第3部第7章 新たなる戦禍
夕暮れの村は、酒の匂いと笑い声で満ちていた。
さつまいも豊作の祝宴。難民たちも混ざり、焚き火の周りでは子供たちが歌を口ずさみ、男たちは樽酒を回していた。
だが、その輪の中から突然怒声が上がる。
一人の男が、酒に呑まれて暴れ始めた。顔は紅潮し、拳は誰彼かまわず突き出される。
「またか……」
守は立ち上がり、村人たちと共に男を取り押さえた。だがそのままでは終わらない。
村の中央にある広場に、木造の簡素な「小屋」があった。格子と鍵がついたその中に、暴れる男を放り込む。
「出せぇ! 出せぇ!」と叫ぶ声が広場に響き渡る。
村人たちは笑いながら
「明日の朝までだな」
「冷えた頭で反省してもらおう」
と口々に言う。
守は小屋の前で腕を組み、ぼそりと呟いた。
「現代じゃ大問題だよなぁ……。人権侵害だ、拘禁だ、すぐに大騒ぎになる。でも――」
ガシャン、と小屋の格子を閉めながら、苦笑する。
「……これが一番効果あるんだよな。誰が暴れたか、村中に一目でわかるし、本人も恥ずかしいから二度とやらなくなる」
子供たちが
「またおっちゃん捕まった!」
と囃し立てると、男はうなだれて黙り込んだ。
小さな村の“保護室”は、こうして秩序を保っていた。
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数日後。
アデルに王都からの呼び出しが届いた。
「王命につき、すぐに王都に参上せよ」と書かれた封蝋の手紙を前に、アデルは深々と息をつき、守に頭を下げた。
「しばらく王都にいきますね。村をお願いします、守さん」
「おいおい。俺はただの駐在だっての」
「駐在こそ、村の盾でしょうよ」
苦笑しながらもそう言い残して、アデルは王都へ発った。
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やがて、王都から勅使が派遣されてきた。
白馬に跨がった鎧姿の騎士たちが村の広場に降り立ち、村人を集めて宣告する。
「先の襲撃を為した犯罪者どもは、王都騎士団が残らず討伐した。安心せよ」
その声に村人たちは安堵の声を上げた。だが勅使は続けて言った。
何を話しているかはわからないが、村人はどよめいた。
勅使は守に箱の様なものを手渡し、開いてみると聴き慣れた声が届いて来た。
「駐在殿。汝は王の御前に召されている。速やかに支度せよ」
アデルの声だった。
守は戸惑いを隠せなかったが、アデルの声を信じ、モモちゃんを駐在所に残して勅使と共に行く事に決めた。
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王都の大広間。
煌びやかな柱の並ぶ謁見の間で、守は王の前に跪いた。
白髭の王は厳しい眼差しで言葉を放つ。
アデルが間を取り持って話す姿は、普段のふざけている者とは思えなかった。
「駐在よ。そなたの働き、すでに聞き及んでおる。村を守り、民を救った功績、称賛に値する」
「は、はぁ……」
自分がやるべき事をしないで今更なにをという気持ちが、重苦しい空気をさらに居心地悪くした。王の声が低く重く落ちるもアデルとの声のトーンの違いに調子が狂う。
「だが――事態はさらに深刻だ」
謁見の間に広げられた地図の上で、王の指が北を指し示す。
「極寒の地に、突如として巨大な建造物が現れた。そして近くの街が丸ごと占拠されたのだ」
守の心臓が強く跳ねる。
「……建造物、ですか?」
「うむ。あの異様さは人の手によるものとは思えぬ。すでに斥候が数名、戻らぬ」
謁見の間に重苦しい沈黙が広がった。
守は拳を握りしめ、無意識に腰の拳銃に手を触れる。
――再び、戦いの火が灯ろうとしていた。




