朝の登校
フィリスと菜穂が寮の部屋で身支度を整えている頃、部屋の奥で静かに髪を整えていた彼女がふと立ち上がった。彼女は一言も発することなく、カーテンをそっと開けて外の様子を確認した後、黙ってドアへ向かい始めた。
「おはよう、もう行くの?」フィリスが少し戸惑いながら声をかけたが、彼女は軽く頷いただけで、無言のまま廊下へと消えていった。
「今日も無口だね……」フィリスは少し気まずそうに菜穂を見た。
「まあ、彼女はいつもそんな感じだし、仕方ないよ。私たちとはクラスも違うから、あまり接点がないんだと思う」菜穂はそう言って、フィリスを励ますように微笑んだ。
「そうだね。でも、なんか少し寂しいな……」フィリスは小さくため息をつきながら、鞄を肩にかけた。
部屋を出ると、廊下の向こう側からレイが現れた。彼女も登校の準備を終えたようで、ジャケットを肩にかけていたが、どこかそわそわした様子でこちらに歩いてきた。
「よっ、今日は早いじゃん」レイが軽く手を挙げて挨拶した。
「おはよう、レイ。まあね、今日は早めに行って授業の準備をしようと思って」フィリスが答えると、レイは「ふーん……」と軽く相槌を打ち、再び無言になった。
フィリスと菜穂が並んで歩き始めると、レイは少し距離を置いて後ろをついてきた。普段から仲が悪いわけではないが、彼女たちはあまり言葉を交わさずに寮を出た。
外に出ると、冷たい朝の空気が彼女たちを迎えた。フィリスは、ふとレイの方を振り返って言った。「レイ、今日は一緒に行く?」
「まあ、俺も別にいいけど……お前たちとは途中までしか一緒じゃないしな。」レイは少し照れくさそうに肩をすくめた。
「それでも、せっかくだし一緒に行こうよ。」フィリスが笑顔で言うと、レイは少しだけ安心したように頷いた。
三人はしばらく黙って歩いていたが、フィリスが何か話題を探そうと口を開いた。「そういえば、今日の数学のテスト、みんな準備してる?」
「……まぁ、それなりに。」レイが短く答えた。
「私も、一応ね。でも、正直不安かな……」フィリスは苦笑しながら言った。
「フィリス先輩なら、大丈夫ですよ。しっかり勉強してましたし」菜穂が励ますように言った。
「そうだといいんだけどね……」フィリスは少し弱気になりながらも、菜穂の言葉に感謝の気持ちを持っていた。
学校の門に差し掛かると、レイは「じゃあ、ここで」と言って、二人と別れるために立ち止まった。
「うん、またね、レイ」フィリスが手を振ると、レイは軽く手を挙げて応えた。
「じゃあな、頑張れよ。」レイがそう言って歩き去るのを見届けた後、フィリスと菜穂は自分たちのクラスへと向かった。
教室に着くと、フィリスはまだ少し気がかりな気持ちを抱えながらも、菜穂の存在に助けられながら気持ちを落ち着けた。彼女たちは授業の準備を始め、今日も一日が始まった。
その日の授業が終わり、フィリスと菜穂は再び寮へと戻った。帰り道で、フィリスはふとレイのことを思い出し、菜穂に尋ねた。「レイ、今日はどうだったかな……」
「レイ先輩、無事にテストを乗り越えられたらいいんですけどね。」菜穂が心配そうに答えた。
「うん、きっと大丈夫だよ」フィリスは微笑みながら言ったが、内心では少し心配していた。
寮に戻ると、いつものように彼女たちはそれぞれの部屋に戻り、静かな時間を過ごした。レイもやがて部屋に戻ってきたが、何も言わずに自分のベッドに倒れ込んだ。
フィリスはその姿を見て、軽く声をかけた。「おかえり、レイ。テスト、どうだった?」
「まぁ、なんとか……な」レイは少しぼんやりとした声で答え、布団をかぶって寝始めた。
フィリスは少しだけ笑みを浮かべ、静かに灯りを消した。その夜もまた、彼女たちはそれぞれの場所で自分の考えにふけりながら、静かに眠りについた。
次の日も、フィリスと菜穂はまた二人で登校し、レイとは途中で別れた。彼女たちは、まだお互いに距離があるものの、少しずつ友情を深めていくことを感じていた。寮での時間が、彼女たちの関係を少しずつ変えていくことを、彼女たちはまだ知らなかった。




