚えた。


「……終わらせる、か」

「たぶんねぇ」


遠藤は歩き出す。


「さ、引き渡しだ」

「次は、アジト殲滅」


その言葉の裏にあるものを、

守だけが、まだ飲み込めずにいた。

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