表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界駐在所  作者: clavis


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/79

第1部第3章 大人気桃色ヒーロー

 駐在所での生活が始まって数週間が過ぎた。


 モモちゃんはすっかり庭や駐在所に馴染み、俺の布団の横で丸くなって寝るのが日課になっている。

 子どもたちも毎日のように駐在所に遊びに来て、モモちゃんと鬼ごっこをしたり、庭の小さな畑を手伝ったりしていた。


「モモー! オニゴッコ!」


「駐在さん、鬼役やって!」


「……おい、俺か?」


 羽音をバサバサさせながら庭を走り回るモモちゃんを追いかけ、俺は汗だくになりながら子どもたちと一緒に鬼ごっこに興じる。

 モモちゃんの俊敏さは想像以上で、俺の腕では捕まえられないことも珍しくなかった。



 ある日の午後、子どもたちが駐在所に集まった。


「ねえ、モモちゃん、今日は何して遊ぶ?」

「マモル、アソブ!」


 子どもたちは歓声を上げ、モモちゃんも「モモー!」と鳴いて羽をバタバタさせた。


「……お前、言葉がどんどん増えてるな」

「モモ、オイシイ!」

「いや食うな! それは砂糖の袋じゃ!」


 駐在所の廊下に砂糖の袋が転がり、モモちゃんがそれを齧ろうとしたので慌てて取り上げた。


「モモー!」


 どうやら「怒られた」という意味で鳴いているらしい。

 口調や動きで感情を表現するため、子どもたちも「モモちゃんが怒ってる!」と大騒ぎになった。



 その日、駐在所に小さな事件が持ち込まれた。


「駐在さん、ネコが川に落ちてる!」


 小学生のユウタが息を切らせて報告する。

 どうやら川遊びをしていた子猫が、岸辺で滑って川に落ちたらしい。


「よし、モモ、行くぞ」


「モモー!」


 駐在所の庭から飛び出すと、モモちゃんはまるで犬のように川へ駆けていく。

 赤い瞳が真剣そのものだ。


「おい、まさか助けるのか?」


 川の手前で立ち止まり、モモちゃんは首を傾げて子猫を見つめる。

 その後、羽を広げて子猫の方に滑り込み――驚くべきことに、子猫を背中に乗せて岸まで運んだのだった。


「うわあ、すげえ……!」

「モモちゃん、ヒーロー!」


 子どもたちは大騒ぎで拍手を送る。

 俺も思わず膝をついて頭をかいた。


「……もう駐在所の守護神だな、お前は」


「モモー!」



 その夜。


「マモル、オヤスミ」


 モモちゃんは俺の布団に丸くなり、疲れた羽を広げて眠る。

 子どもたちの笑い声、川での小さな救出劇、日中の庭の騒ぎ……。

 すべてが、俺にとってかけがえのない日常になっていた。


「……駐在所に来てよかったな」

「モモ、スキ」


 モモちゃんの小さな鳴き声に、俺は静かに頷く。



 数日後、島の小さな祭りが開かれた。


「駐在さん、モモちゃんも連れて行こうよ!」


「え、俺が……?」


「いや、モモちゃんだけでもいい!」


 祭り会場に着くと、モモちゃんはまるでスターのように子どもたちに囲まれ、注目の的になった。


「モモー!」

「かわいい!」

「写真撮ろう!」


 大人たちも次第に笑顔になり、「駐在所の新しい家族」が島全体に認知され始める。

 子どもたちはモモちゃんを抱っこしたり、踊らせたり、モモちゃんも楽しそうに返事をした。



 そんなある日、ちょっとしたトラブルが発生した。


 駐在所の裏庭で、モモちゃんがトマトの棚を倒してしまったのだ。


「ぎゃあ、モモちゃん!」

「モモー!」


 倒れた棚の下には土まみれのトマトが転がっている。

 俺はあきらめ顔で子どもたちを見ると、みんな笑って手伝い始めた。


「駐在さん、モモちゃんって意外とやんちゃだね!」

「でも憎めない!」


 その言葉通り、モモちゃんは反省の様子もなく、俺の肩に頭をもたげて「モモー!」と甘える。

 俺は頭を抱えながらも、心の中では「もう家族だな」と思った。



 日が沈む頃、駐在所の縁側で俺とモモちゃんは並んで座っていた。


「……今日も一日、疲れたな」

「モモ、アソブ!」

「いや、もう遊ぶのは終わりだ」


 モモちゃんはくすぐったそうに羽を震わせ、俺の膝に頭を押し当てる。

 その姿に、俺は思わず笑った。


「……お前、もう本当に家族だな」

「モモー!」


 そうして、モモちゃんと俺、そして子どもたちとの日常は、今日も静かに穏やかに流れていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ