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■5-8


 目の前にどれほどの絶望が広がろうとも、心に描く帰りたい場所が鮮やかにあるのなら、焦土を踏みしめて進んで欲しい。やがて行き付く先で、あなたが安寧に過ごせる日々を得られますようにと願うから。


 "破滅"という恐ろし気なタイトルだが、詩の内容は意外と前向きだった。


 心に描く帰りたい場所。

 まさに仁には共感する場所が二つある。


 藍もそうなのだろうか。

 ままごとに興じたあの日々がそうであって欲しい。


 郁人氏の車をとろとろ走らせながら高性能スピーカーから爆音の"破滅"を流し、柏崎千葉構造線を二往復していた。


 志向機能を用いて行きは北側、帰りは南側に向けながら走った。


 大した差は無いだろうが、一応は外側から内側に範囲を狭めているつもりだ。

 人の大声でおよそ1kmほど届く。性能の良い音響機材ならもっとだろうし、志向性能が付けば更なる範囲が期待できた。


 行き始めに見た景色が帰りには目に見えて荒れ果てていたので、想像以上に"破滅"の効果は絶大なようだ。


「ランちゃんいつもアニソン歌ってたけど、自分の思いを込めた自作の歌の方がやっぱり効果が高いんだって」


「理屈はよくわかりませんが、なんとなくわかる気がするっす」


 喋りながらも常に周囲に目を見張り、検問やパトカーなどに注意した。


 更にスマホを駆使してバッタの動向も確認し続けなければならず、頭が割れそうな車内でこれらを熟すのは地味に苦痛が大きかった。


 間もなくスタート地点だった九十九里浜に帰れるが、これが済んだら糸魚川静岡構造線でも同じ作業があると思うと酷い憂鬱だった。


 宝泉の方は今、藤沢先輩が『夕焼けこやけ』の編曲を終えてエクスプランター相殺効果を消したので、順調に"豊穣"の効果が出始めている。

 "豊穣"の入ったUSBの管理は藍の義叔父に頼んである。

 大切な義孫娘の置き土産を無下にする事はないだろう。


「仁君、これを見て!」


 運転席から郁人氏に大声で呼ばれて何事かと身に行くと、カーナビを顎で指された。


 画面に映されたニュース番組のテロップに『千葉の山林異常荒廃 新潟でも確認』と出ていて、仁は慌ててスピーカーの音量をミュートにした。

 郁人氏もすぐに路肩に車を止め、皆でニュースに注目した。


「千葉県の九十九里浜で最初に観測された大規模な植物の死滅現象は、その後東京方面に広がりを見せエクスプランター現象の二次災害が発生しているのではないかと世間を騒がせておりましたが、その後同様の植物死滅現象が新潟県の糸魚川近辺でも観測され、現在その広がりは長野県を越えてじきに山梨県にまで到達しつつあります」


「森山君・・・これって、もしかして・・・・」


「もしかしてじゃないっす。こんな事が可能なのはランしか居ない。ランが、長野に居る…!」


「僕たちの考えを読んで手伝ってくれているのかな。これなら西側の構造線は静岡から山梨までの往復で足りる。おかげで半分ぐらいになったよ。ランちゃんの生声は収録音声よりずっと効果が高いはずだけど、でも何で移動してるんだろ」


「すぐに高速道から長野に向かいましょう! 紅葉狩りに出かけたあの日は早朝からの出発で、藍のいってらっしゃいも聞けなかったんです俺! その前日の晩はいつものように勉強をみてもらってて」


「それ・・・だけで・・・」

 藤沢先輩が静かに目を伏せるのを見て、声が掠れて消えた。


「見つけられっこない。お願いだから、行かないで…」


 目を伏せて首を横に振る先輩の声は、悲し気で。

 いつも明るく振舞う先輩が、藍が居なくなったあの夜と同じように泣き出しそうな声をしていた。


「…すいません、取り乱しました。きっとランが手伝ってくれるのも山梨あたりの中腹地点までだ。そこからあいつはまた姿をくらますでしょう。探しに行けば多大な時間を無駄にするって、俺ちゃんとわかってますんで…」


 手伝いは非常にありがたい。こうしている今にバッタが気まぐれを起こしたらたまらないので時間短縮は朗報だった。

 何より、藍もこの計画を支援してくれるのなら自分の見立てはそう悪くないのだと思える。

 信じてついてきてくれる二人の手前毅然と見せかけているが、実のところはこれで本当に良いのかと悩んでならない。


 ただしかし、こんな風にぽっと出てきて人の心をかき乱していくのが唯一癪だ。


「先輩… 俺子供は4人欲しいんす。できれば男の子と女の子が二人ずつ」


「えっ! 何急に… ええっ! 何っ! 急に!」


 一旦そぞろな反応した後で、事の甚だしさを受け止め慌てた反応をした。

 毅然と振舞っていた顔がみるみる赤く染まっていくのが面白かった。


「ああ大丈夫っす。内一人はいつかどこかに生まれ落ちる知性植物を探すつもりなんで三人でいいっす」


「何が大丈夫なの!?」


「仁君… 八つ当たりはその辺にしないと美咲ちゃん可哀想だよ」


 郁人氏に諫められて中止したが、暫く藤沢先輩は頭を抱えて何かぶつぶつ呟いていた。




 ご愛読感謝、筆者です!


 今回の場面、実は藍ちゃん視点で書こうかとも思ってました。

 暫くあの口調がなくてずっと寂しいのです。

 藍ちゃんのセリフを綴るのが面白かったのに、どうして失踪させたのか…


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