第2部第14章 紫の希望
アデルとコーヒーを飲みながらふと、思いつく。
せっかく同郷の人間に出会えたんだ、お茶菓子でも出すかと、アデルを待たせて、駐在所の中に戻る守の目に冷蔵庫脇に置かれた段ボール箱が目に入った。
ガムテープの隅には油性ペンで書かれた文字が残っている。
「――“差し入れ。焼き芋でもして食べてくださいね”……」
思わず声に出して読んでしまった。あの島で、ご近所さんが気を利かせて持ってきてくれたものだった。転移のドタバタで忘れ去られ、手をつけないまま残っていたのだ。
「……サツマイモ?」
段ボールをのぞき込んだアデルが、目を輝かせた。
勝手に入ってくるあたり、遠慮がない人間なのか。
「そうだ。島の人からの差し入れでな。すっかり忘れてたよ」
「これは大発見だ!」アデルは身を乗り出した。
「丈夫で育てやすい。腹持ちもいい。村で栽培できれば食糧事情が劇的に改善するぞ!」
守は腕を組んで唸った。
「でもな……異世界の土でちゃんと育つのかは未知数だ。俺の家庭菜園は駐在所の敷地の土でやってるけど、それだってここに来てから手探りだしな」
アデルは真剣に頷く。
「試すしかない。少しでも希望があるならやるべきだ」
モモちゃんがぴょんと箱に飛びついてきて、芋にくちばしを突っ込もうとする。
「もも! たべるー!」
「こら、勝手に食うな!」守が抱き上げると、モモちゃんは口を尖らせて「けちー」と言う。
その様子にアデルは吹き出しながら笑った。
さつまいもを数本取り出し、駐在所の台所で蒸すことにした。
鍋の湯気が部屋を満たし、割った中身は黄金色に輝いている。
「甘っ! こんなに美味かったか?」
守が頬張ると、モモちゃんも夢中で食べ始める。
「ほくほくー! おいしー!」
アデルは静かに噛みしめ、遠い目をした。
「……懐かしい。」
「よし、さつまいも補完計画を立てよう」
アデルは真剣な表情に戻る。
言ってる事はどう考えてもパロディ感が否めないが。
「島の人の差し入れとして残っていたこの芋を、村で栽培する。まずは試験的に植えてみて、この土地で根付くかどうかを確かめる」
守は窓の外の畑を見やりながら、心の奥に灯る期待を隠さなかった。




