表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界駐在所  作者: clavis
11/34

第2部第4章 それは正義かそれとも悪か

 夜を裂くサイレンの音が、不気味な静けさに包まれた異世界の大地に響き渡った。

 赤色灯が回転し、駐在所の電気自動車リーフは、村へと続く土道を滑るように進んでいく。


 時速は六十。決して速くはないが、舗装もされてない、見慣れぬ異世界の夜道には十分すぎる速度だった。

 ハンドルを握る守の指先には、汗が滲んでいる。

 隣を走るモモちゃんは、ピンク色の羽毛を揺らしながら軽々と車と並走し、時折楽しげに「クエッ、クエッ」と鳴いた。


「……モモちゃんは、元気だな」

 思わず呟く。だが守の胸中は、決して楽観的ではなかった。


 前方。村の方角。

 そこには――夜空を焦がす炎の明かりが、ちらついていたのだ。



 村に入った瞬間、守の目に飛び込んできたのは――惨状だった。


 家屋は燃え、土の地面に散らばるのは倒れた村人の影。

 耳に飛び込んでくるのは、怒号と悲鳴、そして鉄がぶつかり合う音。


「……なん、だよ、これ……!」


 守の喉が震えた。

 現実の日本では決して見ることのなかった暴力の光景。

 彼は本能的にハンドルを切り、リーフを止めると同時に車外へ飛び出した。


 サイレンと赤色灯が回り続ける。

 その光に照らされて浮かび上がったのは、刃物を振りかざし、村人を追い立てる盗賊たちだった。

 異様な装束。獣の皮を纏い、顔に汚れを塗りたくった男たち。

 まるで地獄が地上に現れたかのようだった。


「クエッ……」


 モモちゃんも異変を察し、羽毛を逆立てながら守の横に並んだ。


「……許せねえ……」


 守は拳を握りしめる。

 震えが止まらない。恐怖ではない。怒りだ。

 島で見守ってきた子どもたち、笑顔を交わした住民。

 そんな人々を重ねてしまったからだ。



 その瞬間――。


 守の足元。

 土に落ちた自分の影が、不自然に濃く、揺らめいた。


「……え?」


 影から、黒い腕が一本、ずるりと這い出してきた。


「なっ……!」


 さらに二本、三本……十本。

 無数の腕が土を掴みながら這い出し、守の背後から湧き出すように広がっていく。


「ッ!」

「ッ!?」

「!」


 盗賊たちが叫ぶ。

 黒い腕は彼らを次々と絡め取り、もがく身体を宙へと引きずり上げた。


「ちょっ……!? ま、待て……! 何だよこれ!!」


 守は後ずさった。

 自分の影から現れる化け物じみた現象。

 理解できるはずもない。

 ただ、止まらない。



 盗賊たちは一人残らず、宙に縛り付けられていく。

 まるで目に見えない杭に打ち付けられたかのように、両手両足を伸ばした姿勢のまま磔にされ、身動き一つできない。


 次の瞬間――。


 空が裂けた。


 紫黒の光を帯びた門が開き、その奥からなにかが存在を現した。

 異形。

 しかし、その顔はどこかにこやかに微笑んでいる。


「!」


 盗賊の一人が泣き叫んだが、次の瞬間、その体は黒い稲光に包まれ――引き裂かれた。

 血の飛沫はない。ただ、存在ごと消滅するように。


 次々と。

 一人、また一人。

 盗賊たちは「笑うなにか」の手によって、引き裂かれていった。


 盗賊たちが次々と宙に吊られ、禍々しい神の手によって引き裂かれていく。

 骨が砕け、肉が裂け、悲鳴が夜空にこだまする。

 しかし血は光となって霧散し、地上には残らない。


 守は全身を震わせながら、声を振り絞った。

「や、やめろ……! やめろォ……!」


 だが、なにかはその声を聞き、にたり、と禍々しく笑った。

 慈しむ笑顔ではない。

 祝福でもない。

 全身から不気味な威圧感を放ち、守の恐怖を楽しむかのような笑みだった。


 目の前で引き裂かれる盗賊たち。

 叫び声に震える守。

 そして、なにかの笑顔。


 その視線は守の全身を貫き、まるで**「楽しみの対象」として見つめている**かのようだった。


 モモちゃんが守の脚元にすり寄る。

「まもる……こわい……」


 一瞬の静寂。異形達は何も無かったように、守の影に次々と入っていく。なにかも門の中に姿を消し、門は消失した。


 炎のはぜる音と、遠くで泣き崩れる村人たちの声だけが響く。

 赤色灯が、なおも土の地面を赤く染めていた。


「……な、なんだよ……今のは……」


 守の膝が震える。

 汗が頬を伝い、呼吸が荒い。

 彼はただの駐在警察官だ。

 こんな、現実離れした力を持っていた覚えはない。


 だが――村人たちの目には、違って映った。


 怯えた視線。

 涙と土に濡れた顔で、彼らは震えながら、守を見つめていたのだ。


「…………」


 言葉は通じない。

 だがその目が語っていた。


――彼らにとって、この夜、守は「人ならざる力を操る存在」として刻まれた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ