第3部第2章 戦火の導火線
守が畑で作業していると、突然モモが騒ぎ出した。
「きゅ、きゅいーっ!」
空を見上げると、黒緑色の巨大な影が旋回していた。鱗を光らせ、広げた翼はまるで帆船の帆のようだ。
「な、なんだあれはっ!? ドラゴン!? マジかよ、火でも吹くのか!? やべぇ、翼でビルくらい落とせそうだぞ!」
守は畑の鍬を放り出し、子どものように目を輝かせた。
「あれ、絶対にブレス吐くタイプだろ!? 火炎放射とか氷とか電撃とか――」
飛竜が地面に降り立ち、巻き上がる風で畑の苗がばたばたと揺れる。
その背から飛び降りたアデルは、慌てて手を振った。
「守さん、違う! こいつは飛竜っていって、人を乗せて飛ぶんだ! 火なんて吹かないし!」
「えぇーっ!? なんだよ夢ねぇなぁ!」
守ががっかりした顔をすると、アデルは額に手を当てて溜息をついた。
「そんな場合じゃないんだ! 王都で聞いた……異世界から来た犯罪者たちが、村を襲ってくるかもしれない!」
守は驚きに目を見開いたが、すぐに真剣な顔に戻る。
「……わかった。詳しく聞かせろ」
二人は駐在所の執務室に入った。ソーラーパネルで灯された蛍光灯が、静かに室内を照らしている。アデルは言葉を選ぶようにして、兄羽康隆の存在を伝え始めた。
「俺と同じ……日本から来た人間が、王都に捕らえられてた。自白魔法で聞いたんだ。彼は刑務所にいて、気づいたらこの世界に飛ばされてたらしい」
「刑務所……?」守は眉をひそめた。
「ああ。そして……この世界に来た人間には、神と名乗る存在から“スキル”が与えられる。捕まってたやつの場合は『契約履行』っていう、契約を必ず守らせる力だった。だけど、同じ房にいた他の連中も一緒に転移してきていて……そいつらは強力なスキルを持ってるんだと思う。好き勝手に暴れているみたいで捕まってないんだ。」
守は無言でアデルを見つめた。
神だの、スキルだの、到底理解できる話ではない。だがアデルの真剣な目を見れば、それが冗談ではないことは伝わってきた。
「……つまり、そのスキル持ちの犯罪者が、俺たちのいる場所に来るかもしれないってことか」
「可能性は高い。王都でも襲撃が起きていた。……守さん、この駐在所は目立つ。彼らからしたら警察官なんて復讐の的でしかないだろ?危険しかない。」
守は深く息を吐いた。
(スキル? 契約? 神? 何を言ってるのか正直ちんぷんかんぷんだ……だが、アデルは嘘を言ってる顔じゃない。なら俺は、俺の仕事をするだけだ。守るべきは、ここに住む人たちだ)
外で飛竜が再び翼をたたみ、低く喉を鳴らす。
その周りをくるくるとモモちゃんが回っているキテレツな状況なのに、戦の気配がじわりと混ざっていった。




