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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部第1章 今までと違う

朝の風が、村の屋根瓦を撫でていた。

勇者との死闘から数日。

ようやく、守の村にも、穏やかな時間が戻ってきていた。


駐在所の引き戸をガラリと開けると、金属が擦れる音が静かに響いた。

奥から現れたのは、アデル。

短く切りそろえた髪を指で整えながら、微笑を浮かべる。


「おかえりなさい、守さん。」


その声に、守の緊張が少しだけ緩む。

机の向こうでは、遠藤が湯気の立つカップを片手に、ぶっきらぼうに手を挙げた。


「無事に戻れてなによりだな。死人の数より、まだマシな顔してる。」


「ただいま。」

守は小さく息を吐いた。

「……ようやく“帰る場所”ってのがある気がしたよ。」


アデルが軽く笑う。

その笑いに救われるような気がした。


窓の外では、村人たちが畑を耕し、子どもたちが走り回っていた。

破壊された建物も少しずつ修復され、焦げ跡の残る壁に新しい木材が打ち付けられている。

最初に遭遇した戦場のような風景は、もうここにはなかった。



しばらくして、アデルは王都に戻ることになった。

勇者凪と王者の死闘は、国全体を震撼させる事件だ。

報告を怠れば、王国の上層部が動くのは確実だった。


「王都に戻ったらすぐに報告します。……二人とも、気をつけてください。」

「おう。帰る頃には、村が要塞になってるかもな。」


軽口を交わし、アデルは馬に乗って旅立った。

その背が見えなくなるまで、守は手を振り続けた。



数週間の間、住環境の改善のため遠藤の検索スキルを駆使して発見されたものがある。村の土と岩から焼き上げられる“耐熱レンガ”だった。

土の配合を変えることで、蓄熱性能を高めたり、強度を増すことができる。


「これ、やっぱり図面がひけるやつがほしいな。」


守はレンガを手に取り、太陽にかざす。

素材があっても、専門的な知識はない。


「俺たちでも簡単に家ができたらいいな、そしたら世界がまた一歩前進するんだなぁ。」

「俺の検索はあくまで“情報”だからね。実際に組む技術までは出ないんだなぁ。」

「……建築士がいればな。」


そんな何気ないやり取りが、笑顔が絶えない理由なのかもしれない。素材はあれど、現代の技術はない。つまり宝の持ち腐れなのだ。



ある朝。


まだ霧の残る時間。

村の中央――酔っ払いを一晩入れておくための小さな木製の保護室が、淡く光を放った。


「マモルー! マモルッ! ひかってる! おかしなひかりだッ!」

慌てふためいた村人が、駐在所に飛び込んできた。

片言混じりの叫びに、守と遠藤は同時に立ち上がる。


「……まさか。」

「行くしかないやつだな。」


守は拳銃を装備し、遠藤は盾を持って村の中央へと急行した。



保護室の周囲には、すでに人だかりができていた。

誰も近づこうとせず、ただ怯えたように中を覗き込んでいる。

守は「下がれ」と声をかけ、ゆっくりと扉を開けた。


そこにいたのは――


膝をついて震える、一人の少年だった。

黒い学生服。ボタンをきっちり留めたその姿は、明らかにこの世界の者ではない。

年の頃は十五、六。

整った顔立ちだが、表情は恐怖と混乱に満ちている。


「……ここ、どこなんだ……?」


その声はかすれ、震えていた。

守は息を飲み、遠藤と目を合わせる。


「……おい、これ……囚人じゃねぇぞ。」

「学生服……だよな? 何だこれ。未成年……?」

「もしや、万引きか?」

「どれだけ盗んだんだってなるよな、それだと」

「じゃあ、振り込めか、強盗って線か。」


今まで監獄に収監されているものが転移してきている例を考えると、少年であろうが凶悪な罪を犯したに違いない。

守は慎重に距離を詰めながら、声をかけた。


「おい、坊主。落ち着け。俺は警察だ。……名前は?」


少年は一瞬だけ守を見上げ、驚愕するもか細く答えた。


「……春馬……」


それきり、口を閉ざした。

どこか怯えたように、守の拳銃を見つめている。


「犯罪者には見えねぇな。」


遠藤が呟く。


「この顔と服装、どう見ても“ただの学生”だ。」


「……なんでこんなガキが転移してくる……?」


守は息を詰めた。

異世界に飛ばされてきたのは、“犯罪者だけ”のはずだった。

だが、目の前の現実はそれを否定していた。

異界への門が、今――別の理屈で開き始めている。


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