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■1-7


 ビーチは悪い虫が寄ってきそうな気がしたので却下だった。


 河川に絞られた涼めそうな避暑スポットは、あくまで都心部に比べればというものだがエクスプランター現象にさほど曝されていない郊外で探した。


 いきなり連れ出して反応が微妙だったら嫌なので予め藤沢先輩にもホームページを閲覧してもらってその是非を確かめながら行き先を決めた。


 折角のデートだからと仁のコーディネートをしたがる藍の申し出はあのセンスであるからお試しすらも論外。


 季節が与えてくれる快活さを損なわない色合いで手持ちの夏服を合わせ、普段と違う精一杯のお洒落ポイントとして新しく買ったウォッシュ加工のバケットハットを被った。


 藤沢先輩は肩周りが風に膨らむシースルー地のブラウスに桜色のロングスカートという装いをし、白い日傘と籐編みのウィッカーを手に携えて待ち合わせに現れた。


 きれいめに纏め、装飾っ気は皆無、

化粧は眉とチークを強調させる程度。


 この控えめ感が仁のド直球を貫く。


 目的地が河川なのでは互いに足元はスニーカーの一択であった。


「よしよし、75点あげちゃおう。靴がいつものと違ければあと15点あったよ」


「俺こういうの慣れないんで採点とかマジ勘弁っす。因みにあと10点はどうすれば?」


「森山スメルが良くない。いや、匂いそのものは良いんだけど、それって家出娘ちゃんの匂いだし。存在がチラつくのやだな」


「なんて間抜けな失態。それは気付けたはずだろ俺よ...」


 開幕軽く凹みつつも待ちに待った遠出に向かうべく、これは密林への入り口かと見紛うような永田町駅の第一ファサードを潜った。


 一年前の里帰りで利用したきりだったから、その変貌ぶりはもはや同一地点と思う事に無理がある。


 観光客かデモ行進かの人だかりを高架の車窓から眺めてふとした。


 あれらは一見群れているようで誰も彼も自己の目的しか視野にないのが感じられた気がした。


「エクスプランター禍にあっても東京の人混みは相変わらずなんすねぇ。いや、これは田舎もん特有の感慨か?」


「そんなことないよ。都生まれでも人多すぎって思う事しょっちゅうあるもの。こんなに住みづらくなっても尚、そんなに此処が好きかって言われたら意見も割れるはず。只々...みんな他に行く宛もないんだろうな」


「当初は都民離れが心配されたものっすが、蓋を開けてみれば以前から競争率の高い都心部の物件が更に売れ行きだそうで。活動拠点が一つじゃ安心出来ないって理由から、離れるどころか都に骨を埋めるつもりで足場を固めてるみたいっす。都生まれの先輩はずっと都民で居たいって思ったりしますか?」


「昔から度々、この喧騒から離れたいって思いはしつつ、やっぱ行く宛とかなっくてさ。結局はズルズルと住んじゃうんじゃないかなって思うの。森山君は田舎に帰りたくなったりする?」


「それは、ずっと前から帰りたい一心っすよ。なんかこう、ビル風が肌に合わないんすよね。野山から吹き下ろす風の湿った心地が恋しくて」


「それは...今やこっちの方が勝ってない?」


「そう言われるとぐうの音も出ねっす」


 憧れの都会を、住んでいた田舎のそれ以上に自然豊かにしたどこぞの半端者を憎らしく思い、ふとして疑問が浮かぶ。


 それ以上にといったが、宝泉の野山は仁が昔見た姿がそのままだった。


 その声を聞かせるだけで植物の成長を活性化させる藍が一年過ごしただけで東京をまるごとテラリウムにしたというのに、そんな存在が何年も暮らして在りし日のままで在れるものだろうかと引っ掛かった。


 近代開発が盛んになって環境整備が進んでいたから、というのでは説明がつかない。

 東京では大勢の人が草むしりに躍起になっても機能維持に努めるばかりで細部の侵食は放置されたぐらいだ。


 野山と田畑ばかりで他に何も無いと嘆かれた宝泉に、一体何があろう。


「ねぇ森山くん、ここ多分、乗り換えなんじゃないかな」


「やっばっ! ここ降ります、ほんとすいません先輩!」


 考えに耽るあまり周りが見えなくなり、エスコートするべき藤沢先輩を慌てて下車させる事になった仁だった。


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