温泉と金銀鉱山
【温泉と金銀鉱山】
学園は夏休みに突入した。
夏最盛期だ。
前世日本ほどではないが、日中はシャツ1枚で過ごせる。
湿度が低いため、実に快敵だ。
ドワーフ村が友愛を感謝して、褒美をくれるという。
ドワーフにはいろいろと便宜を測ったからな。
ただ、欲しい物などない。
「そういえば、ドワーフの人たちって温泉巡りしてるよね?」
「温泉巡り?いや鉱山めぐりならしてるぞ。温泉は危険な場所だからな。場所と特定したら近づかないぞ」
「その温泉に興味があるんだけど。温泉に入ってのんびりしたり体を洗いたいんだよ」
「体を洗う?シャワーとか川で十分だろ?」
俺は元日本人だから、温泉大好きだ。
しかし、王国では温泉なんか誰も好まない。
というか、温泉の良さを知らない。
むしろ、熱いお湯が出るということで危険地帯に指定されている。
「王国の管理外、隣国の土地でもない空白地帯を教えてほしい」
「まあ、教えるのは問題ないが。ただ、危険地帯であるのは温泉ばかりが理由じゃない」
「そんなに危ないのか?」
「空白地帯を誰も占拠しないのには理由がある。それは行ってみればすぐわかるよ。魔物はいないが、魔物と同等程度の獰猛な獣が多いんだ」
「獣?」
「まずは狼だな。単純に大きいんだ。子牛のような大きさの個体もいる」
ドワーフが言うには、
前世ラブラドール・レトリーバーよりも1周りか2周り大きいようだ。
ライオンとかよりも大きいのだ。
「しかも、当然力も強い上に非常に攻撃性が強い。普通の大人だと、絶対に勝てない」
「ふむ」
「しかもだ。1匹だけでも危険なのに、10頭前後の群れをなして襲ってくる。統率も取れている。よくあるのは、群れで対象を包囲して襲ってくるパターン。戦争でも包囲殲滅戦は有力な兵法だろ?」
「頭がいいんだな」
「ああ。老獪な奴らだぞ」
「他にもいるのか?」
「狼以外でも、猪、熊も恐るべき敵だ。
熊になると、体重が数百キロもある超大型獣になる。
出会ったら巨大な熊の手で頭部或いは上半身を一瞬にして吹き飛ばされる。
逃げようにも、奴らは時速50kmを優に越える速度で走る。
大蛇、大蜘蛛、大ムカデなども恐るべき敵だ。
軍隊レベルで行軍しないと、死にに行くようなものだ」
◇
俺は検討の結果、一人で行ってみることにした。
流石に父ちゃんたちもダンジョンの外では強い一般人という程度だ。
危なくてこんな場所には連れてこれない。
ドワーフの話を総合すると危険度はダンジョン15階程度のようだ。
俺を守るものは、まずはステルススキル。
ダンジョン20階程度でも俺のステルススキルは有効だ。
しかし、敵が俺と同等以上の気配察知能力を持っていることも考えられる。
強力なステルススキルを持っているかもしれない。
だから、見通しの悪い場所へは容易に入っていかないことにする。
基本的に荒野のような場所を進むことになる。
いざというときには人工魔素フィールド魔導具を使う。
この場所は王国外だから、
魔素フィールドを張り巡らしても何も言われない。
しかし、魔石消費量が半端ではないのだ。
俺の開発した省エネ魔導具を取り付けたとしても。
だから、常時ONは難しいとしても、いざというときには役に立つだろう。
もっとも、ドワーフの教えてくれる温泉は比較的安全な場所にある。
流石にドワーフたちも危険な場所には立ち入らない。
そもそも、温泉自体を危険だと認識している。
王国では温泉どころか、一般的に風呂さえない。
上級貴族とか富裕層が趣味程度に風呂に入る程度だ。
山の中にある温泉など、近づくはずもない。
さて、ドワーフに教えてもらった温泉。
様々な種類がある。
白濁し硫黄臭い温泉。
塩素臭い温泉。
泡が出る温泉。
塩っぱい、苦い、黄色、水色、茶色、黒色。
この荒野は王国の西側にあるのだが、
さらに西側に走る山脈が火山帯である。
地震もよくあるらしい。
温泉を見つけ次第、早急にステルス魔導具で隠蔽し、
転移魔法陣を置く。
ステルスはもっぱら人向けだ。
獣には役に立たないこともある。
だが、奴らは転移魔法陣などに興味を示さない。
残念なのは、泡が出る温泉。
炭酸温泉である。
しかし、不味くて飲めない。
炭酸以外の不純物もかなり含まれているようだ。
飲用可能であれば、炭酸飲料が簡単に作れるんだが。
【温泉を探り当てたら、金山銀山も見つけた】
温泉を開発したのは白濁温泉と単純温泉。
2つが比較的隣接していたからということもある。
それに、単純温泉は温泉初めての人にもとっつきやすい。
白濁温泉は硫黄系の温泉で、腐った卵の臭いは典型的な温泉だと思うし。
俺は転移魔法で父ちゃんを温泉場予定地に連れてきた。
「うおっ、なんだこの卵の腐ったような臭いは」
「父ちゃん、この臭いがいい温泉の証拠なんだよ」
「そうなのか?大丈夫なんだろうな」
王国の人たちは温泉に興味がない。
むしろ、危険地帯との認識がある。
「問題ないって。じゃあさ、縄張りしていこうよ」
縄張りとは、建物を立てるときの位置決めのことである。
文字通り、地面に建物の形に沿って縄を張り巡らすのだ。
「ジョエル、縄張りはこんなところか?」
「いいんじゃない?」
父ちゃんは土属性で土木・建設系の魔導具が使える。
危険な場所だから、側はしっかりとしたものにする必要がある。
二重の分厚い外壁と強力な結界・防御魔導具で武装する。
攻撃を受けたときに爆発系や電気系の魔法で迎撃するという、
アクティブ防御システムも組み込んである。
「ふう。簡易的だが湯治場は一応完成ってとこだな」
「父ちゃん、上出来だよ!」
「じゃあ、クリスとマノンも呼ぶか」
◇
「くさーい」
「卵が腐ったような臭いね」
母ちゃんとマノンも第一声は父ちゃんと同じだ。
「この臭いが肌に作用するんだ。手を入れてご覧よ。ツルツルの肌になるから」
「そう?……あら、ホント!」
「うわ、お肌が気持ちいい!」
「なんだか、肌が透明になってくる気がする」
卵臭い臭いよりも肌がキレイになる効能が勝り、
3人共、臭いのには慣れてしまった。
転移魔法陣を設置してあるので、週に何度も温泉に通うことになった。
【金銀山】
関心を持った温泉はもう一つある。
塩素臭い温泉だ。
俺は大学のときに好奇心で地学を履修したことがある。
担当の先生が温泉大好きで、
その時に金の発見方法を解説していた。
詳しい話は忘れたが、
温泉で変質した岩石に金が含まれていたり、
塩素臭い温泉の地下には金鉱が眠っていたりするという。
その話を断片だけ覚えていたので、
試しに金属探知機を買ってみることにした。
金属は微小な魔素を吸収する。
その魔素が金属によって違う特性を示す。
その違いを区別するのが金属探知機。
魔導工学部では近年の発明品である。
高額だが、俺にはどうということはない。
これを自費で購入する。
で、塩素温泉で金属探知機を作動してみると、
ビンゴ!
金銀鉱山の反応を示した。
ただ、表面にあるわけではない。
俺は手堀りすることにした。
何を無茶な、と思うかもしれないが、
俺のステータスは野獣を通り越して、超人になっている。
ガーと掘り進んでいった。
掘った周囲は土魔法魔導具で固めていく。
本格的な掘削魔導機をガリエルさんと開発してもいいんだが。
10mも掘ってみると、金銀鉱が現れてきた。
なかなか大きそうな鉱山だ。
「父ちゃん、どうだ、金銀鉱山掘り当てたぞ」
「うお、大金持ちじゃねえか」
「いや、俺んちって魔石がうなるようにあるからかなりの金持ちじゃないか」
「まあ、お前は魔石を生成できるしな」
「そうよ。こんな鉱山、どうするの?金銀なんてめんどくさくない?」
「だよね。ハイエナたちがやってきそう」
「へへへ。実は俺には壮大な計画があってね。実現できるかどうかはわからんけど。ただ、計画内容は内緒。説明も難しいし」
「えー、ケチ」
まあ、計画内容はそのうち披露できるかもしれない。




