第2部第7章 訪問
――次に目を開けた時、窓から射し込む光は昼のものだった。
「……っ!」
飛び起きた守は、心臓が凍りつくような思いで防犯カメラの映像を遡る。何も異常はない。玄関の鍵もそのままだ。安堵と同時に、胃の底から嫌な汗がにじむ。モモちゃんは、守の足元で羽を広げて爆睡していた。
「……寝過ごした。完全に警戒の空白だ……」
自分の甘さを悔やみつつも、何事もなく生きていることに胸をなで下ろす。
庭に出て家庭菜園を確認すると、苗は健在だった。だが、資材がなく、害獣対策などできるはずもない。しかもモモちゃんは、ちょこんと畑の縁に立って苗を見つめていた。
「勝手に食べないでくれよ」
「えー? ちょっとだけなら……」
モモちゃんが首をかしげるたび、守は深い溜め息をつくしかなかった。
そんな折、遠くから足音が近づいてきた。
土の道を踏みしめ、数人の異世界人が姿を現す。武器はなく、籠を両手に抱えている。守は警戒心を露わにして一歩前に出た。
「……何を持っているんだ?」
低く問いかける声に、異世界人たちは怯えるように体をすくめ、それでも両手で籠を差し出した。
中には果物や干した穀物が詰まっている。
守の胸をよぎったのは、毒――だった。見た目には分からない。信用する根拠もない。だが断れば、敵意と取られるかもしれない。
「……下手をすれば、命取りになる」
汗が掌を濡らす。心臓が速くなる。
その時、横から伸びた影が一瞬で籠に食らいついた。
「わーい! たべていいの!? モモ、たべる!」
モモちゃんだった。果物を嘴でつつき、嬉しそうに丸呑みしていく。
守が止める間もなく、ピンクの鳥は次々に籠の中へ首を突っ込んでいった。
異世界人たちはその光景に驚愕し、恐怖に後ずさった。せっかく差し出した供物を、無邪気な鳥が貪るなど想像もしていなかったのだ。
「モモ、こわくないよ? おいしいよ!」
羽をぱたぱたさせながら、モモちゃんは無邪気に笑う。
守は額を押さえ、深く息を吐いた。
「……お前、ほんとに……」
安堵と苛立ちと、そして得体の知れない不安。守はそれらを押し殺しながら、なおも籠を見つめ続けた。