第4部第13話 ロマンスは突然に⑷
捜査をはじめて一週間程たつが、リディアの足取りは掴めない。
最近はフランも見当たらないし、行商に出かけてしまったんだろうか?
日々の駐在業務と異世界警察署としての活動の合間での捜査は多忙を極める。
何故なら生きる生活基盤が、給与で賄うことができるわけではないからだ。
基本的には守は朝と夕方にパトカーで城壁になりつつある外周をぐるりと周る。
今日はここの工事かぁ、と小人達の仕事ぶりに感嘆しながら、街で作られた耐久性の高いレンガの舗装道を通る。
つい、先日まではなんの舗装もない土の街道はゆっくりとだが現代に近づいてきた。
もちろん、汚れが減ってもパトカーの掃除は欠かさない。
金の焼き芋亭にも脚繁く通うも、対象を発見することすら叶わないのは現代の防犯カメラが欲しくもなる。
しばらく変わらない日常を過ごす中、街中をモモちゃんに乗りながらパトロールしていると
「あ、フランだぁー」
モモちゃんが声を上げつつ、急加速する。
「おわぁー、ちょ、すと、@##@ktd」
もちろん人間はなんの構えもなく、急なGをかけられてしまえば姿勢を保つなんて無理難題である。
唯一の救いは、モモちゃんに取り付けた鞍が両足とを固定して、椅子のように背中くらいまで背もたれがついて、シートベルトのようなものがついているものだったから落ちることはなかった。
首はあらぬ方向に行ったとしても、頭から落下するよりはマシだ。
モモちゃんの加速が終わり、止まる。
守の目の前にいるフランは顔面蒼白で、今にも倒れそうだった。
「フラン?大丈夫か?どうしたんだよ」
「あ、守さんか、実は...」
フランは事の顛末から話はじめた。
守の違和感の通り、フランは多額の金貨を騙しとられたみたいだ。
現代ではいただき女子と呼ばれて、実際に会わなくとも金をせしめる犯罪者もいる。
実際に美人と会っていれば、騙される確率はもっと上がるだろうに、そういう防犯的な観点をここに来て布教出来ていない事に守は後悔する。
道端では目立つ、フランから詳しく話を聞くために警察署に連れて行く事にした。
通信魔道具で連絡を入れていたから、警察署では遠藤が迎え入れてくれた。
「やあ、フラン。だいぶ落ち込んでるね。詳しく話を聞かせてくれるかな?相手の特徴からさ」
不思議な事に、リディアの特徴はフランの口からも多くは出てこなかった。
人間は普段であれば、よく知らない相手に警戒するものだが、正常な状態でなければ話は別だ。
何より、ロマンス詐欺は相手の情報が真実であると思い込むことと、恋愛感情で冷静じゃなくなる事から始まるのでこういうことは無理もない。
ざっくり被害は60金貨程、現代で言えばどれくらいかというのは全く検討がつかないが相当な額であることは確かだ。
ちなみに、街の備蓄一ヶ月分は賄えてしまう額であることは笑えない。
「どうしよう...リディアとは連絡がつかないし、次の街の支店ももぬけの殻になってるし。」
この世界には被害者救済制度なんてものはない。
リディアを捕まえてなければ話にならないが、組織性が垣間見えたのを遠藤は見逃さなかった。
「ごめんね、フラン。話の流れをちょっと戻すけど、そのリディアってやつがやっている商売?には他の街に支店があったのかな?」
「あ、そうなんです。隣町にある支店まで帰りたいって事なので路銀を渡したんです。そのあと帰ってきたリディアに連れられてその支店まで行ったんです。」
フランの話だと、支店には男が複数おり、物珍しいものも売っていたから一つ仕入れてみたらしい。
作りが精巧で貴族相手に売れそうだという品物らしいが、それを見せてもらうと、どう見ても現代のトミカだった。
「トミカだな」
「トミカだねぇ」
「トミカ?ですか?」
3人は顔を見合わせる。
犯人が現代の受刑者であることは言うまでもなく、遠藤は検索を開始した。
だが、基本的には罪名で登録されるので詐欺に引っ掛かる対象者は大勢いる。
なぜなら、食い逃げなんてのも詐欺にあたるからだ。
だが、これ程に計画的なものは無銭飲食者では出来ないだろう。
程なく、王都でも同様に新聞記事となる、大規模な詐欺組織が異世界に誕生することとなる。




