課金で始まる異世界ライフ
——眩しい光の中で、タカミチは目を覚ました。
「……ここは、どこだ?」
湿った草の香り。青空。だだっ広い平原。どう見ても現代日本ではない。ぼんやりと脳裏に浮かぶ最期の記憶——スマホゲームのガチャに、月300万課金した直後、心臓がバクバクしてそのまま意識が飛んだ。
「まさか死んで……異世界転生?」
困惑するタカミチの目の前に、**どこかで見覚えのあるUI**が突然浮かび上がった。
> 【異世界転生おめでとうございます】
> 【前世の課金履歴を確認しました】
> 【課金石:999,999個を引き継ぎました】
> 【特典:初回ガチャ無限回転モード・UR排出率100%が有効です】
「いやいや、なんでソシャゲのログボがついてきてんだよ!」
ツッコミながらも、タカミチの手元には懐かしい“神ガチャ”の画面が表示されている。あの世に金は持っていけないが——課金履歴は持ち越せるらしい。
試しに回してみると——
「Sランク聖剣『虚空の斬姫』!? 不老不死の神獣『エンシェント・ドラコ』!? 全属性メイド騎士団!? 全部UR確定で出てくるんだけど……!」
数十万円していた激レアたちが、ガチャを引くたびにポンポン排出される。しかも無限回転。
笑いが止まらないタカミチの目に、次なる通知が飛び込む。
> 【課金石500,000個で『辺境領フルセット』を購入しますか?】
> 【購入特典:土地×1、屋敷×1、住民×300、城壁、防衛兵30人付き】
「……領地買えるんかい!!」
混乱しつつも、好奇心には勝てなかった。ボタンをタップ——いや、意思を示した瞬間、タカミチの背後に立派な石造りの館が現れ、旗印には見慣れぬ彼のエンブレムが翻る。
——こうして、タカミチは異世界で初日にして領主になった。
手にしたのは、魔物の出る辺境地ながら肥沃な土地と素朴な民。そして、桁違いの課金資産。
だが、その異常すぎる“転生特典”は、あっという間に中央王国の耳に届く。
「聞いたか? 課金で国を買った転移者が現れたらしい……」
「バグだ。あれはバグ人間だ……!」
注目と不信を一身に集める中、タカミチは満面の笑みでガチャを回し続ける。
「大丈夫、金ならまだある。……いや、石だったわ」
異世界無双の始まりだった——。