朝の蝶
翌朝、いつもよりも少しだけ早く目が覚めたフィリスは、昨夜の不思議な出来事を思い出しながら、ベッドからゆっくりと起き上がった。夢だったのか、現実だったのか、その境目が曖昧で、まるで現実が夢に溶け込んだかのような感覚が残っていた。
菜穂もすでに目を覚ましており、鏡の前で髪を整えながら、ちらりとフィリスの方を見て微笑んだ。「おはよう、フィリス先輩。昨夜のこと、まだ覚えてますか?」
「おはよう、菜穂。うん、覚えてるよ。あの蝶、本当に不思議だったね」フィリスはベッドの端に腰を下ろしながら、昨日の夜を振り返った。
「まるで夢の中で冒険していたみたいでしたね。あんなことが現実に起こるなんて、ちょっと信じられないけど……楽しかったです」菜穂は笑顔で答え、ブラシを通した髪を一つにまとめた。
「そうだね。あの光の中で、私たちが一緒に見た風景…あれは、きっと忘れられない思い出になると思う」フィリスは小さく伸びをしながら、部屋の窓を開けた。外から新鮮な空気が流れ込み、彼女たちの部屋を満たした。
その時、まだ寝ぼけているレイがベッドから起き上がり、髪をぐしゃぐしゃにしたままぼんやりと二人を見つめた。「なんだかよくわかんないけど、俺も不思議な夢を見た気がする……蝶が出てきて、何かを探してたんだ……」
フィリスと菜穂は顔を見合わせ、笑いをこらえながらレイに声をかけた。「あはは、レイもあの蝶を見たんだね。もしかして、全員が同じ夢を見てたのかな?」
「そうかもね。でも、夢にしてはやけにリアルだったから、なんか変な感じだよな……」レイは頭をかきながら、眠そうな顔で呟いた。
その時、もう一人のルームメイトがゆっくりとベッドから起き上がり、髪を整えながら静かに言った。「あの蝶の夢……私も見ました。けれど、それが夢なのか現実なのか、どちらかを判断する必要はない気がします。ただ、あの蝶が私たちに何かを伝えようとしていたのかもしれませんね。」
「そうかもね。もしかしたら、あの蝶が私たちに新しい一日を楽しく過ごせるように導いてくれたのかも。」フィリスは彼女の言葉に頷きながら、少し考え込んだ。
「まあ、なんであれ、今日も一日頑張ろうぜ。」レイは軽く肩をすくめ、少しずつ目を覚まし始めた。彼女は早速動き出し、いつものように活発な様子を取り戻していった。
「そうだね、レイ。今日も私たち、全力で行こう!」フィリスはその元気に引っ張られるように笑顔を見せた。
その後、フィリスたちは朝の支度を整え、寮の共用キッチンへと向かった。朝食を軽く済ませ、今日の授業や訓練の話をしながら、いつものように賑やかな時間を過ごした。
しかし、ふとした瞬間に、全員が同じように昨夜の不思議な出来事を思い出し、微笑みを交わす場面が何度もあった。それは、言葉に出さなくても心の中で共有している特別な経験であり、彼女たちの間に新たな絆をもたらしたようだった。
「今日の訓練、気合い入れていこうぜ。俺たちなら絶対に乗り越えられる!」レイが朝食を終えた後、みんなに向かって拳を上げた。
「うん、あの蝶が見せてくれた世界を思い出して、頑張ろう!」フィリスもその拳に軽くタッチして、笑顔を見せた。
「そうですね、私たちなら何でも乗り越えられます。頑張りましょう!」菜穂も二人に続いて元気よく応じた。
「……そうね、今日も良い一日にしましょう。」最後に、静かに彼女も同意し、4人は一緒に寮を出発した。
彼女たちが歩く道には、まだ薄明の光が優しく降り注ぎ、新たな一日が始まる予感に満ちていた。昨夜の蝶が示してくれたように、今日もまた、何か不思議で楽しいことが待っているかもしれない。彼女たちはそれぞれの心に小さな期待を抱きながら、未来への一歩を踏み出していった。




