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異世界駐在所  作者: clavis


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21/76

幕間

 出発の支度は簡素なものだった。

 村人から渡されたのは食料の籠と、道を示す手だけ。

 武器は……持たなかった。持っていけなかった。

 もし相手が本当に神を従えるような存在なら、剣一本でどうにかできるものではない。

 村を救ったというその“人間”は、影から異形を呼び出し盗賊を空に吊るし上げ、神が引き裂いたと噂されている。

 だが、その男とまともに会話を交わせる可能性があるのは――村で唯一「完全翻訳」のスキルを持つ自分しかいない。


 足を前に出すたびに、心臓が大きく跳ねる。

 完全翻訳――確かに便利なスキルだが、戦う力はない。

 もし交渉に失敗すれば、それで終わりだ。


 (……俺には刃も魔法もない。ただ言葉を繋ぐだけ……王都にいっても魔法は一切使えなかった。最上級生活魔法の翻訳だってただのスキルでしかないんだよなぁ、この世界って土下座通用するのかな...)


 脳裏に浮かぶのは、盗賊を引き裂いたという惨状。

 同じ“人間”だと聞いてはいるが、神を従えるような存在に近づくなど、本能が拒否する。

 それでも――村人たちの期待が背中を押した。


 やがて、木々の隙間から異様な建物が姿を現した。

 角ばった屋根、この世界では見たこともない材質。

 村人の話にあった“あの人”が住まう拠点だ。

 だか、知っている。

 僕はこれを知っている。

 この世界に前にたまに目にしていたもの。

 なぜここにこれがあるんだ?

 アデルの目が、玄関に掲げられた板に吸い寄せられる。

 そこに刻まれた文字――交番。


 「……まさか」


 かつて日本で目にした、あの看板。

 街角にあたり前のようにあった治安の象徴が、この異世界にぽつんと存在している。


 それはつまり――あの人物もまた、自分と同じ異邦から来た人間であることを意味していた。


 しかし安堵よりも先に、背筋を這い上がる恐怖があった。

 (俺と同じ“転生者”……けれど、神を従える存在……なんでこんなに差があるんだよっ)


 足が止まりそうになる。

 だが、ここで引き返すわけにはいかなかった。

 村人が望んでいるのは、自分のスキルで彼と繋がることだ。


 「……行くしかない」


 震える声で自分を奮い立たせ、アデルは駐在所の扉へと歩み出し

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