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異世界駐在所  作者: clavis


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47/76

幕間

暗闇の中に、光があった。

耳鳴り。

遠くで、あの銃声が響く。

胸に穴が空いたまま、宍戸凪は静かに息を吸った。


「……また、ここか。」


目を開けると、そこは再び教会だった。

石の床、古びた祭壇、そして見覚えのある神父。

その男は、相変わらずの調子で両手を広げていた。


「おお、勇者よ、死んでしまうとは何ごとだ!」

「うるせぇ!!」


凪は反射的に叫んだ。

神父の口上を途中で遮る勇者など、たぶん彼が初めてだ。


「なんで毎回お前なんだよ! もう三回目だぞ!?」

「勇者とはそういうものだ。死んでは蘇り、また死んでは蘇る。それが君の仕様だ。」

「仕様って言うな! 俺はプログラムか!」


神父は愉快そうに笑いながら、祭壇の裏から聖水らしきカップを取り出した。

「まあまあ、まずはお疲れ様。特製・“転生後の一杯”だ。それとも私と禅問答をするために死んできたのかい?」

「……ただの水だろ、これ。」

「バレたか。」


凪は深いため息を吐く。

笑いながらも、胸の奥が痛む。

銃口の冷たさを、まだ覚えていた。

あの警察官——表情も、鮮明に。


「……死んだ時、正直ホッとしたんだ。」

「ほう?」

神父が首をかしげる。


「何故だかやっと終われるって思った。何人も殺して、何度も蘇って……。

 “勇者”なんて名前のくせに、俺のやってること、ただの大量殺人だ。」


凪は拳を握る。

その手が震えているのは、怒りか、それとも恐怖か。


「俺は元警察官だった。捜査一課。……でも最後の事件で全部壊した。

 人質を取った犯人を撃とうとして、誤射した。

 人質もろとも撃ち抜いた。……あの瞬間、俺は“正義”を殺した。」


神父は黙って聞いていた。

その表情は笑っているようで、どこか優しかった。


「なるほど。つまり、お前は“正義を証明するために人を殺す”職業病に罹っていたわけだ。」

「言い方どうにかしろ。」

「じゃあ、勇者病だ。」

「もっとひどぇじゃねえか!」


神父は肩をすくめ、微笑む。

「でもな、勇者。お前がその罪を覚えている時点で、まだ“人間”だ。」

「……どういう意味だ。」

「神はな、悔い改める者を救う。だが、“後悔しない者”は救えない。

 お前はまだ、後悔している。だから何度でもやり直せる。」


凪は静かに顔を上げた。

ステンドグラス越しの光が、彼の頬を照らす。

「……やり直せる、か。

 でも、そのたびに誰かが死ぬんだぞ。神様は、それを“正義”って呼ぶのか?」


神父は目を細めた。

「私は神ではない。……ただの“神父”だ。君が知っている神父かどうかは重要じゃないのだ。ただ君を復活させるだけさ」

「やっぱり仕様じゃねぇか。」


二人のやりとりに、教会の空気が少しだけ軽くなった。

凪は小さく笑う。

笑ったのは、どれくらいぶりだろう。


神父が扉の前に立ち、振り向いた。

「行け、勇者よ。お前が殺そうとした警官がいるだろう?」

「……ああ。」

「今度は、殺すな。お前じゃあ勝てない」

「……ラスボスとかでもゲームじゃ、倒せるもんだぞ?バグかよ。」


神父は穏やかに頷いた。

「いいか、“勇者”という名は、神がくれた免罪符ではない。“勇気をもって罪を見つめる者”の称号だ。勇気と無謀を履き違えてはいけないね。これは現実であって、できない無謀が多いのだよ。」


凪は静かに扉を押し開ける。

雪の風が吹き込み、白い光が彼を包んだ。


その顔には、ほんのわずかに迷いが残っていた。

けれどその瞳は、確かに——生者のものだった。


「……忠告ありがとよ。俺は俺の意思で戦う。」


凪の足音が遠ざかる。

背後で、神父が小さく呟いた。


「おお、勇者よ……次は死なぬように頼むぞ。」

「聞こえてんぞッ!!」


扉が閉まり、静寂が戻る。

神父は祭壇の前で、手を組んだ。


「まったく、勇者とは人間とは面倒な生き物だ。だが——」

その口元に、静かな微笑が浮かぶ。

「……やっぱり、私はこういう奴が好きだな。」

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