第1話 / 第2話 : 俺の妹 / 天才ギタリスト楓
登場人物紹介
中川 煌大:本作の主人公。楓の兄。成績オール3の超絶凡人間。
中川 楓:煌大の妹。ふてぶてしいがほどほどにやさしい。成績はオール4で煌大よりはマシ。
俺の妹、楓は簡単に言うと「生意気」で「ふてぶてしい」。
だが、そのくせ「ほどほどにやさしい」からやっかいだ。
今朝もそうだ。朝食を食べ終えた俺がバイトに行こうと玄関に向かうと、楓がソファに寝転びながらスマホをいじっていた。
「行ってくる」
一応声をかけると、彼女は画面から目を離さずに言った。
「んー、雨降るかもよ。傘持ってけば?」
「天気予報、降らないって言ってたぞ」
「ふーん。なら濡れれば? 別に私には関係ないし」
俺は「なんだそりゃ」と呆れつつ、そのまま玄関を出た。でも階段を降りる途中で、なぜか傘が1本ドア脇に立てかけてあるのを見つけた。俺の傘だ。
……まあ、きっと母さんか父さんが置いたんだろう。そう思って傘を持って出かけた。
だが、その日の夕方、バイト先から出ると予報に反して土砂降りになっていた。傘が役に立ったのは言うまでもない。
帰宅すると、楓はいつものようにリビングでソファに転がっていた。
「傘、役立った?」
俺が黙っていると、彼女はニヤリと笑った。
「お前が置いたのか?」
「あー、別に? たまたま玄関にあったから、気が向いてそこに立てかけただけ」
そのふてぶてしい顔を見ていると、素直に「ありがとう」と言う気にもならない。
楓はこんなふうに、必要以上に優しくしない。でも、ギリギリのラインで俺を助けるのだ。その絶妙な「ほどほどさ」が、彼女らしいと思う。
そんな彼女は学校では何かと「お姉さん肌」だと評判らしい。クラスメイトの面倒をよく見るし、先生たちにも信頼されている。俺にはその片鱗すら見せないが、たまに垣間見える行動で納得することもある。
たとえば、数日前。俺が風邪で寝込んでいるとき、食欲がない俺のために部屋の前にコンビニのゼリーが置いてあった。もちろん「誰が置いた?」なんて聞いても楓は「知らない」とすっとぼけるだけだ。
「楓、お前ってさ……」
「なに? キモいこと言わないでよ」
「いや、なんでもない」
素直に感謝したくても、楓相手にはどうしても言葉が出てこない。俺たち兄妹の距離感はいつもこんな感じだ。
だけど、こんな不器用なやり取りを繰り返しているうちに、俺は徐々に気づき始めていた。楓がただの生意気な妹ではなく、俺の生活をどうにか支えてくれている存在なのだということをーー。
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その夜、リビングから音楽が漏れてきた。
俺の部屋で課題に取り組んでいると、耳慣れたギターのメロディが聞こえる。
「……またかよ」
楓は最近、エレキギターを買った。理由を聞いたら「気分」とだけ返されたが、俺はその手元の不器用な動きから、きっと「かっこいい」とかそんな理由だろうと踏んでいる。
リビングをそっとのぞくと、楓はギターを抱えてソファに腰掛けていた。ヘッドホンを片耳だけ外して、真剣な顔でコードを押さえる指先を見つめている。
「まだ下手だな」
俺がからかうように言うと、楓はギロッと睨んできた。
「うるさい。上手くなったらライブでもやってやろうじゃないのよ」
「その腕じゃ無理だろ」
「……っ、じゃあ聞いてくれる? 今日弾けるようになった曲、聞かせてあげるよ」
そう言ってギターを構え直す楓の目は、少しだけ挑発的だった。
「ふーん、どんな曲?」
「秘密。でも、すごいやつ」
「すごいやつって何だよ」
「聞けばわかる」
俺はなんとなく椅子を引き寄せて腰を下ろすと、楓は深呼吸をして、ぎこちない指の動きで弾き始めた。
音程は怪しく、リズムも少しズレているけれど、耳をすませるとそれは懐かしい曲だった。中学生の頃、俺がよく部屋で流していたバンドの曲だ。
「……これ、俺が聞いてた曲じゃん」
「アニキ、最近あんまり音楽かけてないけど、好きなんでしょ」
「……お前、覚えてたのか」
楓はギターを弾く手を止め、照れ隠しのように肩をすくめた。
「別に。たまたま耳に残ってただけ」
その言葉とは裏腹に、きっと彼女はわざわざ練習していたに違いない。
「ありがとな」
そう言うと、楓はふてぶてしい表情で笑った。
「別に。どうせ暇だったし」
本当にこいつは、素直じゃない。
けれど、この不器用な優しさが、俺の中でなんだか妙に心地よく感じられる瞬間がある。
「お前、案外ギター向いてるかもな」
「でしょ? そのうち、兄の尊敬を一身に集める天才ギタリストになる予定だから」
「お前のギター聴きながら尊敬できる日が来るといいけどな」
そう言って俺は部屋に戻った。けれど、その夜の楓のぎこちない演奏は、なんとなく耳に残って眠れなくなった。
彼女のふてぶてしさの奥には、確かに優しさが詰まっている――そう思える日が、少しずつ増えてきている気がする。
こんにちは!
現役高校生のAzsAです!
このタイトルは流行語大賞が「ふてほど」であることを知って『あれ…なんかラノベみたいな名前じゃね…?』という思考になり書き始めました。
実はこの主人公とその妹、苗字と名前は知り合いの名前を拝借しています。
何となく心当たりがある方、いるかもしれませんね。
小説投稿初めてなのでこれぐらいにしておきます。
次回更新は未定なのでご了承ください。