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異世界駐在所  作者: clavis


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第3部第9章 閲覧禁止のスキル

村の空気は少しずつ春に近づいていた。

しかし守の心は重い。王に押し付けられた契約の鎖が、歩を進めるたびに重くのしかかっていた。


駐在所の扉を開けると――


「お、やっと帰ってきたか!」


机に足を投げ出し、口をもごもごと動かす男。

その手には、保存食用に確保していたアルファ米のパックが握られていた。


「……誰だ?」


守の声が驚きと呆れを含んで漏れた。

男は口の中のものを飲み込んで話を続けた。


「サイバー犯罪対策課の遠藤だ、消えた駐在さんだろ?」

「え?え?」

守は固まってしまった。もちろん前例はある、守自身が異世界に転移したのだから、他もいて当然である。

ただ、同僚が転移してくるなんて驚かない方が無理がある。

遠藤はにやりと笑った。


「いやー、俺も“神隠し”に遭っちまってさ。目が覚めたらここだよ。で、腹減ったから勝手に食わせてもらった。悪いな」


守は額を押さえた。


「お前、ここがどんな状況かわかってるのか?」


「わかってるよ」


遠藤は立ち上がり、どこか誇らしげに胸を張った。


「俺、スキル持ってんだ」


「スキル?」


「検索」


守は一瞬、耳を疑った。


「検索……?」


「そう。オフラインなのに、頭の中に直接答えが出てくる。知りたいことを思い浮かべれば、現代のネットみたいに教えてくれるんだ」


遠藤の目は本気だった。冗談でも幻聴でもない。


「この世界に来て、真っ先に俺が調べたのは――“消えた交番”のことだった。あるかないかは賭けだったが、やらないよりましだろ?」


守の心臓が跳ねる。


「……それでここを見つけられたのか。」


遠藤は一拍置き、低い声で答えた。


「あと、お探しの北の極寒地に現れた建築物――あれは、“網走刑務所”だ」


その名を聞いた瞬間、守の背筋が凍った。

遠藤は続ける。


「しかも、ただの刑務所じゃない。消えたのは建物だけじゃなく、中にいた“収監者”も一緒だ」


「……っ!」


守は思わず拳を握る。王の言った“建造物”が、ただの異世界の遺跡なんかじゃないと理解した。

遠藤は机から乱雑に散らかしたメモを拾い上げる。


「なあ駐在さん。これ、偶然だと思うか? お前の駐在所もそうだった。つまり、現代日本の施設ごと転移してるんだ。で、その背後に“誰か”がいる」


「……」


「神の仕業、なんておとぎ話で片付けられるかよ。これは、俺たちの国のどこかにある“意図的な力”だ。

犯罪者を異世界に送り込んで、“処分”してる。……そう思うのが妥当な線だが、知りすぎても消されちゃうなんてドラマすぎるぜ。それにしてもなぜ駐在なんて捜査に従事しない人も飛ばされたのかねぇ」


守は深く息を吐き、頭を抱えた。

王から押し付けられた契約。

そして今、遠藤が持ち込んだ現実世界の陰謀。


全てが一つに繋がり始めていた。


「……陰謀だな。間違いなく。島にこんなハイテクな駐在所がある事自体も陰謀に思えるよ」


守の声は低く、重く落ちた。


遠藤はにやりと笑う。


「だろ? こりゃもう、俺たち二人で調べるしかねぇ。なあ、駐在さんよ」


遠藤は冗談めかしながらも、本気で言った。

今更ながらお互いのことを自己紹介しつつ、守は自身のスキルがなんなのかわからないことも肩をすくめながら伝えた。


「スキルなら俺が調べてやるよ、分かればだけどな」

  

遠藤は目を閉じ、集中する。

「――検索:守のスキル」


次の瞬間。

脳内に冷たい拒絶の声が響いた。


『この検索は許可されていません』


遠藤の体がびくんと痙攣し、鼻から鮮血が滴り落ちた。


「遠藤!」


守が駆け寄るより早く、遠藤は椅子ごと崩れ落ちた。


「おいっ、大丈夫か! 遠藤!」


白目を剥いたまま、しばらく動かない。

やがて浅い呼吸が戻り、ゆっくりと瞼が開いた。


「……っ、いてぇ……頭割れる……」


遠藤は額を押さえながら呻いた。

駐在所の室内。

遠藤は畳にごろりと寝転がり、鼻に詰めた布を押さえながら呻いていた。


「……くそ……検索、拒否されるなんて……初めてだ……」


守は腕を組んで立っていた。


「お前、マジで死ぬかと思ったぞ。無理すんな。……けど“俺のスキル”は検索すらできないってことか」


遠藤は顔をしかめつつ、付箋に震える字で書き残す。

「“許可されていません”……つまり、誰かが意図的に制御してる……お前のスキルは、ただの神からの贈り物じゃねえ。別の力が絡んでる」


沈黙。

そしてその沈黙を駐在所のドアを勢いよく開けて破るものがいた。


「守、大変だったね。調査にいくならこれを持って行ってよ」


アデルが差し出したのは、黒革のケースに収められた奇妙な仮面。

ガスマスクのように口元を覆い、両頬には小さな水晶ボタンがはめ込まれている。


「通信魔道具です。片方を押せば声を届け、もう片方を押せば相手の声が聞こえます。顔に装着したまま、常に通話が可能です」


守はそれを受け取り、試しに装着してみた。

鼻から顎までを覆う異様な感覚。

頬の水晶を押すと、耳元に遠藤の声がクリアに響いた。


『おーい、聞こえるか? すげえな、これ。Bluetoothどころじゃねえぞ』


守は思わず笑った。

「まるで特殊部隊だな……」


アデルは真剣に頷く。

「今回、あなたは単独で調査に赴いてもらいます。王からの命令でもあり、村を守るためでもある」


守は苦い顔をして、窓の外を見やった。

広場には、相棒のモモちゃんが子供達と戯れあって遊んでいるのが見える。

駐在所横に置かれたパトカーも目に入るが、電気自動車の航続距離では到底辿り着けない。

使えれば移動要塞になり得ただろう。


「……パトカーが動かせればよかったんだがな。途中で電源確保できねえ世界じゃ、どうにもならん」


遠藤が起き上がり、にやりと笑った。

「まあ、お前にはモモちゃんがいるだろ。飛べるんだ、最高じゃねえか」

「モモちゃんは飛べないよ、ダチョウみたいに走るのが早くはあるけどさ」


装着した仮面の片側を軽く叩いた。


「じゃあ決まりだ。俺が現地調査に行く。お前らは駐在所から情報サポートを頼む」


アデルが真剣に告げる。

「必ず、通信は絶やさないでください」


遠藤も付箋を机に叩きつけるように言った。

「こっちでも検索でサポートする。……だが、守。お前のスキルだけは……迂闊に触れねぇ方がいい」


守は短く答えた。

「了解。……じゃあ、行ってくる」


モモちゃんの背に跨がり、拳銃の重みを腰で確かめる。

「モモ、はしる!」


ダイレクトに揺れ、風を切りながら、駐在所と村を離れていく。


仮面の中、守は小さく呟いた。

「……相棒、今回も頼むぞ」


モモちゃんが低く鳴き声を返し、北の極寒の空へ走り出した。

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