第4部第17話 東の森のアジトへ
警察署から街のハズレにある牧場に遠藤達は移動していた。
牧場も街の外壁を担っているため、端は小人達と春人の施工した、約3メートルのレンガ壁の中で動物達はのびのびと暮らしている。
牧場の責任者に話を通すと、オスとメスで仕分けをまずしたいという事なので、凪がインベントリから取り出す大量の牛を放牧するために来たのだ。
凪のインベントリから牛たちは静かに出てきて、遠藤はそれを数えながら、妙に楽しそうに処理していく。
「……こんだけ牛が居れば、餌代とか色々大丈夫かねぇ?」
「売るなよ?そして勝手に食うなよ?預けるだけだぞ」
「わかってるよぉ。いや〜しかし、こんなスキル羨ましいねぇ」
軽口を叩く遠藤を横目に、凪は少女に牛達を頼んだと言い、守とともに東街道へ向かうため歩きだす。
その横で、ひときわ白く、わけのわからない生物——例の牛?がブルブルと震えていた。
「……行くぞ」
凪が手綱を持つと、
「ブモモモッッ!!??」
と形容不能な悲鳴をあげて抵抗し始めた。
地面に腹をつけ、四つ足を突っ張り、完全拒否の姿勢だ。
守は思わず言う。
「なぁ、なんでコイツ連れてく必要があるんだ?」
凪は振り返らず、短く答えた。
「後でわかる」
「いや、それさっきも言っただろ……」
モモちゃんは横で心配そうに鼻を鳴らし、牛?を励ましているような、あきれているような複雑な表情を浮かべている。
凪は一歩、また一歩と引きずる。
「ブボボボボボ!!? ブッ!! ブモォォォッ!!」
明らかに行きたくないらしい。
東街道へ進むにつれ、空気が険しく張り詰めていく。
木の根が不自然に盛り上がり、目印も消され、罠を隠すための“整えられた自然”が漂っていた。
守は眉をひそめる。
「……敵の陣地だな、もう。通る奴を待ち構えてる可能性あるな。罠もあるかもれないから気を引き締めていけよ」
「問題ない。まずは、これで確認する」
凪は唐突に牛?を前に押しやった。
「ブッ……!? ブモモォォォォ!!?」
絶叫が木霊した。
そして——
ガシュンッ!!
地面が開き、無数の槍が突き出した。
守が叫ぶ。
「ちょっ……!! 危なっ!!」
だが、牛?は槍に串刺しになるどころか——
槍のほうが全部曲がった。
金属音を派手に響かせ、槍は全て、牛?の身体に触れた瞬間、歪んで折れ曲がって地面に落ちる。
牛?はその場に座り込み、
「ブモモモ……(泣)」
と目に涙を溜めた。
守は震える声で言った。
「……なんだよあいつ。鉄より硬いのか?」
凪は平然としている。
「知らん。だが、確かな防御力があることは間違いない。」
「いや、見ればわかるけど! かわいそうだろ!!」
モモちゃんも
「うし、かわいそう。」
と目をそらしている。
凪は淡々と続行。
次の瞬間、
ヒュッ……ッ!
木々の奥から矢が無数に放たれた。
凪は牛?を持ち上げて盾にする。
「ブモッ!??」
パキンパキンパキン!!
矢はすべて弾かれ、牛?の体表に当たるたびに粉々になった。
牛?は涙目で震えながら凪を見る。
「ブ……ブモォ……」
凪は静かに、しかし確実に言う。
「無傷か」
「優しくない!!!」
守のツッコミが響く。
それでも凪は牛?を抱え、さらに罠の濃い道へ堂々と踏み入る。
ガシャン!
ブワァン!
ギュルルル!!
斬撃トラップ、落石、爆裂罠。
すべて牛?が受け止め、牛?の方はほぼ無傷。
守はもう感情が迷子になっていた。
「いや……すごい。すごいけどさ……なんなんだこの役割……」
モモちゃんも思わず呟く。
「うし、すごいっ!」
凪だけは淡々と進む。
「敵のトラップの質が高い。近いぞ、静かにしとけよ」
凪は牛?にいい放つ。
黙って盾になれと。
ここまで冷酷になれるのは、ある意味才能なんじゃないかと守は戦慄を覚えた。
牛?は諦めたのだろうか、虚空をみて、口は半開きでよだれと鼻水で顔はぐしゃぐしゃだ。
「ブェモ....」
牛?は最後の力を振り絞り、抵抗を表した。凪の背中に顔を押し付けて、鼻水を擦り付ける。
「…死にたいらしいな。」
淡々と殺意を醸し出す凪。
牛?は悟った、今日が命日だと。
そのとき。
――木々の向こうに、黒い影が揺れた。
守と凪の視線が同時に上がる。
罠の密度、周囲の静寂、そして皮膚が粟立つような、異様な気配。
遠藤の分析通り——
敵のアジトは、すぐそこにある。
凪が牛?を掴み直し、背を軽く叩く。
「ここからは最前線だっ、ありがとう。」
今の感謝はどういう意味なのか、明白にわからないが
確実に先程より力を入れて牛?を盾として握りしめる凪。
牛?は涙で濡れた目で守を見つめた。
「ブ……ブモォォォ!!」
その叫びは森に虚しく吸い込まれていく。
守は目線を逸らして、深く息を吸う。
「……よし。詐欺の連中、まとめて捕まえるぞ」
凪が頷く。
「行くぞ。終わらせる」
こうして、
泣き叫ぶ牛?を握りしめた凪に続いて、守とモモちゃんの、緊張が入り混じった突入戦が始まろうとしていた。




