幕間
あの夜のことを、我らは忘れられぬ。
耳を裂くような奇声――獣の咆哮とも角笛とも違う、鉄を絞りあげたかのような異様な音。
さらに、闇を切り裂く二つの白き光が村を照らした。
昼を無理やり引きずり出したかのように鋭く冷たい光に、木々も岩も、盗賊たちもすべてが暴かれた。
赤き光は回転し、地を血に染める。
あの音と光は、人の手によるものとは思えぬ神のしるしだった。
そして、その中から現れたのは、黒き箱を操る人の型をした者と、彼の影から湧き出た裁きの者たち。
盗賊たちは一人残らず空に磔られ、禍々しき神に笑いながら引き裂かれていった。
我らはただ震えるしかなく――あれを神の裁きと信じざるを得なかった。
翌日、供物を持ち、神の使いと見えた男のもとへ向かった。
我らは畏敬を示すため、籠に実りや穀物を詰めて差し出した。
だが、男は警戒心を隠さず、籠を見て怪訝な表情を浮かべる。
その仕草に、胸が冷えた。なぜだ? これは喜びを示す贈り物のはずなのに。
そのときだ。男の隣にいたルイン――だが、なぜか羽毛が鮮やかな桃色に染まった一羽が、籠へ顔を突っ込み、うれしそうに食べ始めたのだ。
「食べていいの?」と言わんばかりに、嬉々として穀物を頬張る姿に、籠を差し出した若者は恐怖のあまり後ずさった。
ルインは、空を駆け、大地を翔ける誇り高き鳥。
本来は深い橙から赤銅色の羽を持つもの。
なのに、なぜあれは桃色なのだ?
神の使いだからか、それとも……。
モモと呼ばれたその鳥は、後ずさる村人を見て、小首を傾げながら声を上げた。
「モモ、こわくないよ?」
その響きの意味は分からない。
だがその無邪気な仕草に、恐怖と畏敬がないまぜになり、胸は混乱に満ちた。
「なぜ供物を怪訝な顔で見たのだ?」
「なぜ我らを救った?」
「そして、なぜルインは桃色なのだ?」
答えはなく、ただ神秘だけが残った。
供物を受け取った男は、依然として警戒を解かず、ただじっと我らを見据えていた。
我らもまた言葉を投げかけるが、その異国の顔は微動だにせず、何一つ通じぬ。
結局、沈黙と困惑だけが残り、我らは籠を置いて、頭を下げながらその場を去るしかなかった。
帰り道、誰も口を開こうとしなかった。
だがやがて、ひとりがぽつりと漏らした。
「やはり、神は人の姿を借りて降りておられるのだろうか……」
その問いに、誰も答えることができなかった。