表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界駐在所  作者: clavis


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/77

第2部第9章 死活問題

 村人たちが帰った後、守はしばらく縁側に腰を下ろし、ぼんやりと庭を眺めていた。

 だが、安堵の時間は長くは続かない。現実的な問題が残っている。


 「……トイレ、どうすっかな」


 駐在所の水洗トイレは、流すたびに水は升へと落ちる。だがその先、繋がっているはずの下水管が、この世界には存在しなかった。

 この前使用したところで升の底でただ水が淀み、悪臭を放つばかり。

 「このままじゃ使えねぇ……」


 仕方なく守は、倉庫からスコップを引っ張り出し、庭の一角に目をつけた。

 図面を広げ、「確かこの辺に管が通ってるはずなんだが……」と独り言を漏らしながら土を掘り返す。

 しかし、いくら掘っても、コンクリートの下水管は出てこない。


 「……やっぱり切り取られたんだな」


 現実を突きつけられると同時に、土を掘り返す重労働が待っていた。

 シャベルを突き立て、土を掘り起こし、汗をぬぐい、また突き立てる。

 太陽は容赦なく照りつけ、背中の制服シャツは汗で重くなる。


 昼過ぎには、手のひらの皮が薄く剥け、握力も限界に近づいていた。

 「重機さえあれば、一発なのに……」

 吐き捨てるように呟きながら、それでも止めるわけにはいかない。


 ようやく、庭の端に大きな穴ができあがった。

 試しに升からバケツで水を流し、掘った道へと誘導する。

 泥水はゆっくりと、掘った穴へ吸い込まれていく。

 「……なんとかなるか」


 その場に膝をつき、スコップを突き立てたまま、守は空を仰いだ。

 体中が鉛のように重い。


 ふと視線をやると、モモちゃんが穴の近くにちょこんと立ち、くちばしで地面をつついている。

 「お前もそこで用足せばいいからな。トイレまで来んなよ」

 「ピィ!」と嬉しそうに鳴き、モモちゃんは羽をぱたつかせた。

 守は乾いた笑いを漏らすしかなかった。


 夜が近づくと、守は強制的に気持ちを切り替えた。

 「さぁて……夜間警戒だ」


 昼間の重労働で全身が鉛のように重い。

 まぶたは勝手に落ちてきて、意識はすぐにでも闇に沈もうとする。

 だが、昨日の盗賊の惨状が脳裏をよぎると、横になるわけにはいかなかった。


 駐在所の出入り口の鍵を再確認し、防犯カメラをつける。

 モニターに映る夜の外は、黒い影が揺れるばかり。木の枝か、それとも人か。

 どちらとも言えぬその曖昧さが、守の心をじわじわと削っていった。


 三十分ごとに玄関を開け、夜風を受けながら周囲を目で確認する。

 草むらでガサリと音がすれば、心臓が跳ねる。

 「……昔話でしか聞いた成田闘争の時、先輩たちはこんな気持ちだったのかな」

 誰に聞かせるでもなく呟く。警戒を解けば、何が忍び寄るかわからない恐怖。

 ただそれを押し殺し、夜をやり過ごすしかなかった。


 室内に戻ると、モモちゃんが布団の上で丸くなって眠っていた。

 小さな寝息。柔らかなピンクの羽毛。

 守はしばらくそれを見つめ――ほんの少しだけ、その安心感に縋った。


 「……何かあれば起こせよ、モモちゃん」

 返事はなく、モモちゃんはすやすやと眠っている。

 守は椅子に腰かけ、モニターに目を向けたまま、意識をつなぎとめようと必死だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ