農作物を安く美味しく ラ・シエル領地内
【農作物を安く美味しく ラ・シエル領地内】
俺には新たな目標ができた。
今までの俺は自分しか見ていなかった。
だが、目が初めて自分の周囲そしてラ・シエル領の外に広がった。
俺の新たな目標とは。
いろいろしたいことが増えたのだが、
第一にラ・シエルエリアの食事情を向上させる。
貧しい人にも食事が行き渡るように。
貧しくない人にはさらに美味しい食事を。
欲をいえば、あの森の向こうの村の人たちにも
食事を届けてあげたい。
調べたり人と話し合ったりしているうちに、
森の向こうの貧しさの背景がわかってきた。
単純にいえば、人口増加に農業生産が追いついていない。
開墾できる土地は開墾しつくしている。
森の開墾を広げているが、森の恵みも減少している。
解決方法の一つは肥料。
肥料が全然足りていない。
毎年肥料を与えるなんてことは貧民地区ではしない。
5年に1回程度だ。
経済難民は前世でもニュースを賑わせていた。
前世のような発展した社会でも人口の3分の1だかが
食糧不安に陥っているという話を聞いたことがある。
ひどい飢餓状態の人は10億人ぐらいいるという。
前述のように、温泉探しで王国やその周辺を歩いて驚いた。
貧富の格差。
ラ・シエル街にも浮浪者はいるし、スラムもある。
が、それでも恵まれていると思わされた。
外の世界を周ると、
食べ物がなくて冬を越せないような貧民が数多くいる。
僅かな農作物を奪い合う。
これが村単位で起こる。
農作物が採れない。じゃあ、隣村へ盗みに行こう。
日常的な話だ。
それが大きくなると、国同士の戦争となる。
王室は。
この世界の王室は、各領軍のまとめ役のような存在。
力はあるが、それでも飛び抜けているわけではない。
王、という言葉から連想する絶対的な力を持っているわけではない。
「農産物を安く作りたい?」
俺はバジルさんと話していた。
「ああ。貧しい人たちも食べられるように」
「なんだ、いきなり社会派になったのか?」
俺はバジルさんに俺の見てきた衝撃を話す。
「森の向こうに行ったのか。ラ・シエルエリアは王国では多分一番裕福な場所だ。その基準で森の向こう側を見れば、驚くのはわかる」
「どうすればいいんだろう」
「あのな、このテーマは個人には大きすぎるのはわかってるな?」
「ああ」
「その上でいうが、人口が増えすぎてるんだ。それが最大の問題」
「農産物の増産はムリなのか」
「してるさ。懸命にな。だがな、そろそろ開墾できそうな土地が無くなりかけている。カラッカラに乾いた土地とか、湿地帯とか、開墾は難しいだろ?」
「うん」
「だから、今は森を切り開き始めている。ところが、森の恵みって奴は大きいんだ。森を切り開いたら、森の恵みもなくなってしまう」
「ああ、開墾とかでは難しい局面にいるわけか」
「となると、見向きもされなかった土地を開拓するか」
「荒れ地とかか」
「ああ。ただ、とんでもない資金と人が必要だ」
「それはわかる」
「もう一つは肥料だ。肥料が不足しすぎている。この肥料を安価に供給できれば、かなり食糧問題は解決する」
「なるほど。俺たちの肥料はその解決になるわけか」
「そうだ。ただ、もっと量産して価格を下げる必要があるがな」
現状では、貧しい農村だとめったに肥料を与えられないという。
多少質の悪い肥料でも増産する見込みが立つ。
「もうひとつは、俺たちが使っている魔導農機具な。あれを開墾に利用する。荒れ地なら、川を引き込み、森から腐葉土を運んで土壌改良をする。土地は生まれ変わる」
「おお」
「ただ、莫大な魔石が必要になるな。こうなると、個人がどう、という問題じゃない。でかい組織が必要になる」
「うーん、荒れ地の開拓はちょっと横においておいて、肥料から考えてみるよ。アンリさんに相談してみる」
◇
「なに、魔石肥料の増産バージョンをつくりたいって?」
俺はアンリさんにも背景を説明した。
「また、でかいことを考え始めたんだな。そんなの個人の力量ではしれてると思うが、でもみんなで力を合わせれば量は確保できるな」
「だろ?」
「さしあたってだ。森の腐葉土、これを活用したいところだが、入会権といってな、森の恵みを利用できる権利は村に割り当てられているんだ」
「じゃあさ、森の深いところだったら、村の入会権も届かないんじゃない?」
「まあ、そうだな」
「じゃあさ、どんどん腐葉土を採取しようよ」
「森の奥はおっかねーぞ?」
「まあ、こっそりと転移魔法陣を使って。それに、強そうな人集めて一気にやれば大丈夫でしょ」
「大丈夫か?」
「結界で保護して、念のために傭兵とかおいてさ」
「うーん、それなら行けるか。あとは魔石肥料で強化すれば、そこそこ安価で大量に肥料ができるぞ」




