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異世界駐在所  作者: clavis


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烏合の王国⑶

異世界警察署の捜査室は、元々は会議用に使用する予定の一室だった。

白い漆喰の壁、重厚な木机、窓は小さく、昼でも薄暗い。

——だが、それが今はちょうどよかった。


「情報が、少なすぎるな」


遠藤が机に書類を広げながら、ぼやくように言った。

そこにあるのは、アジトから回収された文書の写し、地図の断片、魔術通信の記録。

どれも決定打には欠ける。

凪は椅子に背を預け、腕を組んだまま天井を見ていた。


「少ないのは当たり前だ」


低く、乾いた声。


「犯罪者共は証拠を残さない様に隠滅を図るだろ?手だれの犯罪者なら紙にも残さないさ」


守が頷く。


「……だから、現地だな」


その一言で、空気が締まった。

軍でも、貴族でもない、自由国家である守達。

だからこそ、踏み込める場所がある。


「捜査方針を決める」


凪が言った。

全員の視線が集まる。


「推測は最小限。現地で潰す」


遠藤が苦笑する。


「刑事の基本だねぇ。……でも、貴族相手だ。足を使うのは骨が折れるぞ?」

「捜査なんていつもそんなもんだ。実際折れたこともある」


凪はギャグのつもりなのだろうか?淡々と言った。

遠藤も守も凪を見つめていると、凪は真剣な顔をして


「なんだ?」


きっと天然なのだろう。

誰も、それ以上は何も言わなかった。

数日後。

彼らは旧ヴァルディス領に入った。

地形は険しく、山が連なり、街道は細い。

かつて騎士国家だった名残は、朽ちかけた要塞や、無駄に広い訓練場として残っている。

だが——


「……静かすぎる」


守が呟いた。

本来、人の往来があるはずの街道に、人影が少ない。

商人の姿もまばらだ。

凪は視線を走らせる。

守は首を傾げ、凪に問いかける。


「誰かさがしてるのか?」


守と目線も合わせず、凪は周りを見渡しながら続ける。


「誰というわけじゃない、今いる奴らを観察してただけだ。今日明日、いきなり襲われるかもしれないっていう治安の悪さに怯えてる気がしてな。」

「確かに、最近はここら辺も犯罪者集団に襲われてるって聞くからねぇ。」


遠藤がうんうんと頷く。

彼らは町に入ると、まず宿を取った。

高級な宿ではない。

人の出入りが多く、噂が集まりやすい場所。

凪は宿主に金を払いながら、さりげなく聞く。


「最近、物騒だな」


宿主は一瞬、言葉に詰まる。


「……あんた、どこから来た?」

「王都」


その一言で、空気が変わった。


「……王都の方が安全だぞ?傭兵かい?」


凪は笑わない。


「まあ、違うが、仕事で来たんだ。」


宿主はしばらく黙り込み、やがて声を落とした。


「……そうか、今は戦争中だから気をつけな。泊まっていく宿は一部屋でいいのか?」

「ああ、大丈夫だ。それより最近何か変わった事はないか?」

「さぁな。ただ——」


宿主は目を伏せた。


「平和じゃ無くなったってのは確かだな」


宿主はため息を吐きながら、項垂れたのだった。


翌日から、三人は分かれて動いた。

守は兵士上がりの人間に。

遠藤は商人と役人に。

凪は——誰にも属さない者に。

鍛冶屋、街道の警備兵、酒場の女。

共通していたのは、侵略してくる異世界の者に対する恐れだ。

情報の断片は少しづつだが集まる。

凪はそれらを頭の中で重ねていく。


「グラント・フォルが密会という事は掴めたな。だが、足を運んでみたが、生活の匂いがしない」


遠藤が頷く。


「じゃあ、現場抑えるより、彼の邸宅に差押えしにいく方が賢明かもね。令状請求いくかい?」

「あんな紙切れ、法がなかったら意味がないだろ。それより、これを見ろ。」


凪は一枚の地図を取り出す。

山の中腹。

街から少し離れた場所。


「ディートリヒ・フォン・ヴァルディスの私邸。ここを抑えよう。」


名前を出した瞬間、周囲の空気が凍る。

私邸の周辺を下調べし、突入は勢いではしない。

凪はそれを何度も経験している。

犯人の予想外の動きでにがい経験をしているからこそ、逃走経路を潰していく。


「在宅確認を取る」

「正面から?」

「いや、玄関開けて、逮捕状だしても意味ないだろ?ここは異世界なんだから」


夜。

霧が出る時間帯。

凪は一人、邸宅の外周を歩いた。

灯りの位置。

窓の影。

使用人の動線。

——いる。

執務室の灯りは消えない。

一定時間ごとに動く影。

最終確認の後、三人は合流した。


「明朝、突入」


凪の声は揺れない。

守が、わずかにためらう。


「……生きて、捕まえるんだよな」


凪は一拍置いて答えた。


「確保が目的だ」


だが、その言い方は、どこかで感情が切り離されているように思えた。

凪の中で、この件の結論はすでに出ているようにも思える。


「凪」


守が言う。


「感情で動くなよ?」


凪は、ゆっくりと目を向けた。


「それはお前が当事者じゃないから、言える言葉だな。」


それだけだった。

守は黙ってしまう、正論すぎる言葉は人を黙らせるのだ。

それからは誰も会話を続けられなくなった。

夜明けが近い。

ディートリヒの邸宅には、灯は無く周りは虫の音しかない。

——突入の時間は近い。

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