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ヤギさん郵便?!

 新学期。

 玲奈は、軍事郵便とあじさい館で会った男の子のことが気になって、大事なことをすっかり忘れていた。

「玲奈。手紙、読んだ?」

 芽以のその一言で、今すぐ春休みに巻き戻して欲しい気持ちになった。

 あの時の、芽以の真剣な顔を思い出すと、読んでないとはとても言えない。

「あ、うん。手紙で返事書くよ」

「分かった。ありがとう」

 芽以の一瞬の笑顔に、さすが秘密厳守する信用できる親友と言われたようで、胸がチクリとした。

 急いで家に帰って読もう。

「お前ら、相変わらず仲良しだな。ヤギめいめい」

 隣の席の矢崎が言った。新学期最初の席は出席番号順なので「ヤ」で始まる苗字だから隣になってしまう。芽以は岡崎だから遠い。

 矢崎優真やざきゆうま。マンションが同じで赤ちゃんの頃からお母さん同士が仲良かった。昔は一緒に遊んでたらしいけど、幼稚園は別々、小学校の一、二年はクラスが違ったので、本人同士は別に仲良くない。マンガに出てくるような互いに好き合ってる男女の幼なじみ関係にはならない。

 矢崎は、勉強はちっと苦手だけどスポーツ万能のサッカー少年。冬でも半袖着てるような元気な男子で声が大きくて目立つ。よく言えば、クラスのリーダー的存在だけど、玲奈はちょっと苦手だ。

 玲奈の好きなタイプは、どちらかというと勉強ができそうな静かな人が好き。

 あじさい館の男の子の顔が浮かんだ。

 キレイな顔してた。一瞬しか見なかったのに、顔が鮮明に焼き付いてるのは、好きなタイプだったからだ。白いシャツと黒いズボン。中学の夏の制服みたいで、髪は坊主に近いくらい短くて昔の野球少年みたいだけど、矢崎みたいながさつな感じがしない。

 入学式もある始業式の日は、新四年生は何もすることがないので、連絡事項と明日の時間割を聞いて一時間目で終わった。クラス替えもないし、担任の先生も三年の時の持ち上がりで、変わったのは教室と教科書だけだ。ここで、マンガみたいに転入生登場。あじさい館であった少年! なんて展開ももちろんない。

 もう一度会いたいな。会えないかな。

 学校から家が近い芽以と別れて、一人になった帰り道、玲奈はあの男の子のことばかり考えていた。

 前にあじさい館で、防災頭巾を下げたモンペ姿の人を見たことがある。二階のホールを借りて稽古している劇団の人だった。戦時中の話をやるとかで、身も心もなりきってて、平和祈念資料室の前に立ってたらから本当にタイムスリップしてきたのかとびっくりした。あの男の子もまた劇団の人かもしれない。玲奈と同じ年ぐらいだと思ったけど、女の人が少年の役をやってる可能性もある。

 役者さんだったら、それはそれでいい。

「何、ニヤニヤしてんだよ」

また矢崎が話しかけてきた。

 帰り道は一本道だから、マンションが同じだと必然的に一緒になってしまう。結構遠いから、なるべく一人にならないようにと一年生の頃からお母さんに言われてるので、矢崎でも一緒にいてくれた方が安心な部分はあるけど。

「別に」

「運動会、家族みんな来るって?」

「ああ、どうだろう。結奈がいるからずっとは見られないと思うけど」

「うちその日、父ちゃん仕事で兄ちゃん部活だから、母ちゃん一人なんだ。お前んちの母ちゃんと一緒に見られたらいいなって、言ってた」

「あ、そう。お母さんに聞いてみるよ」

「よろしく。まあ、母ちゃん同士連絡取ってると思うけど」

 どうぞ、どうぞ。お母さん同士は仲良くしてください。

 うちの小学校の運動会は、お弁当を家族とは食べない。何十年も前からそうらしい。児童は教室で食べるので、見に来た家族がどこで誰となかよくしようと直接関係ない。

 玲奈のお父さんは土日休みだけど、土曜は仕事があるので家族が見に来れらないという人が多い。アニメとかで、親と一緒にお弁当食べてそれが楽しみという運動会の風景よく見るけど、最初から教室で食べることになっているのでそういうのが逆に不思議に感じる。

 ここ数年は五月だっていうのに暑すぎて、熱中症が心配されて、午前中で終わらせるところもあるくらいだから、まあ丁度いいと思う。

 しかし、一ヶ月以上も先の話をして、矢崎はそんなに運動会が楽しみなのか。


 玲奈は家に帰るなり、机の引き出しをあけた。

 お母さんは結奈を昼寝させるために散歩にでも出かけているのか、いなかった。

 ない。

 芽以からもらった手紙がない。

 机の引き出し。横に何段かついてる引き出しじゃなくて、横に広くて一段だけ。ドラえもんのタイムマシーンになってるところ。もしも奥で引っかかってたら机の下に落ちるからすぐ分かる。

 正直、きちんと整理されてなくて、いろんなものを入れっぱなしなのがいけないんだけど、でも、一番上に入れてそれ以来開けてない。絶対ないと思いながら、ぐちゃぐちゃの引き出しを一度出して整理したが、見つからない。

 玲奈は少し離れて、床から机の引き出しまでの高さを目で測った。

 結奈の手が届くとは思えない。わざわざ開けて踏み台使って……いや、ないない。

 ないと思いながらも、結奈のおもちゃ箱を覗いてみた。

 それらしいものはない。

 どうしよう。手紙で返事を書くと言ってしまったが、読んでない手紙の返事なんかかけない。  え? 芽以は一体何を書いたんだろう。ものすごい秘密なんだよね。

「もう、リアルヤギさん郵便じゃん!!!」

 しーかたがないから、お手紙書こう。さっきの手紙のご用事なあに?

 玲奈は、便せんを出した。



 芽以、今年度もよろしくね。

 それと、ごめんなさい。わたしウソついてた。

 実は、芽以にもらった手紙がちょっと見つからなくて読んでません。

(家にはもって帰ってきたので、そのへんに落としたわけじゃないよ)

 ごめんね。

 返事書くって言ったのに、何をかけばいいか分からない。

 だから、もう一度、何が書いてあったか教えて!!

 リアルヤギさんゆう便な玲奈をゆるして。


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