寮での会話
夜が更け、寮の広い部屋にも静寂が訪れた。フィリスと菜穂はそれぞれのベッドに腰を下ろし、軽く会話を続けていた。二人が話している間に、先ほどの男っぽいルームメイト、レイが部屋に入ってきた。彼女はジャケットを脱ぎ捨て、気だるそうにベッドに倒れ込んだ。
「今日はほんっとに疲れたぜ……」レイは背伸びをしながら、のんびりとした声で言った。
「お疲れ様、レイ。今日は何してたの?」フィリスが微笑みながら尋ねた。
「ん? 特に何も。……いや、まぁ少しだけ、特別訓練プログラムの準備をしてただけさ。」レイは、わざとらしく肩をすくめた。
「それでそんなに疲れるなんて、レイらしくないね。何かあったの?」菜穂が軽く茶化すように尋ねた。
「別に……ただ、少し考えることがあってさ」レイは少し目を逸らしながら答えたが、その表情にはどこか心ここにあらずといった雰囲気が漂っていた。
「考えること?」フィリスが興味深げに聞き返すと、レイは少し間を置いてから言葉を続けた。
「まぁ、簡単に言えば…俺ってさ、本当にこのままでいいのかなって」レイは床を見つめながらぽつりと呟いた。
「何それ? レイがそんなこと考えるなんて珍しいじゃん」フィリスは軽く笑いながら、ベッドから身を乗り出してレイの顔を覗き込んだ。
「うるせぇよ、フィリス。たまには真面目に考えることもあるんだ。」レイは軽く舌打ちしながら、フィリスを避けるように顔を背けたが、その態度にはどこか照れが混じっていた。
「レイが真面目に考えてる姿なんて、ちょっと想像できないかも。でも、素直にいうなんてなんかかっこいいね」菜穂はニヤリと笑いながら言った。
「おい、菜穂までからかうなよ。俺だって、たまにはこういう時があるんだ」レイは少し顔を赤らめながら、拳を握りしめた。
「ふふっ、そっかそっか。じゃあ、これからも俺らしく頑張ればいいんじゃない?」フィリスは笑顔でレイの肩を叩き、励ましの言葉を送った。
「ふん! まあ、そうだな。お前らがいるから、俺もこうしていられるんだ」レイは小さく笑みを浮かべながら、フィリスと菜穂に感謝の気持ちを込めて言った。
その時、部屋の奥からもう一人のルームメイトが静かに現れた。彼女はゆっくりと歩み寄り、フィリスたちの会話をじっと聞いていた。
「レイがそんなことを考えるなんて、ちょっと意外……」彼女は小さな声で言ったが、その言葉にはどこか冷たさが感じられた。
「おいおい、聞いてたのかよ。」レイが少しむっとした表情で言い返すと、彼女は無表情のまま肩をすくめた。
「聞こえただけよ。あなたの声は大きいから、仕方ないでしょ」彼女の声は、まるで事実を淡々と述べているかのようだった。
「まぁ、いいけど……」レイは軽く溜息をつき、再びベッドに倒れ込んだ。
フィリスはその様子を見て、和ませるように言う。「みんな、それぞれに悩みや考えがあるんだね。でも、こうして一緒にいられるのは、やっぱり嬉しいな」
「そうだね、フィリス先輩」菜穂も微笑みながら同意した。「みんなで頑張っていこうね」
だが、相変わらずこの2人の関係はギクシャクしているようだった。
その夜、4人の寮部屋は静かに夜の帳に包まれ、それぞれが自分の考えを巡らせながら眠りについた。どこか冷たい風が吹き抜けるような空気の中で、彼女たちは明日への準備を心の中で進めていた。




