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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部第21話 烏合の王国⑴

この王国は、最初から一つではなかった。

かつてこの地には、三つの国があった。

北方の騎士国家

ヴァルディス王国──鉄と血、規律と忠誠を重んじる軍事国家。

中央の商業国家エル=カナン自由都市連合──金と情報、契約と信用で成り立つ富の国。

南方の魔術国家ルシュティア王国──学問と秘術、血統と才能を尊ぶ閉鎖的な国。

三国は長く、小競り合いを繰り返していた。

時には領土を奪う戦争を繰り広げていた。

交易路を塞ぎ、関税を釣り上げ、密かに暗殺を放つ——

終わりのない、消耗戦。

だが、いつしか均衡は崩れた。

決定的だったのは、ヴァルディス王国の崩壊。

貴族至上主義に傾倒しすぎた結果、内乱と粛清で自壊し、そこへエル=カナンとルシュティアが秘密裏に条約を結び軍を進め、各地を各個制圧していったのだ。

結果、三国は「統一」された。

統一後の国名はアウレリア統一王国。

だが、貴族たちは知っている。


・実権を握ったのはルシュティア系

・財政を支配したのはエル=カナン系

・ヴァルディスは――敗戦国だった


ヴァルディス貴族は、爵位を剥奪され、多くの者が辺境地や大森林の境界などに配置された。

王国軍は魔導部隊の下に騎士が配置され、各個撃破された貴族達は事実上の隷属を強いられ、自由を失った。

表向きは「平等」。

だが、会議の席順、発言の重み、予算配分——全てが違ったのだ。

そんな中、異世界から急に現れた犯罪者達の脅威をどうしていくかという緊急事態に、様々な貴族が王国会議堂に集結していた。

王国会議堂の天井は高い。

それは、この国が「対等な議論」を装うために設計された高さだ。

だが、実際にそこにあるのは、上下関係を誤魔化すための空間にすぎない。

円卓の上座には王族。

その左右を固めるのはルシュティア系貴族。

少し離れてエル=カナン系。

そして最も遠い位置、音が反響して届きにくい席に、ヴァルディス系が座らされている。

誰が決めたわけでもない。

だが、毎回そうなる。


議題は一つ。

異世界からの侵略国家の動き。

前線の報告を受け、地図が卓上に広げられる。


「こちらが、現在確認されている侵略ルートです」


軍務官が指し示すのは、ヴァルディス領に集中した赤い印。

それを見た瞬間、ヴァルディス系の一人が、待っていたかのように口を開いた。


「……今の侵攻を我々で食い止めてはいますが、中央からの魔導部隊の応援はいついただけるのでしょうか。」


優しい口調だが、非難を込めた抑揚で話す老人に対し、王は含み笑い。


「侵入口が偏りすぎている。貴様ら旧ヴァルディス貴族の統治が甘いのではないか?」


視線が、自然に、当然のように、ルシュティア系に集まる。

確たる統計結果があるわけでもないのに、その通りだと同調が相次ぐ、いい放たれる圧を受けるも、別のヴァルディス貴族が続ける。


「魔術に長けている、魔導部隊を応援に派遣し、防衛結界を張ることで大勢を整えるのが今後の士気を左右します。御援助のほどよろしくお願い致したい。」


俯きつつも、現地で戦う部下達のために頭を下げるヴァルディス貴族。

それを鼻で笑うかのように王は伝える。


「魔法が無ければ、騎士はただの肉壁にすぎん。魔導部隊を早急に派遣して侵略国家の先鋒を、現地で殲滅せよ。だが、魔導部隊を派遣する前に、貴公らが突破され、失敗した場合の責任は——当然、そちらが負うべきだろう」


静かだが、逃げ道を完全に塞ぐ言葉。

頭を下げたヴァルディス貴族は、色々な感情を飲み込み、部隊を派遣させる確約を取り付けたのだ。

プライド等では部下や領地を守れない、一度負けたものだから出来る政治であろう。

だが、割ってはいるように、ルシュティア系代表が立ち上がる。


「王よ待ってください。結界を張るには、人員も資材も——」

「言い訳か?今すぐに部隊を纏めて、下位貴族を救うのも上位貴族の矜持というものであろう。」


即座に遮られる。


「我らは遠くない昔に最強の魔術国家を名乗っておきながら、部隊を纏めて今日出発する、それすら出来ないのか?」


静寂。

王は厳しくも平等で無ければならない。

そして、計算高く無ければならない。

王とは言うべき時に、言うべき規律や倫理を叩きつけることができるものであろう。

守達を利用する狡猾な王ではあるが、持ちうる駒を全て使うという点では、為政者として王と呼ぶにふさわしいだろう。

だが、王すら見逃していた小さい綻びは、するするとほどけていくのだ、ゆっくりとだが確実に。

王が軍務会議に切り替え、財政を確認するとエル=カナン系の商団代表が、いかにも調停者の顔で口を挟む。


「最初の不意の侵略により、王国としても資金を投じづらいのは事実でして、基本的には国庫を先出として後から回収となります。そして、様々なものに割り振っていた予算を軍務に全て回し、不足の事態に備えねばなりません。」


柔らかい言葉。

前に転移してきた侵略者達が襲った村は数知れず、難民が多くおり、また、王都を襲撃された際に破壊された城壁や城下の復興費用もバカにならない。

醜悪な本音を先程漏らしたルシュティア系の長老が、さらに悪態を放つ。


「そもそもだ。侵略を許したのは、あの地域が“弱い”からだ。弱い土地には、弱い統治者がいる。それを守る義務まで、我々が負う必要があるのか?」


沈黙。

それはもはや、戦略でも政策でもない。

選別だった。

一つの国家として纏まったはずだが、国家の中でも多様化を許していたからこその亀裂。

そして、今起きてはならない怒りが生まれる瞬間ヴァルディス系の若い貴族が、堪えきれず立ち上がる。


「——我々を捨て石にするつもりですか」


声が震える。


「侵略国家に対し、王国として一致団結すべき時に——」

「感情論だな」


冷ややかな一言。


「それとも、また“被害者”を演じるつもりか?」


その瞬間、怒りが決定的な形を取る。

理屈ではない。

誇りでもない。

踏みにじられ続けた結果としての怒り。


「双方辞めよ。我が王として出兵を決めたのだ。」


そこに差し込まれる「王の声」には苛立ちも含まれていた。

会議は険悪なまま終わり。

王はため息を突きながら自身の執務室に戻る。


「まだ、分裂していた方が纏まるわ。口だけで仕事をせぬ貴族など犬畜生以下よ。」


憤りと人間の醜さに舌打ちしか出ない王は、戦禍が届いていない空を見つめながら思案を巡らせるのだった。

廊下。

壁に飾られた統一記念の壁画の前で、

先程の若いヴァルディス系貴族は拳を壁に当てていた。

その背後から、静かな声がする。


「……理不尽ですよね」


振り返ると、名もない随員の顔。

だが、その目は鋭い。


「彼らは“防衛”と言いながら、あなた方に全てを押し付けている。あなたが怒って当然です」


囁きは続く。


「もしも、世界を変えられるなら、どうしますか?」

「...場所を移そう。」


今日の会議は、王国に不穏な雰囲気を色濃く残したのだった。

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