第7章: 「闇」
第7章: 「闇」
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警告:システムをインストールできる個体が検知されませんでした。
処理終了。
概要:
生命体は検知されませんでした。
****
西暦3152年。特異点の出現後――
「ああっ、頭が痛い! なんだか、体の中が蒸発していくような感覚がする…」
しかし、ここはどこだ?
何だ、この場所は?
確か…さっき、黒い奇妙な触手のようなものが視界を覆って――その後は?
――そうだ! 高校生の女の子を助けようと飛び出したんだ。あの子が男に押されて信号の青い横断歩道に転がったときに。
ああ、そうだった。忘れてたよ。不思議だな。
いや、それよりもっと不思議なのはこの場所だ…。ここは一体、どこなんだ?
死んだ後に行く世界って、こういうものなのか?それとも地獄か?
もしこれが地獄なら…なんだか期待外れだな。もっと恐ろしいものを想像していたけど、むしろこっちの方がマシかもしれない。
苦しまなくて済むなら、それが一番だ。
目の前には何もなかった。文字通り、何も。
彼の目が捉えられるのは闇だけだった。それには始まりも終わりもないように見えた。距離を定義することさえできなかった。何一つとして、空間を測ったり区切ったりできる基準となるものが存在しなかったのだ。
気づけば、自分が目を開けているのか閉じているのかさえ分からなくなっていた。
動こうと試みたが、何も感じなかった。この奇妙な場所に「いる」ようで、同時に「いない」ようでもあった。自分の体も感じられず、脳が命令を送るべき対象すらなかった。
「なんだ、これ?」
死んだ後の世界というものは、死んでみてもやっぱり理解不能らしい。そもそも本当に死んでいるのかどうかも分からない。
「…分からない。今の自分が何者かすら分からない。ここでただいることしかできない。そもそも『ここ』ってどこだ?それすら分からない…」
ただ一つだけ分かっていることがある。――それは、自分が自分だということ。もし自分でなければ、今こうして考えることも、起こったことを思い出すこともできないだろう。
彼はまるで話すように考えていた。しかし、実際には話せていない――そう思った。唇の動きも感じられず、自分の声も聞こえなかったからだ。
ここは「不可解な空間」だ――彼はそう名付けた。
「ヴァエル=ナール!」
暗闇の中で、誰かの声が響いた。
ヴァエル=ナール?
何だその言葉は? そう考えながらも、彼は混乱していた。誰かが話しているようだが……。
突然、その思考は再び中断された。
「ヴァエル=ナール!」
「ヴァエル=ナール!」
その言葉が何を意味しているのか、彼にはさっぱりわからなかった。ただ、唐突に響き渡るその声に、彼はなんとか意味を探そうとしたが、何度試しても答えには辿り着けなかった。
混乱と不安の中、彼は遠くに小さく光る光を見つけた。その光は、暗闇の中で異様なほど鮮やかに輝いている。
「ソリエン=ハ・ヴァロン・ダル=ネス」
また別の声が聞こえた。それも同じように意味不明な言葉だったが、先ほどのものとは違う響きだった。
やがて、その小さな光がみるみるうちに巨大化し、瞬く間に視界を覆い尽くした。暗闇は消え去り、全てがその強烈な光に染め上げられた。
何が起きている!?
何もわからない!
彼は心の中で叫んだ。しかし、その光があまりにも強く、何も見えない。
「カイロス・ヴェル=タイン、ドレイモル・ウル=タリヴ」
「オナール=カイ・ソリエン=ハ」
再び言葉が聞こえた。その声は今までよりもはっきりと、そして流れるように耳に届く。
最初、彼はそれが自分に向けられた謎めいた言葉なのだと思った。だが、耳を澄ませると、それらは暗号や隠された意味を持つものではなく、まったく未知の言語であることに気づいた。
そう理解した瞬間、彼は目を開けた。いや、正確には、今まで目を開けていると思っていたが、実は閉じていたことに気づいたのだ。それが何とも不思議で、彼はその理由を説明できなかった。
「ヴァロン=タイン=リア、ナイ・ヴァロス」
「イルン=レス・タリアル、カイ・ウル=ヴァリオン」
今度は、声が二つあることに気づいた。
二人いる……?
一人は男の声、もう一人は女の声だ。
彼の視界は徐々に鮮明になりつつあった。それは、真っ暗な状態から色がぼんやりと浮かび上がるような感じだった。
次第に、彼の視界が鮮明になる。まるで古いモニターが徐々に焦点を合わせていくかのように。
そして――完全に視界がクリアになった瞬間、目の前には見知らぬ男の顔が大きく映し出されていた。
だ、誰だこいつ!?
何なんだ!?
どうしてこんなに顔が近いんだよ!?
続く