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【完結】序芝居  作者: のぼぼん(º∀º)
【起】〜天地創造〜
24/160

23話『七大天使、見参』★

 僕らの出会いを、

  ──誰かが「別れ」と呼んだ。



 アダムとエバの二人はともかくも晴れやかな浮揚的な心持ちで、風光明媚(ふうこうめいび)な景色は広がる草原の大地に辿り着いた。


 一望すると無限に感じる広大な草原に足を踏み入れた瞬間に、丁度遠くの空の向こうから未知なる塊が彼らの目に飛び込んできた。

 空中に七つの影が悠然と聳え立っていたのだ。そしてしばらくして、その群れは螺旋を描くようにしてゆっくりと優雅に舞い降りてきた。



 地面に着地して、全員が背中の翼を収めるとアダムとエバに近づいてきた。


 やがてその正体がはっきりと分かる距離まで二人に近づいてきた瞬間に、すぐにそれらがアダムとエバにとっては明らかに異質な存在であることが分かった。


挿絵(By みてみん)


 全身に纏う鈍く輝く甲冑。

 隙間無く覆い隠す頑丈な覆面。

 頭部にある各々の個性的な装飾。


 その強靭な外見から判断する限り、耐久性は極めて高いと感じられた。


 何より印象に刻むには、その神聖なる輝きを放つ黄金の瞳と頭上にグルグルと廻って浮かぶ輪っか。──そして、先程大空を翔った大きな六対の翼。




「すごいなぁ......!」



 無意識のうちに、感嘆混じりの驚きがアダムの乾いた唇から零れ落ちていた。


 今まで目にしてきたこの楽園の生き物とは何もかもが違っていて、その来訪者たちが帯びた異様の風格と貫禄にアダムは魅入られていた。


 それはアダムの隣にいる、先程から身じろぎ一つせずに立ち尽くしているエバも同様だった。

 彼女は呆然として、まるで時が止まったかのようにを食い入るように見つめていた。



 〈アダム エバ〉



 その時澄み渡る上空から降ってきた神の声が耳を打つ。その同時に二人はハッと我に返った。




 〈ようやく この日が来た〉


 〈汝らに我が御使いを紹介しよう〉




 神の声が辺りの草原一面に響く。



「神の、」


「御使い?」



 初めて聞く言葉にアダムとエバは首を傾げる。




〈左様 この世の森羅万象を構成する七大元素を司りし 最も我が身に近う守護者〉


 〈その名も【天使】とされる〉   





 天使──それが今自分たちの目の前に悠々と聳え立つ七人の正体か。


 それぞれの威を備えた高潔な光を放つ姿を見ていると、自分たち人がまるで塵のように小さくも弱い──アダムたちは思わざるおえなかった。




(しゅ)よ。我ら七大天使(セブンズ)ここにて見参」




 七人の天使一同は、神の御前の下、頭を垂れ跪いた。





 〈よくぞ集まった 天なる我が子らよ〉





 その響きは宣言するように。




 〈 我は命じる 輝ける装いのまま

 前へ出で 立てるがよい 〉





 その呂律(りょりつ)は奏でるように。


 


 〈授かりし輝きたる栄光を

 (ヒト)に示せ〉



 無機質にもどこか(うた)うような玉音。それに追随するように、天使たちは一度仕舞った翼を誇示(こじ)するかのように再び広げた。


 御姿は見えずとも、その一声一声に、聖なる神力が乗せられているのか、耳に入る度に体が震えてならない。



 〈炎の守護者 ウリエル〉



「御意!炎のウリエル、御身(おんみ)の前に!」



 神の呼びかけに元気良く応じるように、ガッチリとした立派な体格を持った真っ赤な天使が威風堂々と前に出た。


 まず真っ先に目が行くのは、その天使の頭に浮かぶ烈々と燃え盛る炎の輪っかだった。


 そして分厚い胸板に広い肩幅、赤銅色の肌をした筋骨隆々な身躰には力強さを感じさせる。固く身に纏う燃えるような真紅な甲冑には炎をモチーフにした装飾の紋様が刻まれて(つる)のように伸ばし、肩の部分では鋭い刃物のように突き出ていた。


 その外見に見合う鋭い眼光から──覆面からでも察してしまう──そこにはきっと並みの者が泣き出しそうな(いか)つい強面が潜んでいるに違いない。



 〈水の守護者 ガブリエル〉



「──御意。水のガブリエル、御身の前に」



 情感籠った柔らかで優しい声で応じたのは先程のウリエルと比べ、小柄な天使だった。淑やかなのに、どこか華やかなで上品な雰囲気があった。


 頭上には水飛沫を上げながらも緩やかに舞う水の輪っか。まるでエバのような人の女を象ったスレンダーで滑らかな躰。

 控えめで鮮やかな水色の甲冑では隠し切るどころか、その四肢の優美な曲線美を絶妙に引き立たせていた。



 〈風の守護者 ラファエル〉


「御意。風のラファエル、御身の前に」



 次に応えて優雅な足取りで音もなく前へ踏み出して現れたのは三メートルはあるであろう一番背丈が高い天使だった。


 その気性を表すかのような穏やかな気流の風が渦巻く輪っか。現にラファエルは現れた瞬間に、ふわっと柔らかな風が身体全体を包み込んでくれるのが分かる。


 甲冑を纏う他の天使とは違い、唯一緑色のロープを身に包んでいた。右目にはきらりと光らせた片眼鏡がかけられていて、その天使の高貴なる知的な印象を強めている。




 〈雷の守護者 ラミエル〉


「御意〜!雷のラミエル、御身の前に」



 楽しげに返答したのはどこか捉え所が無い感じがする天使だった。

 しかしその飄々とした雰囲気からは裏腹に、その頭上に浮かぶ輪っかには激しい青白い稲妻がパリパリッと鳴りながら走っていた。


 ふとその青い天使が隣にいるエバに向かってウィンクし、さらには愛想良く手を振った。

 それを見たアダムは自分でも何故かわからないけど、つい顔を出して少しだけ、むすっとしてしまった。



 〈地の守護者 ハニエル〉


「御意ぃっ!地のハニエル 御身の前にぃ!」




 今まで落ち着いた点呼の中で一番テンション高く、ぶんぶんと元気よく手を振って飛び出してきたのは、天使の中で最も小柄な天使だった。


 ひらひらと揺れるまるで花模様のある橙色の甲冑を身に纏い、頭の両サイドには大きな鮮やかな花を咲かせている。

 土でできた頭の輪っかにもところどころ花が咲き乱れていた。黄金に光る大きな瞳が非常に愛くるしい。


 ここにいる覆面天使たちの中で唯一素顔を隠していない分、その感情豊かさがよく伝わってくる。




 〈次に 光の守護者 ミカエル〉



「ハッ!光のミカエル 御身の前に」




 ミカエルと呼ばれた天使は凛とした姿勢でアダムとエバと向き合う。




「──(ヒト)の祖よ。お初にお目に掛かる。私は光のミカエル。本日は天使一同を代表として訪問させて頂く」




 穏やかな口調と丁寧な仕草で自己紹介をするミカエルに、アダムとエバも自然と緊張が打ち解けて微笑みを蓄える。


 そして最後に、




 〈最後に 闇の守護者  ルシフェル 〉



 一瞬、世界が止まったような、気がした。



 ツカツカと賑やかな天使達の群れの間をすり抜け、悠然と一歩一歩前へ出たのは、それまでかつてない凄まじい光を放つ天使だった。



〈ルシフェル 天の子らを束ねし崇高なる者よ〉



 それは目は眩むほどの美しい天使だった。全身から放つ光とは対照に頭上に浮かぶ輪っかには禍々しくも艶やかな紫の光が湧いては空中に溶けていく。


 純白な甲冑には部分的に紫で彩られ、鮮やかな黄金の模様で描かれ、その奇妙なコントラストを描いた神秘的な美しさはまさに「曙の明星」だった。


 間違いなく、ルシフェルはこの場にいる七人の天使の中で最も美しかった。

 

 ついその天使を見惚れてしまうアダムとエバはそう確信する。一瞬でもその闇に秘める輝きの虜になってしまいそうだ。


 ふと、アダムはルシフェルと視線が絡んだ。他の天使に同様、眼の部分だけが開いた覆面のために表情はよくわからない。


 しかし、覆面の中の光る目とぱったり視線があったと感じた瞬間、アダムは悟った──自分たちはこのルシフェルという名の天使からは歓迎されていないことを。


 根拠などはない。


 ただ直感的にそう感じた。あえて言うならばその値踏みするかのような目が答えなのだろう。


 じろじろと値踏みするかのようにアダムとエバの全身に視線を這わせ、ルシフェルは声の調子を落として言った。




「.......。闇のルシフェル。御身の前に」



 唯一彼だけは己の翼を広げることはなかった。




 (やはり、気のせいでは、ない)




 ルシフェルだけは友好の影が見られない。他の天使たちはそれなりに好意的で、人には興味津々な様子であるのに対し、彼だけは表向きの無関心にどこか嫌悪が潜んでいた。


 ふと、ルシフェルの目線がアダム達に留まった。彼らの肌は目を灼くほどに白かった。二人は何も身に纏っていなかった。

 何の躊躇いもなく晒したその裸体は、逆説的に人の無垢を語っている。


 しかし──、




「そのような一糸も纏わぬ素裸を我々の前に晒してなおも(はばか)らぬのは、“無垢”ゆえか、はたまたただの“無知”か。まさに()()だな。」




 それは痛烈なルシフェルの批判だった。


 細い針にも似た鋭いものが無数に込められた──思いがけないルシフェルの言葉と態度に、ミカエルが目に見えて動揺しているのは明らかだった。

 即座にルシフェルへ牽制の視線を向けられるが、その先手を取るかのように逆に射抜かんばかりに睨みつけられた。 



「──?」




 ルシフェルの言葉に潜む悪意をアダムには理解できなかった。


 かといってそれを聞き返す勇気は、ルシフェルの威圧感の前にするアダムにはかなり必要で、ついには追及する気になれなくなってしまった。


 しかし、ルシフェルの気迫に気後れしながらも、アダムの心の中には彼に対する何か収まりのつかない棘のようなしこりが残っていた。


 今までに感じたことがなかったもの──その感情の正体は、今のアダムには知る由もない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに対面した天使と人。 それぞれ天使ごとに返事個性的でいいですね。 さて、ルシフェル言う「劣化」という言葉が今回の気になるポイントですね。 これは「人が天使に劣る存在だ」と言いたいのか…
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