第3部第6章 自警団の始まり
火と血の臭いにまみれた夜から、幾ばくかの時が過ぎた。
村は再び静けさを取り戻しつつあった。
壊された家々は、北から来た難民たちの手も借りて少しずつ建て直されている。幸いな事に畑は戦禍を免れて息を吹き返し始めている。
特に――
「すげぇな、さつまいもってやつは……」
守は畑に並ぶ膨らんだつるを眺めながら、苦笑いを浮かべた。
異世界に来てから激動だった中、スクスクと成長していく緑達は、もはや自分の子供という感覚。保存も効く。焼いてもうまい。煮ても、干しても腹の足しになる。
この大地に根づいてくれる食物は、村の空気すら変えてしまった。
子供たちが「いも、いも!」と駆け回り、モモちゃんもいっぱいに詰められた袋のさつまいもを咥えて、にこにことこちらに差し出してくる。
「もも! これ、ももとった!」
「おお、ありがとうな。とりあえず今から蒸すか?」
「んー!食べたい?」
と首を縦に振る。どっちなのかわからないが、とりあえず蒸して食べる事にした。
「うまい!」
冷ました蒸かし芋をパクパク食べる様も、もはや癒しだ。
⸻
だが、人が増えるということは、同時に摩擦も増えるということだった。
北から流れてきた難民たちは、必死に生き延びてきた者ばかりだ。痩せこけ、心に余裕がない者も多い。
もともとの村人との間で土地や家、食べ物をめぐって小競り合いが絶えなかった。
「おい、それは俺たちの畑だ! 勝手に入るな!」
「うるせえんだよ!腹減らして死ねっていうのかよ!」
そんな怒声が、日常のどこかに必ず響いていた。
腹が減って盗みを働く、貧困が悪を生むのは常だ。
だからこそ、炊き出しの出番だった、備蓄されているアルファ米や、収穫されて残っているさつまいもを差し出す。
少しずつ、飢餓を起因とした諍いは無くなって来た。
移住した者たちも、村をあげて開墾していくことで、働き口と食料の問題も徐々に安定していったのだ。
しかし、守は頭を掻きながら、不服そうにため息をついた。
「はぁ……。本当は国が支援するもんだろ?いや、まぁ俺も公務員なんだけどさぁ。この国のじゃないんだよっ」
アデルが隣で笑いながら頷いた。
「小さな村を支援するなんて、この国には中々ねぇ、それに人が増えれば、必ず衝突も増えます。ですが、守さんが来たから、これで済んでるんだよ?以前の村の財政なら、村は割れてしまうでしょうね」
「いや、俺はただの警察官で……しかも駐在所勤めの下っ端だぞ。大事件を解決してたわけでもないし」
「階級の問題じゃないんですよ!腹が満たされたら人間なんとかなるんだから」
アデルは涼しい顔でそう言った。
守は苦笑いを浮かべるしかなかった。
⸻
こうして、人が増えて、なんだかんだでトラブルが増えた村では自然に「自警団」が発足することになった。
守を中心に、昔の防護棒を模した棒を手にした村人や難民が集まり、最低限の見回りをする。
名ばかりの組織だが、夜になると村の入り口で松明を掲げて立つ者が現れ、昼間は畑で作業する合間に「困ってる奴はいないか」と声を掛け合う。
「守さん、そういえば……俺たち、もうしっかり“交番”として機能してるんじゃないか?」
「……いや、もう“交番”どころか、“署”だな」
アデルが笑った。
笑いながらも、その背後には火を吹き荒らした夜の記憶がある。だからこそ、人々は真剣に見回りを続けた。
⸻
そんなある日。
守は駐在所の机に広げた紙切れに「当番表」を書いていた。
「班ごとに分けて夜警……こりゃ本当に交番だな……」
窓の外から子供たちの声がする。
「いも! いもー!」
振り向けば、モモちゃんが子供たちの輪の中に混じって遊んでいる。彼女も少しずつ言葉を覚え、村の生活に溶け込んでいた。
守は思わず口元を緩める。
「……のんびりしてるようで、着実に変わってきてるな、この村も」
外では、松明を掲げた村人が「今夜は北側を見回る」と声を掛け合っているらしい、今だにアデルがいないと言葉がわからないのは悔しいものだ。
守はその光景を見つめながら、心の奥でふと問いかけていた。
――本当にこれで守れるのか?
――また、あの夜のような連中が来たら?
その答えはまだ、見つかっていなかった。




