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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部第2章 また一人、そしてまた一人

春人と名乗る少年を保護室から出して、駐在所に保護した守達は、暖かいお茶をだし、話を聞こうとしたが春人はだんまりだ。

遠藤が検索で現代の警察庁のシステムを調べてみても、“犯罪者データ”には該当なし。

つまり、完全に今起こっている犯罪者の転移とは違うイレギュラーな転移。

罪を犯していない者が、何故ここに来たのか――。



昼になり、駐在所の外ではモモちゃんが羽を休めていた。

春人は外の音に誘われるように、そっと外に出る。


「あっ、でてきた!」

モモちゃんがぱたぱたと翼を動かし、満面の笑みで迎えた。

「こんにちは! 寒くない? お腹すいてない?」


唖然。もちろんそうだろうとも。

なんたって鳥が喋ったのだから

戸惑いながらも、弱々しくを返す。


「……えっと。」


その瞬間、彼の背後に小さな光の粒が舞い上がった。

守と遠藤が同時に気づく。


「なんだ……この光……?」

「なんかのスキルかっ。」


身構える二人。

光の粒が形を取り、次々と現れる――

掌ほどの小さな人影。

十人、十二人、十五人。

それぞれが春人の周囲をくるくると飛び回り、微笑んでいた。


「お、おおおおおい!? なんだこの小人軍団は!!」

遠藤が思わず声を上げる。


モモちゃんは目を輝かせた。

「すごい! かわいい! ちっちゃいのに帽子かぶってる!」


小人たちは一斉にぺこりとお辞儀をし、春人を見つめている。春人はただ黙って、それを見つめていた。



遠藤は興味津々だった。もはや、新しいおもちゃを見つけたも同然に食いつく。

「スキルの名前は?」と遠藤が問う。

春人は一瞬だけ迷い、しかしその答えを出すことなく、静かに首を振った。


「……言いたくない。」

「そっか。無理には聞かない。が、気になる。」


遠藤は本音と建前が同時に出るタイプみたいだった。せめて本音は隠せと思いつつ、守はそれ以上追及しなかった。

少年の沈黙には、明確な“理由”があるのかはわからないが、それを無理やりこじ開けるほど、守達は愚かではなかった。



それからまもなくして、アデルが帰ってきた。囚人服の男を連れて。


「皆さんお揃いで!戻りました。」

「あれ?そいつは」

「兄羽だ。これから世話になる」


沈黙、一番最初に遭遇した犯罪者達と転移してきて唯一生き残っている囚人。何故こんなところに?

確か、能力のせいで飼い殺しにされていた様な。

とりあえず、駐在所で話しましょうというアデルの催促に疑問を抱きつつ駐在所に入る一同。

パイプ椅子に座った兄羽は苦笑した。


「こっちでもこんなふうにパイプ椅子に座るとはなぁ。」


兄羽の事件はかなり世間を賑わせた。なんたって今までの耐震設計を覆し、マンション倒壊に繋がったのだから取り調べも多くあったはずだ。

アデルから色々な話を聞くも、要約すると兄羽の機転で俺も兄羽も契約履行の効果で王国から自由を勝ち取ったらしい。


「そういえば、あの時契約書に何か書いてたな。」

「ああ、この依頼の後、俺とあんたとそこの兄ちゃんを自由にして縛らないと日本語で書いたのさ。あいつらは日本語は読めないし、この兄ちゃんも言わないでくれたから成功したんだが。」


アデルを見ると、ドヤ顔がすごかった。王国に目をつけられると厄介だからこその見逃しだったらしい。

ついでに自分も嫌な依頼から回避できる様に立ち回りアデルはなかなかの梟雄である。


「まずは契約しよう。この世界では絶対に失敗しない。建築だけに専念したいからな。」


といいながら、日本語で書いた契約書を渡してきた。内容的には自身が設計した内容に、構造的欠陥以外での材料の変更を認めないことや、労働環境について書かれていた。

よくわからないが、とりあえずサインしようとする守に兄羽はため息をつく。


「駐在さん、あんた契約書ちゃんと読めっていっただろ?」

「あー、まあ。村の危害になることは書いてないからな。大丈夫だろ。」

「あんた、家買うなら俺が契約書みてやるよ。絶対騙されるからさ」

「えー、でも駐在所あるからなぁ」


こうして村に専属建築士が産まれたのだった。

それからの日々。

春人と兄羽は駐在所の一員として、少しずつ村に溶け込んだ。

春人はモモちゃんに連れられて畑に行き、遠藤の整備作業を手伝い、守の出す書類を黙々と手伝う。

春人の小人たちは朝六時に起き、春人のまわりで楽しげに働いた。

掃除、料理、建築、修理――。

特に建築の腕は驚異的で、彼らが作る棚や机はどれも職人顔負けだった。


「なぁ……この子たち、ほんとに働き者だな。」


兄羽は春人に羨ましそうに話しかけると、返ってきた言葉は意外にも


「ええ。規則正しくて、朝寝たくても起こされるので。」


春人は苦笑しながら答えるのだった。

モモちゃんは小人のひとりに、

「ねぇねぇ、夜は何してるの?」と聞くと、

小人たちは声を揃えて答える。


「夜はねむるのです!」


その無邪気な声に、駐在所は思わず笑いに包まれた。



夜。


ランプの灯りが揺れる中、春人は窓の外を見つめていた。

小人たちは自作の小さなベッドで丸くなって眠っている。15個のベッドに小人が寝ているのは、人形遊びでもしている錯覚すら覚える。

守がそっと声をかける。


「眠れないか?」


春人は少し考えてから、ぽつりと答えた。


「……ここは、静かですね。」

「そうだな。あっちの世界より、だいぶ静かだ。」

「……戻れないんですか、僕。」

「……それは、まだわからない。」


春人は小さくうなずく。

そして、小人たちを撫でながら口を開くも、何も言わずにまた閉じた。

心の中で泣いているようで、安らいでいるようでもあった。

守は何も言えず、「ゆっくり寝ろよ。」といい残して静かにその場を離れた。



翌朝から兄羽の設計で、手狭になった駐在所の増築、または分室作りの話し合いになった。基本的にコンクリートで出来た駐在所を拡張するのは難しいのと、勝手に改築するのはどうなんだ?という話になった。

兄羽からしたら、異世界にきてまでそんな事を考える必要があるのか?と嗜められるも、遠藤も守も抵抗感があるのは警察官らしい。新しい風は自分で起こしたくないものだ。分室案になり、広場の保護室を解体してそこに警察署の様に作り上げることになった。

警邏隊の駐在場所も兼務している設計となり、異世界警察署の爆誕であった。

もちろん施工は小人達率いる春人である。

遠藤が苦笑する。


「おい守さん。……この子、もう完全にうちの建設部門じゃないですか。」

「はは……悪くないな。居場所ってのは、案外こうやって作るもんかもしれねぇな。」


守の言葉に、春人は初めて微笑んだ。

その笑顔は、どこか“帰る場所”を見つけた少年のようだった。


──そして誰も知らない。

短くも濃い時間を過ごしたからこそ、薄れてしまったこの世界に送られる“きっかけ”のことに

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