深夜の蝶
夜も更け、部屋全体が静寂に包まれていた。フィリスと菜穂はそれぞれベッドに入っていたが、眠りに落ちるにはまだ少し時間がかかりそうだった。レイはすでに布団をかぶって静かに寝息を立てているが、その向こう側で本を読んでいた彼女は、まだページをめくる音を静かに響かせていた。
突然、部屋の中に小さな光がふわりと現れた。最初は誰も気づかなかったが、光は徐々に明るさを増し、まるで浮かび上がるように部屋の中央に現れた。それは一見、小さなランタンのように見えるが、どこか現実感がなく、幻想的な雰囲気を漂わせていた。
「フィリス先輩、見て…」菜穂がそっと囁き声でフィリスに声をかけた。彼女も目を見開いてその光を見つめていた。
「な、なにこれ…?」フィリスは驚きと好奇心が混じった表情で、光に目を奪われていた。彼女はそっとベッドから起き上がり、その光の方に歩み寄った。
その光は、まるで意志を持つかのようにふわりふわりと漂い、フィリスの手元でくるくると回り始めた。光は暖かくも冷たくもなく、不思議なほど心地よい感覚を与えてくれる。
「触ってみていいのかな…?」フィリスが躊躇いながら手を伸ばすと、光はゆっくりと彼女の手のひらに降り立った。まるで羽のように軽いその存在に、フィリスは微笑みを浮かべた。
その瞬間、光が少しずつ形を変え始めた。光は広がり、やがて小さな蝶の姿へと変わった。その蝶はフィリスの手のひらから飛び立ち、部屋の中を優雅に飛び回り始めた。
「すごい…蝶になった!」フィリスは小さな声で興奮を抑えきれずに言った。
その蝶はまるで生き物のように、静かに寝ているレイの上を飛び回り、そして本を読んでいた彼女のところにも飛んでいった。彼女は一瞬驚いたが、すぐに冷静な表情に戻り、静かに蝶を見つめた。
「これは……一体?」彼女は囁くように言いながら、手を伸ばして蝶に触れようとしたが、蝶はふわりと彼女の手を避けて、再び空中に舞い上がった。
蝶は再びフィリスのところに戻ってきて、その周りをゆっくりと回った。まるでフィリスに何かを伝えたいかのように、蝶は時折止まり、翅をゆっくりと動かした。
「もしかして……何か伝えたいのかな?」フィリスは蝶を見つめながら考え込んだ。なにか、懐かしい既視感のような感覚を覚える。
その時、菜穂がそっとフィリスの隣にやってきて、蝶を見つめた。「もしかしたら、私たちに夢を見せようとしているんじゃない?」
「夢?」フィリスが驚いた表情で菜穂を見つめた。
「うん。この蝶、きっと私たちがこれから見る夢の一部を見せてくれるんだと思う」菜穂は確信したように頷いた。
蝶はその言葉を聞いたかのように、再び光り輝き始めた。今度はもっと強く、部屋全体を柔らかな光で包み込んだ。その光の中で、フィリスと菜穂、そして本を読んでいた彼女も、静かに目を閉じ始めた。
光に包まれた部屋の中で、4人はそれぞれの場所で夢の世界へと誘われていった。夢の中で、彼女たちは不思議な森を歩き、光る蝶たちに導かれていく。どこか懐かしくも新しい風景が広がり、彼女たちは夢の中で一緒に冒険を楽しんでいた。
現実の部屋では、蝶の光がやがて消え、再び静寂が訪れた。まるで何事もなかったかのように、部屋は再び夜の闇に包まれていたが、その夜の出来事は、彼女たちの心に小さな温かな記憶として残った。
翌朝、フィリスは目を覚ましたとき、昨夜の出来事をぼんやりと思い出しながら、笑みを浮かべた。「なんだったんだろう、あの蝶は……でも、不思議と楽しかったな。」
「うん、きっと夢だったんだろうけど、なんだかリアルだったね。」菜穂も隣で目を覚まし、同じく微笑んでいた。
「あんたたち、何ニヤニヤしてんだ?」レイが少し寝ぼけながらも、二人を見て不思議そうに問いかけた。
「何でもないよ。ただ、ちょっと面白い夢を見ただけ。」フィリスが答えると、レイも軽く笑って「そっか」と言って、もう一度布団に潜り込んだ。
こうして、夜の不思議な出来事は、彼女たちの心にそっと刻まれたまま、新しい一日の始まりを迎えた。