表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界駐在所  作者: clavis
14/34

第2部第7章 訪問

――次に目を開けた時、窓から射し込む光は昼のものだった。

「……っ!」

 飛び起きた守は、心臓が凍りつくような思いで防犯カメラの映像を遡る。何も異常はない。玄関の鍵もそのままだ。安堵と同時に、胃の底から嫌な汗がにじむ。モモちゃんは、守の足元で羽を広げて爆睡していた。

「……寝過ごした。完全に警戒の空白だ……」

 自分の甘さを悔やみつつも、何事もなく生きていることに胸をなで下ろす。


 庭に出て家庭菜園を確認すると、苗は健在だった。だが、資材がなく、害獣対策などできるはずもない。しかもモモちゃんは、ちょこんと畑の縁に立って苗を見つめていた。

「勝手に食べないでくれよ」

「えー? ちょっとだけなら……」

 モモちゃんが首をかしげるたび、守は深い溜め息をつくしかなかった。


 そんな折、遠くから足音が近づいてきた。

 土の道を踏みしめ、数人の異世界人が姿を現す。武器はなく、籠を両手に抱えている。守は警戒心を露わにして一歩前に出た。

「……何を持っているんだ?」

 低く問いかける声に、異世界人たちは怯えるように体をすくめ、それでも両手で籠を差し出した。


 中には果物や干した穀物が詰まっている。

 守の胸をよぎったのは、毒――だった。見た目には分からない。信用する根拠もない。だが断れば、敵意と取られるかもしれない。

「……下手をすれば、命取りになる」

 汗が掌を濡らす。心臓が速くなる。


 その時、横から伸びた影が一瞬で籠に食らいついた。

「わーい! たべていいの!? モモ、たべる!」

 モモちゃんだった。果物を嘴でつつき、嬉しそうに丸呑みしていく。

 守が止める間もなく、ピンクの鳥は次々に籠の中へ首を突っ込んでいった。


 異世界人たちはその光景に驚愕し、恐怖に後ずさった。せっかく差し出した供物を、無邪気な鳥が貪るなど想像もしていなかったのだ。

「モモ、こわくないよ? おいしいよ!」

 羽をぱたぱたさせながら、モモちゃんは無邪気に笑う。


 守は額を押さえ、深く息を吐いた。

「……お前、ほんとに……」

 安堵と苛立ちと、そして得体の知れない不安。守はそれらを押し殺しながら、なおも籠を見つめ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ