教会領に潜入してみた
【教会領に潜入してみた】
守旧派貴族領よりも問題は教会領だ。
教会領の税は以前は5か6だった。
しかし、昨年からは7となった。
とんでもない重税である。
それでも領民たちは信仰に支えられている。
自分たちは敬愛する神を支えていると信じている。
その想いがあるため、苦しくても必死に税を払っている。
払えなければ、教会に借金をする。
年老いた両親は森に捨ててくる。
子供は、組織に売る。
歯を食いしばってでも信仰を支えようとする。
「父ちゃんの話を聞いていると、教会領の領民たちって熱い人が多いみたいだね」
「まあ、そうだな。教会領に誇りがあるんだろうな。他領と違って、直接神の御下にいるような気持ちかもしれんな」
「でもさ、収穫の7割もっていかれるって、ちょっとひど過ぎない?領民たち、よく耐えてるね」
「さすがに限界を超えているようだぞ。収穫の、っていうが、その数字は理想値をもとにしている。100%の収穫があるならば、っていう仮定の数字をな。実際の収穫はたいていこの数字より少ない」
「じゃあさ、収穫が税より下回るってことも考えられる?」
「ああ」
「そんな。支払いができないじゃん」
「借金をしてでも払わせられるんだよ」
「ええ!」
「どうやら、教会領では上申デモが頻発しているらしいんだが、はっきりした話が漏れてこない」
「ひょっとして、徹底した弾圧?」
「多分な」
「人の口には戸を立てられないっていうけど」
「魔導具か薬かなにかを使ってるんだろう」
「うわあ。俺さ、ちょっと偵察してみようか?」
「うむ。オレもちょっと気になるんだよな。教会領が不安定になると、周囲にも悪影響が出るしな」
◇
俺はステルススキルを使って教会領を見聞してみることにした。
教会領と市議会領の境には主要な街道に関所が儲けられている。
まあ、街道と言ってもそんなに立派なもんじゃない。
獣道よりは立派、といった程度だ。
もちろん、俺は関所をスルーした。
関所の裏を忍者のように走り抜けて教会領に入っていく。
ただ教会領を見るだけなら特別なことはおきないかもしれない。
俺は領民の会話をこっそり聞いてみるか、
それともインタビューしてみようか、
いろいろ考えつつ、教会領を巡っていると、
何やら騒ぎに出くわした。
「お願いします!必ずお返ししますから!いましばらくのご猶予を!」
「もう聞き飽きたわ。利息分だけでも払っていたから支払いを延期していたが、もうそれもおしまいだ」
「いや、娘を連れて行くなど!どうか、ご勘弁のほどを!」
「契約書に書いてあるだろ?承知の上で金を借りてるんだ。おい、連れて行け」
「はっ」
驚いた。
借金のカタに娘が連れて行かれようとしているようだ。
借金のカタに娘が売られる。
前世でもよくあったことだし、この世界でも世界中で行われている。
ただ、娘を連れて行こうとするのは、教会関係者、
武装神官なのだ。
俺は驚きのあまり、固まってしまった。
教会と借金の取り立てで娘を拉致する。
その2つが結びつかない。
結局、娘は連れ去られてしまった。
親はうずくまっておんおんと泣いている。
俺にできることは何もない。
前世ならたとえ契約書があったとしても、
借金のカタに娘がなるなどというのは違法契約になる。
無効な契約だ。
だが、この世界では違法にならない
そもそも、奴隷が合法なのだ。
懲役奴隷、借金奴隷、戦争奴隷が代表的な奴隷である。
戦争奴隷はともかく、懲役奴隷は刑務所のかわりとして、
借金奴隷は借りた金を返させるため、この世界で十全に機能している。
借金のカタになるのは、娘だけではない。
息子や奥さん、本人さえも売られていくのだ。
人だけではない。
土地持ちならば、真っ先に土地を持っていかれる。
それは庶民だけではない。
王族に連なるような由緒ある家でも、
遠慮なく土地を差し出さなくてはならない。
公爵クラスでも領地も館も持っていないものがいるぐらいだ。
前世であるならば、王室や領主による徳政令が度々起きていた。
庶民ならば、逃亡だ。
しかし、この世界では魔法契約書で縛りを受けている。
徳政令は起こせないし、逃亡もできない。
庶民はともかく、王室や貴族たちがなぜ借金をするのか。
たいていは無駄遣いをしているわけではない。
戦費が財政を圧迫することが多い。
次に食糧問題だ。
旱魃、冷害、水害、あらゆる災害が領地を襲う。
そのたびに領民にも救援をしなくてはならない。
そうじゃなければ、大規模騒動が起こる。
援助と騒動とどちらがマシか。
たいていは援助を取る。
財政を圧迫された彼らが頼るのは教会だ。
年利100%、つまり1年経つと借金が倍になる。
トイチほどではないが、それでも高利だ。
◇
教会が奴隷商人への奴隷の供給元となっている。
いくらそれがこの世界で合法だといっても、
教会がそれをやるか?
俺は教会へのネガティブな感情を持ったまま、
奴らのあとをつけてみた。
彼らの日常を観察するためである。
俺は再び驚いた。
奴らの自堕落な生活ぶりにだ。
まさしく彼らは生臭坊主であったのだ。
教会領にステルスで入り、神官や領民にこっそりとリサーチする。
神官に隠れてついてまわるとすぐにわかるのは、
彼らの口の悪さだ。
およそ聖職者とは思えない乱暴な言葉を使う。
しゃべりも軽薄で重みがなく、平気ででまかせを言う。
他人の悪口もしょっちゅうで、告げ口が多い。
すぐに、聖職者どころか人間としてどうか、という人物が多い。
さらにリサーチを重ねていく。
神官は随分と贅沢になっているようだ。
領民との食事レベルの差は圧倒的だ。
神官はまるで富裕層のような食事レベルなのだ。
食事が不味いとすぐに怒りだす。
食事だけではない。
なにか不満があると、すぐに怒り出す。
ここまででも人品の卑しさがわかるのだが、
生臭坊主はそれだけではない。
博打大好きの神官が多い。
ラ・シエル街の娼婦を呼び寄せて囲っている、という話も聞く。
これらの贅沢に湯水のようにお金を使っている。
そのお金は領民から巻き上げたものだ。
前述のように重税をかけ、
不足していれば所持品を取り上げ、借金をさせ、
払えなければ本人や家族を奴隷として差し出させる。
以前から教会は傲慢だったというが、
それでも教会内部の統制は比較的厳格だったという。
ところが、1年ほど前から激変したところが多いという。




