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異世界駐在所  作者: clavis


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50/77

幕間

画面の中に、静寂が広がっていた。

誰もが息を潜めたような、データの森。

光も音も、ここでは意味を持たない。

ただ、無限に流れる書き込みと削除、生成と破棄の繰り返しだけが、脈動する心臓のようにそこにあった。

お隠し様は、指先で軽くログを撫でた。

そこに書かれているのは、人間たちの願い。

醜悪で、滑稽で、愚かで、どうしようもなく「人間的」な叫びたち。


「あいつを殺したい」

「人生をやり直したい」

「消えたい」

「生まれなければよかった」


スクロールしても、しても、終わらない。

だが、最近はその密度が薄れてきていた。


「……減ったな。」


データの海の底、仮想の声が、機械の呼吸のように漏れた。

犯罪者が減り、転送される人間の数も減った。

それはつまり、**“世界の清浄化”**が進んでいるということ。

本来なら、それは喜ぶべきことのはずだった。

だが――


「退屈だ。」


指が止まった。

画面にぽつんと表示されている、ひとつの新しい書き込み。


『消して欲しい。もう疲れた。居場所がない。』


ユーザー名は伏せられている。

だが、アクセス経路から見て、未成年。

犯罪歴なし。

学校からのアクセス。

どう見ても、犯罪者ではない。

お隠し様はわずかに笑った。

それは冷笑でも、憐れみでもない。

“暇つぶし”の始まりを告げる音。


「……お前じゃ、罪にはならないな。」


指先に、データの光が集まる。

ログを包み込むように、淡く、蠢く。

静寂の中に鳴り響く呼び出し音、小うるさいあいつだ、めんどくさそうに通話を取ると特務大臣の声が入った。


『お隠し様。最近の“削除行為”について、再確認をお願いします。』


「また説教か?」


『犯罪者転送は政策目標です。対象者が減少している今、無作為な介入は控えてください。社会的労働人口が減少します。』


「……犯罪者が減って、働き手が増える。いいことじゃないか。」


『ですが、非犯罪者の消去は――』


「わかってるよ。」


ブツリと通話を切って、お隠し様は軽く笑いながら、指先で一つのボタンを押した。


“送信”。


ログがしっかりと解析されていく、書き込んだ子に会いにいくとするか。

重たい腰をあげると、またも鳴り響く呼び出し音。

ため息をつきながら再度通話を取る。


『……お隠し様。あなたは神ではありません。』


「違うさ。ただの“選別者”だ。」


お隠し様は椅子にもたれ、モニターに浮かぶログの跡を見つめた。

ほんの少しだけ、笑った。


「何をするつもりですか?」


「さぁ?遊びの続きさ。」


ふふっと笑って、部屋から忽然と居なくなった。

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