表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界駐在所  作者: clavis


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/76

烏合の王国⑷

夜明け直前の空は、最も色を失っている。

鳥は鳴かず、虫の音も止み、

世界が一瞬だけ息を止めたような時間帯。

ディートリヒ・フォン・ヴァルディスの私邸は、

山の中腹に静かに横たわっていた。

外観は、質素ですらある。

高い塀も、誇示する紋章もない。

まるで小説に出てくる典型的な貴族の屋敷といえよう。


「外観は小説に出てきそうな豪邸ではあるが、警備は多くないんだな」


囁くように言いながら、凪は手を上げた。

合図一つで、空気が変わる。

守と遠藤は、すでに配置についている。

正面、側面、背面。

逃走経路はすべて潰してある。

交渉は前提にない。

ここは話し合う場所ではない。

犯罪者を「確保」する場所だ。


「行くぞ」


凪の声に、躊躇は一切なかった。

迷いのない侵入で破壊は、最小限かつ迅速。

扉は魔術錠で固められていたが、

解除を待つという選択肢はなかった。


「破る」


凪は短く言い、鎧武者を顕現させる。

金属が擦れる音がしたと思えば、斬撃で木製の扉が内側に弾け飛ぶ。

同時に、凪が踏み込んだ。


「動くな!」


警告ではない。

命令だ。


廊下にいた使用人が悲鳴を上げる前に、

守が床に押さえつける。


「手を上げろ、動くな!」


現代ではやったことがない突入、これであっているのだろうか?

この状況はどうみても銀行強盗のそれだ。

守の声は、必要以上に大きかったのは彼の中に迷いがあったのだった。

凪は横目でそれを見たが、何も言わない。

この世界では、力が無く自分を通すことが出来ない者から死ぬ。

邸内は、予想以上に整っていた。

罠も、伏兵もない。

それが、逆に不気味だった。


「……静かすぎる」


守が小声で言う。


「黙って周囲を警戒してろ」


凪は魔法で使用人達を拘束しながら状況を確認する。

そのまま流れるように階段を上がり、執務室のある区画へ向かう。

廊下の曲がり角。

一人の護衛が、剣を抜いた。

——判断は一瞬だったが、凪は距離を詰め、鎧武者は護衛の武器ごと斬り伏せる。

乾いた音。

剣が真っ二つになり床に落ち、護衛はうめき声をあげつつ倒れ込む。


「ぐっ……!」


守の目が見開かれる。


「凪っ……!」

「生きてる」


凪は淡々と言った。


「それで十分だ」


守は何も言えなかった。

正しい。

だが、正しすぎる。

守の中で、何かが軋んでいた。

——話せば、止められたのではないか?

——本当に、ここまでやる必要があったのか?

だが、次の瞬間。

奥の部屋から、何かが聞こえた。


「伏せろ!」


遠藤の叫び。

何かが廊下を薙ぐ。

壁が抉れ、石片が飛ぶ。

守は反射的に身を伏せながら、悟った。

——ためらえば死ぬ。

ここは、そういう世界だ。

凪は、すでに次の動きをしていた。

距離を詰め、男のが手にしていた剣を叩きおとし、喉に刃を突きつける。


「終わりだ」


それだけで、すべてが止まった。

執務室の扉の前。

男は動く気配はない。


「……お前がディートリヒか?」


凪は静かに言った。

守の喉が鳴る。


「凪……」

「言うな」


凪は振り返らなかった。

ディートリヒ・フォン・ヴァルディス。

彼は、抵抗しなかった。

叩き落とされた剣を見つめるが、すぐにこちらに向き直り、逃げようともしない。

ただ、凪を見ていた。


「……だれだ、お前達は」


その声には、疲労と後悔が滲んでいた。

凪は一歩踏み出し、無言で拘束具をはめていく。


「立て」


ディートリヒは、拘束の苦痛に顔を歪めている。

守は、その背中を見ながら思う。

——この男は、本当に悪なのか?

だが、次の瞬間。

凪の声が、その迷いを切り裂いた。


「村が燃えた」


低く、冷たい声。


「お前の条件のせいでな」


ディートリヒの肩が、わずかに震えた。


「そうか……お前が勇者か、村のことは...すまなかった。」


その言葉は、この場では、あまりにも遅すぎた。

凪の表情は、一切変わらない。


「話は、あとだ、場所を変える。」


拘束したディートリヒの移送を開始した。

執務室から——尋問に、最も相応しい場所へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ