幕間
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犯罪者が次々と消える――。
その現象は、もはや偶然や事故では説明がつかないものとなっていた。
警察庁も法務省も、初期段階では「行方不明事件」として扱おうとしたが、やがて全国の刑務所・拘置所から同様の報告が相次ぐにつれ、隠しきれない事実となった。
「収監中の犯罪者が、一夜にして全員消える」
という見出しが新聞一面を飾ったその日、日本は確実に変わった。
やがて、奇妙な噂が流れ始める。
――犯罪を犯した者は、いずれ“消える”。
――罪人はこの世から“削除”される。
その煽りのか犯罪発生件数は激減した。
スリ、万引き、車上荒らし、傷害事件――。
それら「人の弱さや衝動から生まれる小さな犯罪」が、ほとんど姿を消したのだ。
繁華街でも夜間の喧嘩は半分以下に減り、警察官の数は変わらぬまま、街は不気味なほど静寂に包まれた。
だがその静けさは、平穏ではなかった。
人々の心に根付いたのは、「罪=死」という、冷たい恐怖だった。
法が裁くよりも前に、何か得体の知れぬ“意志”が裁いている。
いつ、どこで、誰が消えるのか誰にもわからない――。
その一方で、警察内部では変化が起きていた。
現行事件が減ったことで、桐島たち捜査一課は久しく手をつけられなかった未解決事件に集中することができるようになったのだ。
DNA鑑定、AI解析、現場再捜査――。
“平和の副産物”として、長年の謎が次々と解かれていく。
「おい、また一件検挙だってよ。十年前の主婦殺害事件。」
「マジか……。これでこの月、未解決が五件目だぞ。」
課内の空気が少しだけ明るくなる。
しかしその直後、別の報告が上がった。
「やりました!起訴中の連続強姦被疑者が懲役判決です!」
「……でも、そいつも有罪ってことは消えて無くなるんだよな」
会議室に沈黙が落ちる。
桐島は書類を見つめたまま、深く息を吐いた。
「もう、笑えねぇな。」
同僚の若い刑事が苦笑混じりに言う。
「桐島さん、これ……なんか漫画みたいですよね。“デスノート”ってやつ。名前書かれたら死ぬって……。」
桐島は机に肘をつき、重くため息をついた。
「いや、あれよりタチが悪い。あっちは“名前と顔がわからないといけない”だろ?。だが今は違う。……“何か”が勝手に犯罪者を消してやがる。」
その声には、恐怖と諦めが混じっていた。
「誰も理由を知らねぇ。誰も止められねぇ。気がつけば、法も倫理も後ろに置いてけぼりだ……。」
後輩が黙り込み、窓の外に目を向けた。
夕焼けが刑事課の壁を染める。
その赤は、かつて血を連想させた色だが、今では「警告の色」として感じられた。
一方、社会も目に見えて変化していた。
警備会社の売上は激減し、刑務所は稼働率ゼロに近づく。
その分の予算は農業へと回され、元刑務官が新設された農業工場に再就職していた。
“更生”という概念が不要になり、“生産”こそが新しい国家の正義となりつつあった。
国民の多くは、犯罪がなくなった社会を歓迎した。
だが、ふとした時に誰もが思う。
「本当に、これでいいのか?」
街頭でのインタビューに答えた中年男性の声が、報道番組で流れる。
「まぁ、犯罪がなくなるのはいいことですよ。でも……なんか、人が“見えない力”に飼われてるようで、気持ち悪いですよね。」
海外の反応はさらに過敏だった。
中国政府は「日本への渡航を一時禁止」と発表。
他のアジア諸国も続き、「日本で犯罪を犯すと消える」という都市伝説は、半ば国家レベルの常識として扱われ始めた。
まるで、日本という国そのものが“人知を超えた裁きの場”であるかのように。
桐島はその報道を見て、再び独り言のように呟いた。
「……まるで“死の国”だな。皮肉なもんだ。人を裁いたら人が消えて無くなるなんてな。それを扇動しているのは絶対にあいつのはずだが、証拠なんて何も無いからなぁ。」
その横顔は、疲れと焦燥の入り混じったものだった。
報告書の山を前に、彼はもう、網走刑務所失踪事件のことなど思い出す余裕すらなかった。
現場は常に新しい“消失”の報告に追われ、彼の一日は終わりなき記録と報告で埋め尽くされていた。
それでも、彼の胸の奥では何かが静かに燻っていた。
――あの「最初の消失」からすべてが始まった。
そして、いつかその“理”に触れた時、自分もまた“消える”のではないかと。




