ペニシリン
【ペニシリン】
カビの効用については、青カビチーズが古来より有名だ。
通常、青カビを摂取するのは体に毒だとされている。
実際、アレルギーとか喘息とか体の異変を起こすことがあるのだ。
では、青カビチーズはどうかというと、
チーズが青カビの毒性をけしてしまうのだという。
前世だと青カビにはもう一つ有名な効能がある。
ペニシリンの材料になることだ。
これは知っていないと非常識と言われるぐらい有名だった。
だから、僕も古代書に書かれてあるとして、
ペニシリンをこの世界に広めることにした。
カビ研究所での重要研究の一つに青カビの研究をあげたのだ。
薬師業界が不得意としているものがある。
疫病の対策薬だ。
病にかかった場合は、自然治癒魔法によって体の免疫力をあげ、
病を治癒していく方法をとる。
症状が軽ければ治癒するが、重くなるとお手上げのケースが多い。
そして、それ以外にはほとんど方法がないのだ。
ペニシリンはこの状況を改善する手立てとなる。
アスタシオとロレーヌは二人揃って薬師の選択授業を取っている。
彼女たちには聖魔法(神聖魔法)が発現しているからだ。
※神聖魔法は聖魔法の上位互換
聖魔法と薬師は親和性が高い。
聖魔法には
回復魔法 外傷を治す
治癒魔法 一時的な身体異常(麻痺や混乱など)を治す
対毒魔法 毒消し
自然治癒魔法 人の本来持つ自然回復能力を向上させる
といった魔法がある。
もちろん、これらはダンジョンの外では
聖属性魔導具でもって魔法を発現することになる。
属性魔導具はその属性の発現しているものしか扱うことができない。
それと、聖属性持ちが回復薬を使うと効果が倍増する。
そういう面からも、聖属性持ちは薬師に向いているのだ。
さらに二人は生来の頭脳の高さ故に、
授業開始早々から薬師への顕著な適正を示すことになった。
それで、6月が終わる頃にはアンリカビ研究室で助手を務めることになった。
正式な研究員ではなく、バイト扱いではあるが、
彼女たちの軸足は徐々にこのカビ研究室に移っていった。
アンリ研究室の内容が学園の授業を遥かに超えているからだ。
「本当に青カビが薬になるわけ?」
「古代書によれば。化膿に効いたりするんだよ。青カビチーズがあるぐらいだから、青カビが有用であってもおかしくないだろ?」
「うーん、わかんないけど、古代書にあるぐらいなんだから研究する価値はありそうね。ジョエルの推しの研究だし参加しない手はないわ」
これはアスタシアたちとの会話。
◇
青カビの研究の前に、化膿を引き起こす原因を特定する。
「この、なんだ、ブツブツが化膿菌なのか?」
アンリさんは顕微鏡を覗きながら、不思議そうな声をあげる。
「古代書によると、ブドウ状球菌と呼ぶそうですね」
「ああ、たしかにブドウの房に似ているな」
「これを培養して、青カビをはやして見ましょう」
………
「ほお。青カビの周りのブドウ球菌、死滅してるようだな」
「古代書の記述通り、化膿に効くみたいですね」
「よし、アンチ化膿物質を取り出すか」
流石に、俺はペニシリンの作り方を知っているわけではない。
ただ、前世で大ヒットしたテレビドラマで、
江戸時代にペニシリンを作るという場面があった。
作ったのはタイムワープした現代日本の医者である。
その場面をうろおぼえながら覚えていたのだ、
その曖昧な記憶をもとにペニシリン製造工程を確立していった。
結局、以下のようになった。
①アオカビの培養液をろ過する。
②ろ過した液体に、菜種油を注ぎ、樽の中を棒でかき混ぜる。
樽の栓を抜き、一番下に溜まった水の部分(水溶性物質)だけを
別の容器に移す。
③ろ液に活性炭を入れ、イオン化したペニシリンを吸着させた。
④活性炭に酢酸水溶液を加え洗浄した。
⑤洗浄後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。
酢酸はアルコールを酸化させて作る。
酢の主成分であり、古来より製造されてきた。
炭酸水素ナトリウム(重曹)はこの世界ではありふれた物質だ。
胃薬やお掃除道具として薬局で販売されている。
◇
「この薬が化膿に効くんだって?」
俺たちはペニシリンを製造し、効能や副作用のチェック後、
いつものように冒険者ギルドのギルマス・ジャックのもとに薬を持ち込んだ。
アンリ~ジャックルートはアンチ保守派ラインとして、俺達には欠かせない。
もちろん、大評判を引き起こす。
何しろ、化膿対策を全面に押し出した薬は今までになかった。
しかも、非常に即効性がある。
冒険者のような外傷の多い人たちには待望の薬なのだ。
もちろん、化膿薬などとは謳っていない。
美容液として販売している。
それでもあっという間に冒険者たちには常備マストの薬となった。




