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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雨曇 悠太姫と麗奈星 七夕記念短編小説 


むかしむかし、ある所に、悠太姫と言う美しい姫様が居ました。

 悠太姫は大変働き者で

「昼からの仕事めんどくせぇな。誰も見てねえし草木の影でサボるか」

 世にも美しいはたを織っていました。


「適当に作ったら飛ぶように売れるじゃん!」


 姫はお化粧をしたり、流行りの服を着たりと、そう言ったオシャレには興味がなく、来る日も来る日もはたを織って生活をしていました。


「いやーこれ1枚50万かよ!ネットマーケティング最高か!1ヶ月に1枚これ作りゃ、あとは働かなくていいぜ!」


 うーん。悠太くん、いや、悠太姫、現代になってますし、織姫様はお淑やかで真面目な役ですよ?


「なんで俺が姫役なんだよ。俺は彦星だろ」


 西洋の物語なら金髪碧眼は王子かもしれないですね。


「じゃあ今からでも西洋の王子が出てくる物語にしよーぜ」


 わかりました。でも今回は七夕で物語も始まってしまったので、次はシンデレラをやるので今回は織姫様やってくれませんか?


「ちくしょう。次は絶対だからな」


 分かりました。次は西洋の物語をやりましょう。

 こほん。では続けさせて頂きますね。


 日々仕事に勤しみ、結婚適齢期を過ぎても、貰い手のひとつもない悠太姫。

 その姿を水晶みたいなよく分からないもので見ていた、天の神である葉月神様はこう言いました。


「んふ。悠太もそろそろ食べ頃じゃない?私のお嫁さんにしようかしら」


 


 違いますね?結婚相手を紹介するんですね?

 物語をスムーズに進めてくれないと次のお話しで、意地悪な継母役にしますよ?


「嫌よそんなの、全うできる気がしない」

 

 でしょう?なら今回はお願いしますよ。


「しょうがない。今回だけよ」


 まったくこの姉弟だけは本当に扱いづらい。条件を付ければ素直な分扱いやすくもあるのだけど。


「聞こえてるからね。っと、悠太姫……結婚できないのも可哀想だわ。そうだ相手を見つけてあげましょう」


 葉月神は、大きく頷いて手を叩いて音を鳴らしました。

 すると使いの真姫が奥から姿を見せて、葉月神にぺこりと頭を下げました。


「お呼びでしょうか。葉月神様」


 真姫はなんといい子なのでしょうか。


「この子知ってる?」


「ええ、この方の折るはたはとても綺麗で、大名や街の女性からも人気ですから知らない筈がありません」


「そうそう。でね?この子めちゃめちゃ可愛いでしょ?」


「そうですね」


「今が女性として一番綺麗な時期じゃない?」


「男の娘ですが。まあはい。ええ」


「だからね?綺麗なうちに結婚相手を見つけてあげたいのよ。まあ何年経っても、この美貌は失われないと思うけど」


「自分そっくりだからって傲慢ですね」


 傲慢な葉月神を、真姫は目を細めて訝しみました。


「じゃあうちのお姉ちゃん。いえ、牛の世話をしている麗奈星という男はどうでしょう。この方も大層勤勉な方なので、きっと悠太姫と一緒になればこの神界の発展に、身を粉にして尽くしてくれることでしょう」


 真姫は、悠太姫の住む川のほとりを挟んで反対側に存在する村の、麗奈星を紹介してみせました。

 なんとも相性の良さそうな二人。葉月神もきっと頷いてくれることでしょう。

 

「なしね。この男無愛想で胸も無いわ」


「神様。麗奈星が無愛想なのは、表情を変えられないからです」


 胸が無いのは葉月神も同じなのですが、葉月神は真姫の提案を切って捨てました。

 次の物語ではきっと、ガラスの靴役になることでしょう。


「良い男ね。この男ならば、悠太姫を幸せにしてくれること間違いなしね。真姫、悠太姫を連れて来て頂戴」


 よっぽどガラスの靴は嫌なのでしょう。葉月神は直ぐに手のひらを返して、悠太姫を呼ぶよう、真姫に言いつけました。


 しばらくして真姫に連れられて悠太姫が葉月神の元へとやって来ました。


「何か御用でしょうか。葉月神様」


「悠太姫。よく来たね、悠太姫の結婚相手にと是非合わせ……あー言いたくない!やだ!誰か神様別の人呼んで!」


 前半だけで1500文字ですよ。早くやってください。次妨害したらガラスの靴ですよ。


「あ、合わせたい人がいるのよ」


 葉月神は、口角をひくつかせながら言いました。


「結婚相手ですか。私みたいな仕事人間を好きになってくれる人なんて本当に居るのでしょうか」


「私が!……似た者同士だからきっと気が合うに違いないわ。貴方さえ良ければお見合いしてみない?断ってもいいのよ?本当に。むしろ」


「葉月神様のご提案なので間違いは無いですね。このお見合い受けさせてください」


 こうして悠太姫の了承を得た葉月神は、次に麗奈星を呼んで話をすることにしました。


『OK\(❁´∀`❁)ノ』


「まだ何も言ってないわよ」


『明日早速婚姻届を出しにいこ三┏( ^o^)┛』


「……ちくしょう」


 こうして葉月神の思惑とは裏腹に、麗奈星はノリノリで、話はトントン拍子に進んで、お見合いをした2人は直ぐに惹かれあい、結婚をする事にしました。

 特に麗奈星の優しさに触れた悠太姫は、彼にベタ惚れ。はたを織る仕事をサボるようになってしまいました。


 こうなっては結婚をさせた意味がありません。

 葉月神は2人を呼び出しました。


「君たちイチャイチャしすぎて本来の仕事忘れてない?」


「麗奈星ぃ、早く帰って映画見ようぜ?」


『ポテチにコーラも用意してね。今日は休みだからずっと君と一緒に居られるね』


「う、うん。あの、ね?いつも仕事で疲れてるだろうからマッサージもしてあげるね」


葉月神の声すら聞こえない程に2人の愛は燃え上がって居るのです。

「貴様ら……神を舐めるなよ!!」

 葉月神は、そんな2人を、悠太姫は元々住んでいた川のほとり。麗奈星をその反対側の村へと戻してしまいました。

 それから川の幅を広げて簡単には会えなくしてしまいました。


「麗奈星ぃいい。うわぁああん」


 悠太姫はとにかく泣きじゃくり、悲しみにくれました。


「悠太姫が仕事を放棄したからよ?」


 葉月神が泣きじゃくる悠太姫の頭を撫でながら言いました。

 自分でくっ付けておいて、都合が悪くなったら引き剥がす。飛んだ毒親ですねえ。


「貴女ナレーションだからって好き勝手言い過ぎじゃない?」


 いえ、私はこんな1文を書き足してはいないのですが……月姫兎の仕業ですかね。

 物語が始まってしまった以上書き換えはできません。このまま行きましょう。


「私だって鬼じゃないわ。悠太姫と麗奈星。双方が今まで通りしっかり仕事をしてくれるのなら、1年に1度、七夕の日だけは2人を会わせてあげる。だから悠太姫、泣き止んで」


 理不尽な上から目線で、1年に1度しか会わせないと、葉月神は言いました。


「1年に1回だけじゃ麗奈星が浮気したらどうするのよー!うわぁあん」


 物理的な距離を離されて、心の距離まで離れてしまったら、悠太姫は今度こそ鬱病を患って、川のほとりで空を眺めることを生業にするでしょう。


 なんて可哀想な悠太姫。でも麗奈星はきっと悠太姫の為、1年間仕事に励むことでしょう。


 おしまい。






『こんな結末誰が認めると思う?』


 突如として麗奈星が、現れ、葉月神と悠太姫の間に割って入りました。


 全身はビショ濡れで、前髪からはぽたぽたと水が垂れています。

 この川を渡ってきたのでしょう。


「麗奈星!」


 悠太姫は、自分も濡れるのも厭わずに麗奈星の背中に抱きつきました。


「この暴れ川を渡ってきたっていうの!?人間技じゃないわ!」


『お姉さん1人なら無理かもしれない。でも、今の私には悠太から貰える愛がある』


「くっ。やはりこの2人をくっつけたのは失敗だったようね」


 葉月神は、空間を裂き、刀を取り出しました。


 もちろん当初の原案にこんな展開はありません。

 え?普通の七夕の物語じゃつまらない?ええ、そうね。それには概ね同意よ。


 『悠太姫。今ここで、葉月神を倒して管理される世界から飛び立とう』


「うん。でも葉月神様は強いよ……私たちじゃ勝てないかも」


『大丈夫。隣町から腕の立つ剛腕の』「雪人さんを呼んだの?」


「雪人くんが来るとなると、少し骨が折れるわね。でも負ける要素が無いわよ」


『雪人と軽業師の琥珀を呼んだ。後君の木刀も持ってきたよ』


「やあ少年。力を貸すよ」


「悠太姫!助けに来たぞ!」


「待って待って!私一人に対して、そっち4人て卑怯でしょ!」


 葉月神も思わずツッコミを入れてしまうほどの戦力を呼び寄せた麗奈星は、1歩下がりました。


『お姉さんは下がってるから。3人なら卑怯じゃないよね』


「多分?姉ちゃんなら俺と琥珀さんと雪兄相手でも余裕でしょ」


 悠太姫が煽りのつもりで発言した言葉は、受け取り方は違えど、葉月神の闘志を呼び起こすには充分だった。


「んふ。そうね、神と呼ばれるくらい私は強いのだから。いいわよ、3人まとめて相手してあげる。かかってきなさい」


 常人では気絶してしまいそうなほどのドロドロとした悍ましいオーラを纏い3人に圧をかけました。


「流石葉月神様、噂に違わぬプレッシャー。我が名は琥珀!いざ尋常に勝負!」


 まず先に、軽業師の琥珀が名乗りを上げて葉月神の元へ飛び出しました。

「あ、いや、連携を」「っしゃー!琥珀に続くぞ!」


 悠太姫は慌てて琥珀を呼び止めようとしましたが、剛腕の雪人も意気揚々と琥珀に続きました。

 この3人のうち2人がバーサーカーなので連携という、チームとして1番大事なものが欠けていても仕方ありません。


「馬鹿ね。作戦もなしに飛び出してくるなんて、この刀の錆にしてあげる」


 葉月神は飛び出してきた琥珀に刀を振りかぶりました。

「なんの!」


 一太刀浴びせようと葉月神が刀を振り下ろすと、琥珀は横飛びでそれをかわしました。

 ですが、葉月神の狙いは、それだったのです。


「まずは1人ね」


「あぐっ!」


 葉月神は刀を振り下ろした勢いのまま、一回転すると、琥珀の鳩尾に鋭い蹴りを食らわせました。


 鳩尾を蹴られては、呼吸もまともにできません。葉月神は膝から崩れ落ちて丸まった琥珀の横を通り過ぎ、次に襲い来る雪人を迎撃しようと、抜刀の構えを取りました。


「くっ!琥珀の仇ぃ!」


 雪人は葉月神に先制を取ろうと低空の蹴りを横凪に放ちました。


 この速さと葉月神の位置なら当たる。雪人は予想していましたがゆらりと、葉月神が揺れたかと思うと、雪人の蹴りは空を切りました。

「なにぃ!更に下だと!?」


 確実に当たるよう太腿当たりを狙った筈でしたが、葉月はそれより低く、地面すれすれに構えていました。


 抜刀と同時にゆらゆら揺れるように舞う刀は、目で追えるはずなのに避けられず切っ先の残像だけが、雪人の目に映りました。


 やられた。雪人はそう思いました。

 だけども、痛みは愚か血飛沫ひとつ舞いません。

 代わりにヒラヒラと舞ったのは布。雪人の着ていた着物でした。


 生まれたままの姿に戻された雪人。本人にも精神的ダメージはありますが、男性恐怖症な彼の仲間も当然精神的ダメージを負います。


「うわぁあ!雪兄!川に飛び込め!」

『(/ω\)』


「くっ!悠太!やはり葉月に勝てるのはお前しかいない!あとは任せたぞ!」


 雪人はかっこいいセリフを吐いたつもりで川に飛び込み、対岸へと泳いでいきました。


「今ならその男を引き渡せば、私に牙を向けた事を許してあげなくもないけど、どうする?」


「麗奈星。下がっててね」


 早々に頼れる仲間を失った悠太姫は、麗奈星を庇うように葉月神の前に立ちました。


『この世界が夢ならば、お姉さんも戦えると思うんだけど』


 別の世界線の話しを持ち出してきました。が、残念、夢ではありません。これは現実。麗奈星は仕事に真面目なだけのただの人間です。


『ケチ( ˙³˙ )』


「何故命を捨てて私に歯向かおうとするの?私に従っていれば、その子とも1年に1回は合わせてあげるって言ってるのに」


「私は、私の意思で麗奈と一緒にいたい。神様に決められる筋合いはないはずだけど?」


「そう。神判に逆らってでもその男と一緒に居たいの。神界を出て苦労することになるのは貴女なのよ?」


「だから何。好きな人とする苦労なら、私はいくらでも耐えられる」


「今までなんの不自由も無く、のうのうと暮らしてこれたのは誰のお陰?」


「私が自由?生まれてこの方ずーっと朝から晩まではたを織ってきた。今までずっと。ならそろそろ麗奈星と2人仲良く暮らしたっていいじゃない。葉月神様は私を手元に置いて管理したいだけだよ」


「言わせておけば好き放題言ってくれるわね、手足をもいででも連れて帰る。それでその男は殺す」


 子供向けのお話にはそぐわないセリフを吐いて、葉月神が刀の切っ先を悠太に向け構えた。

 もう柔らかい表現は諦めました。思う存分戦ってください。


「私は五体満足で葉月神様をぶちのめす」


 悠太姫も木刀を上段に構えた。2人の戦いの火蓋が切って落とされようとしている。

 ジリジリとすり足で悠太姫との距離を縮めていく葉月神。対峙している悠太姫はキリリと顔を引きしめてその場に足を固定して動かない。

 自然な呼吸。吸って吐いて、悠太姫に緊張している様子も、怯えている様子も無い。


「っふ!」


 一陣の風が吹き、悠太姫の前髪が風に揺れたと同時に、葉月神は地面を蹴った。

 悠太姫からでは刀の届かないギリギリの距離で止まり、刀を袈裟斬りに振り抜いた。

 振り抜かれた刀は悠太姫の前髪を数本散らした。

 ギリギリ、間一髪のところで上体を少し下げて悠太姫が避けたからだ。避けた本人は涼しい顔をしている。


 刀の一振の後に待ち受けるは、回転を利用しての回し蹴り、これも悠太姫は後ろに大きく飛ぶことで、葉月神が技を繰り出す前に回避した。


 勝負は振り出し。悠太姫は依然として上段に構えて直立不動を続けている。


「勇んだ割りには防戦なのね」


「戦力を見誤るほど、私の目は腐ってない」


 悠太姫は決して葉月姫を侮ってなどはいない。

 一瞬でも隙を見せれば腕を切り落とされる。対峙してから数十秒、どう戦いを頭の中で展開させても、自分から攻めれば、手や足を切り落とされる映像が頭に浮かんだ。


 それでも彼女は、真剣な表情に微笑みを添えて木刀を上段に構える。


 勝機は必ず来ると信じてやまない。


「次は一太刀入れるまで攻撃をやめない」


「次なんて言うのは自信の無いやつが吐く言葉だよ」


 葉月が踏み込む。横凪に振られた刀を悠太姫が頭を低くして躱す。

 低い体勢から足を踏ん張り、飛び上がる。切り上げた木刀を葉月が躱す。

 がら空きの胴を刀で突く。状態を捩って悠太姫が躱す。

 刀を持った手を目掛けて木刀を振り下ろす。葉月神は反対の手で受けて、木刀を掴んだ。


「流石に痺れるわね。でも」


 悠太姫は木刀をあっさりと手放して下がった。愛する麗奈星の所まで。


「へぇ。諦めた?」


「麗奈星。生きるのは諦めて?でも、私も直ぐに逝く。大丈夫、1人になんてしない」


『悠太姫が一緒に居てくれるなら、私は何処でもいいよ』


「美しい愛だこと、大丈夫。逝くのは麗奈星。貴方だけよ。んふ」


 葉月神が笑う。獲物を前に舌なめずりをしながら。

 1歩1歩、2人に恐怖を植え付けようとゆったりとした足取りで歩く。


「悠太姫。先に貴女の腕から頂くわね」


 麗奈星を庇い、両手を広げて立ち塞がる悠太姫の前に立ち、葉月神は刀を振り上げた。


「言うなら早くやりなよ。切る切る詐欺かな?」


 悠太姫が煽る。葉月神には油断があった。刀を振り下ろそうと力を込めた。

 瞬間だった。何処かから、パン!と炸裂音が聞こえてきた。

 葉月が刀を振り下ろしたが、刃が悠太姫を切り裂くことは無かった。


「あれ、どして?」

「うっらぁあ!」

 何が起こったか分からず放心状態の葉月神の頬を悠太姫の拳が捉えた。


「……っぐ、いったいわね!」


「伏兵を見逃すは将兵の恥ですよ〜?」


 草波の影から声がした。無論葉月神の耳にも聞こえている。


「まだまだぁ!」

 悠太は腰あたりまで振り上げた足を葉月神の膝に振り下ろした。

 食らった葉月姫は膝を折る。


「師匠直伝のぉ!失神キックっ!」


「っがぁ!」

 下がった頭を、琥珀直伝の銅回し蹴りが弾いた。


 そうね。悠太姫ならその人を誘わないはずないもの。失念していた。これは私の負けね。


 薄れゆく意識の中、葉月神はそんな事を考えていた。


「悠太姫〜。これで貴女は晴れて自由の身ですよ〜。私も、神界を追われる身になるのでさっさと貰うもの貰ってトンズラと行きたいところなのですが〜」


 草を掻き分けて、身長と同じくらいの長さのライフルを背負った女性が出てきた。

 肩まで伸びた黒髪に、野暮ったい眼鏡を掛けていて素顔は確認出来ないが、それ以外の顔の造形から美人であることが伺える。


「沙織さんありがとう。これ、約束のお金ね」


「いえいえ〜金さえ貰えば神殺しだろうがなんだろうが私に任せて貰えればちょちょいのちょいですよ〜。まあ、この女なら無料でもやるけど」


 野暮ったい眼鏡の奥にある瞳が妖しく光る。

 沙織はこの神界で唯一のヤクザ、山本組の組長だ。

 構成員は1人を除き、みな神罰を受けて神界を追放された。

 

 組と看板を掲げてはいるもの、形骸的にヤクザとしての立ち位置は守れていない。今は1人残った構成員と共に、いつか葉月神を出し抜いてやろうと、機会を伺っていた。


 そこに声をかけたのが、悠太姫だった。

 彼女はただただ悲しみにくれていたわけではなかった。


 沙織に文を出し、作戦を練って今日まで準備を進めていた。

 麗奈星が泳いで川を渡ってくる事までは想像の範囲外だったが。


「沙織さん殺しはダメだよ。約束したでしょ」


「ええ。でもこのまま生かしておくと追ってきませんかー?」


 その可能性は大いにある。むしろこれだけ悠太姫に執着しているのだから、追ってこない方が不自然だ。


「それなら平気だよ。水晶は真姫に壊してもらうようにお願いしてあるから。あの子麗奈星を貶されたのがムカついたみたいでひとつ返事で頷いてくれたよ」


「じゃあ、しばらくは隠れられるのですね〜。良かったです」


『悠太姫。私とずっと一緒に居てください』


「うん。えと、こちらこそ。よろしくね」

 

 この物語では、色んな人からヘイトを買いまくった葉月神は成敗され、長年愛して居た娘の悠太姫にも逃げられてしまった。

 


 葉月神の元を離れて、初めて外の世界に触れた悠太姫は、麗奈星と子供を作り、信頼出来る仲間と共に苦難を乗り越えて、日々を過ごしていくのだった。


 「こんな終わり方で良かったの?」


 神界の中心。神の間で真姫は葉月に問いかけた。


「まあねー。これはこれで楽しかったよ。悠太姫もかっこよかったでしょ?」


「かっこよかったけど、葉月1人だけ悪者扱いだよ?」


「いいのよ。あの子が幸せなら、ね。真姫は私の事分かってくれるでしょ?」


「うん。葉月神は悪役に徹しただけだしね。ん、悠太姫も分かってくれてたんじゃない?ほら」


 真姫は葉月神の服に手を伸ばし、彼女のローブに着いたフードから1つの便箋を取りだした。


「なにこれ。悠太姫からの手紙?」


 手紙には葉月神への感謝の言葉と、懺悔の言葉が記されてあった。

 そして、1年に1度だけ、天に川が掛かる日は会いたいと書いてあった。


「んふ。完全に麗奈星と私の立ち位置が入れ替わっちゃったわね」


「1年に1度会ってくれるだけでも僥倖でしょ」


「まあね。まったく次回は良い役にしてくれないと拗ねちゃうんだから」


 シンデレラでは魔女の役はいかがでしょうか。


「葉月の魔女可愛いと思う!私はあり!」


「んー。王子様役がいいんだけど、シンデレラは悠太で」


「お姉ちゃんがシンデレラでもありじゃない?」


「また月姫兎の脚本で魔女役の悠太がシンデレラを連れ出す展開になりそうじゃんかー。やだよ」


 次はどんな物語でお会いできるのでしょうか。

 それでは、悠太姫と麗奈星。めでたしめでたし。

 

 

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