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異世界駐在所  作者: clavis


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第4章第5章 屯田警備隊発足

戦いの翌朝。

森の中に残されたキラーベアーの亡骸を前に、村人たちは息を呑んだ。

その肉体は、まるで赤と白の糸を編み合わせたような筋肉で構成されていた。

魔力を帯びた生物特有の“赤白混筋”だ。


「……これ、食べられるのか?」

「とりあえず、手榴弾の破片は取り除けたんだけど、どうなんだろうね。」


恐る恐る塩焼きされた一片を口に運んだ守が、目を見開いた。

深い旨味にわずかな甘みが混ざる。

基本焼肉は安い食べ放題しか行かなかったが、この肉が美味いことは分かった。

一口食べた後の残りの肉は、食いしん坊鳥のモモちゃんに横取りされたのは日常風景である。


キラーベアーは、村人総出で解体され、

その肉は保存食として塩漬けと燻製にされた。

誰もが戦いの恐怖を忘れようとするかのように、

その夜は静かな宴となった。


「……生き残ったって、こういうことなんだな。」

守が呟くと、兄羽が杯を掲げて笑った。


「死んだら何も残らない。

 なら、生き延びた奴らで次を作るしかねぇだろ。」



翌朝。

兄羽は駐在所の机の上に、大きな紙を広げた。

村の全体図だ。

木炭で線を引きながら、口を開く。


「……俺は思う。

 まず“防衛”がなけりゃ“農業”も“交易”もねぇ。

 だから作るんだ、駐在さん。日本の城をな。」


「城?」

「そう。防災と防衛を兼ね備えた城郭都市だ。

 幸い、川が近い。川も護岸工事も合わせてやれば天然の堀だ、籠城もできる。川に毒入れられたらおしまいだけどなっ」


兄羽の設計案は、戦国期の城造りを基調にしていた。

石垣と木壁の複合防壁。

櫓と見張り塔を兼ねた監視台。

そして、内外を分ける城門と城壁。


「今まではなかったんだろうが、あると考えて氾濫も防がないといけない。防災も大切な街作りだな。」

「なるほどな……」

「防壁の内側は居住区。外側は畑と家畜舎だ。なんだか高い壁の漫画みたいな作りだがな。確か3重の壁があったんだよなあれは。」


人がデカくなるあれかと、うんうんと納得する守。

人が住む地区と畑でそれぞれ外側に壁を作る事で、侵入してくるものを阻むという事らしい。

その設計は、誰もが納得できる理想だった。

同時に、それが“村”ではなく“都市国家”への第一歩になることを守も遠藤も、まだ実感していなかった。



昼過ぎ。

広場では、春人と小人の建築隊がせわしなく動いていた。

焼き固めた煉瓦が次々と積み上げられていく。

パトカーでの周辺警戒が終わった守も広場に来ていた。


「このレンガ、なんか色が違うなぁ」

「はい! 遠藤さんの検索で、土と砂の配合を少し変えたです!」


焼成温度の違いで、耐久性と蓄熱性の異なる三種類のレンガが生まれていた。

赤煉瓦は外壁に。灰煉瓦は熱を逃がさない内壁に。

黒煉瓦は煙突や火炉に用いる。


夜に差し掛かるが、広場にランタンが一つ、二つと灯りを増していく。人々の顔に夕闇が落ち、ざわめきが小さくまとまっていく。兄羽の設計図は脇に置かれ、今夜の主題はもう一度、村の“守り方”だ。


守はゆっくりと立ち上がり、皆の視線を受け止めた。彼の声は穏やかだが、芯がある。


「皆さん。今話したいのは、人の命と生活を守るのが元々の俺の仕事だが、ここでは俺ひとりの力は限られている。王国は“自由”と判断した以上、この村は自分たちで守るしかない。それを、どう回していくか、だ。」


一人の年寄りが早速口を挟む。

「兵士でも徴兵するんか?若ぇのを兵に出すとしたら、畑が回らんだろうが」


守はうなずきながら、地面に手をついて考えを整理するように言った。


「戦地へ送り出すなんて話は誰もしたくない。俺が提案するのは“村全体で生産と警備を回す”ということだ。言葉を変えれば、自分たちの生活を守るための職業を地域で回していく。仮に屯田警備隊って呼ぶことにするけど、将来的にはこれを正式な“公的職務”にしていく。給与も、休みも、年金のような仕組みも、順次整備していくつもりだ。」


ざわめきのうち、若者たちの顔に少し興味が戻る。守の口調は公務員らしい現実感と、駐在という現場経験が混ざっている。


「まずは運用案を示す。七班制でローテーションを組む。やることは三本柱だ。

1)警備(見張り・門番・巡回)、

2)防災(避難誘導・火事・洪水対応)、

3)生産(さつまいも栽培・家畜世話)。


勤務サイクルはこうだ。

・1日目:日勤(8:00–17:00)=パトロール、見張り塔勤務。

・2〜3日目:夜勤(15:00–翌8:00)=門番、夜間巡回(仮眠ローテあり)。

・4日目:休養。

・5〜6日目:畑作業(さつまいも管理・収穫準備)。

・7日目:休養

守は地に落とした指先で円を描き、参加者を見渡す。


「班ごとに1日ずつずらす事で毎日誰かが警備に従事して、誰かは農作業をする。50歳以上は農作業に日中従事してもらう。経験がある年配は指導で生産性を上げるんだ。小人たちは建築・灌漑・重量作業で若手の負担を減らす。これで、さつまいも生産は止めずに警備力を確保できる。」


若い父親が声を上げる。


「だが、うちの畑は俺がないと苗を植えられない。休みの朝に苗を植えろってのか?」


守は真っ直ぐその父親の目を見て頷いた。


「そのために農地を統合していって、街で管理することにするんだ。また、共同管理に賛同してくれてるみんなぬは食事や生活必要物資はこちらから配給する形にする。街ぐるみで金を稼ぐんだ。足りない分は小人の土木班で補う。最初はぎこちないだろうが、作業分担を細かくしていけば効率は上がる。畑を守るってのが、皆の食い扶持を守ることだ。」


村の古参が唸る。

それぞれが個人で耕していたもの、この説明であれば土地が共有のものとなるのだから。

守は続ける。


「金はまずは互助だ。生産は村全体のものにして、被災者の生活は共同で支える。だが、並行して“公的職務化”のための仕組みを作る。例えば勤務日数に応じた配給増、訓練に参加した者への住居優先権、怪我で働けなくなったら共同資源からの物資支給――こういう“社会的契約”を村で取り決めていこう。最初は手作りだが、街になれば税や手数料で持続化できる構造にする。つまり長期の目線で、『働く=生活が保証される』を作るんだ。」


遠藤がゆっくりと、計算を示す。


「具体的な数値も今から詰めよう。作業効率を上げて余剰を生み出し、余剰は共同備蓄と防衛投資に回す。キラーベアーの肉は保存して村で食う分と、余れば交易品に回して交換資源にする。レンガ生産は増えれば流通できる。生活を守るための『仕事』を村で循環させる。それが将来、公務化するための資源だ。」


子どもを抱く母親が静かに言った。

「自分たちで生活を守るならそれは分かるわ、でも女の私達でもできるのかしら。」


守はその手を取って応える。


「最初は不安だ。だが俺は約束する。訓練する、危険な任務は減らす、無茶はさせない。俺が誰よりも現場で指揮を取る。最前線に行くのは俺だ。」


議論は長引いた。怒りも、恐れも、疑念も噴き出す。だが守の言葉には“実行の匂い”があった。彼は単に理想を語るのではなく、毎日の実務で人を守ってきた男だった。村人の多くはそれを知っていた。


夜が更け、最終的な宣言は守が行った。


「今日の結論はこうだ。まずは試行で七班を作る。各班の具体的な人員配分は明日発表する。二週間の基礎訓練を行い、並行して畑の作付計画を班で交換し合う。作業日と警備日の帳尻を合わせる。村全体で生産と警備を担い、将来的にこれを“公職”として整理していく。つまり、今は自警だが、未来は公務にして、安定した職として成立させる。理解できる者から名乗り出てくれ。」


沈黙の後、幾人かがゆっくりと手を挙げた。最初は少数だったが、やがて手は増えていく。賛否が割れていた会場に、確かな意思の輪が生まれた瞬間だった。


守は胸に手を当てて、小さく息をついた。


「ありがとう。俺は皆の生活を守るためにここにいる。皆で作る社会なら、必ず続けられる。夜勤でも畑でも、一緒にやっていこう。」


会が終わると、人々はそれぞれ家路につく。話し声は小さく、しかしどこか晴れやかだった。春人が小人たちを引き連れて守の前に来て、ぽつりと言う。


「僕も、守りたい。小人たちと一緒に。」


守は春人の頭を軽く撫でて答えた。


「頼むよ。小人にも春人にも期待してるよっ。」


その夜、村には新しい約束が生まれた。名分は“防衛”ではあるが、その本質は共同生産と共同生活の継続――それを守るための制度設計だった。公務化への方針は、村が街へと成長するための種にもなった。


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