ドワーフ騒動
【ドワーフ騒動1】
「うう、なんという強い酒精じゃ」
「村長、凄いだろ。これが俺たちが造ろうとしている酒だ」
「むむ。すごすぎる」
「村長、俺にも飲ましてくれ」
「俺にも」
「もうないのか?」
「村長が飲んだ分でおしまいだ」
「村長だけずるい」
「ずるすぎる」
「ええい、うるさい奴らめ。これはいつになったら手に入るのじゃ?」
「一ヶ月後に第一弾。その結果で次の生産分を決める」
「ほお。それは当然、ここに持ってくるんじゃろな」
「いや、それは決めておりません。というか、売り物にするかどうかも決めておりません」
「は?バカを言うな。必ず、ここにもってこい。いいな?」
「おい、ガリエルさん。この人、大丈夫か?」
「何をひよっこが偉そうに。お前は引っ込んでろ」
「村長!」
なんだ、このおっさん。
頭狂ってるんか?
しかも侮辱的な言葉まではかれた。
初対面でこの対応。
まともな人物じゃない。
信頼関係は零だ。
酒だけじゃない。
省エネ魔導具も使用を禁止したほうがいいな。
魔法契約書にも記載されてある。
信頼関係が破壊される事由のある場合って。
ひよっこと言われ、引っ込んでろと罵られ、
これは契約違反だろ。
魔法契約書の記載にのっとり、この契約は白紙だ。
「おい、短気を起こすな。村長、あんたあんまりだぞ」
「何、人族ごときにへこへこしている?」
「そういうあんたは人族より強いのか?」
「なんだと、どの口が言う」
「ふん。俺が相手してやるから。勝負してやるわ」
「ひよっこのくせに。泣き出しても後悔するなよ。おい、誰か」
「よし、俺が」
「いや、俺が」
「あー、めんどくさい。まとめて掛かってこい」
「いや、待て。ここまで行くともう後戻りできんぞ」
「俺もドワーフ村とは縁を切るから問題ない」
「じゃあ、俺からだ。隣に訓練室がある。ついてこい」
ガリエルさんは頭を抱えたままだ。
俺も頭に血がのぼっている。
「じゃあ、何でやる?」
バカでかいドワーフが出てきた。
「拳に決まってるだろ?」
「ドワーフ相手に拳で勝負するだと?世間をシランやつじゃの」
「「ワハハ」」
周りを囲むドワーフたちが一斉に笑い声をあげる。
「おまえ、おしゃべりしに来たのか?」
「何を。まあよい。かかってこグギャ!」
俺は奴の言葉の最後まで待たずに、
ダッシュで相手に詰め寄り、正拳でふっとばしてやった。
「なんだ、弱っちいな」
「ふざけるな!正々堂々とやらんか!」
「いいから。一列に並べ。相手してやるから」
俺はその場に並んだ20人のドワーフを一撃で倒していった。
「おい、もう終わりか?」
「……」
「じゃあ、村長。あんたの番だ。まさか若いものにまかせて自分は隠れてるだけじゃあるまいな」
「……すまん」
「は?」
「……申し訳ない」
「何言ってる?早く拳を突き合わせようぜ」
「おまえはドワーフ相手に20人連続で倒した。ドワーフの勇者だ」
「だからさ、そういうのいいから。俺はあんたに呆れてるんだよ。あまりに独善的で傲慢な態度にな」
「誠に申し訳ない」
「謝まんなくていいよ。もうドワーフ村との関係はおしまいだから」
「いや、本当に待ってくれ」
「ジョエル、俺からも謝る。村長の態度はひどすぎる」
「許してほしいのなら、村長は降格。平ドワーフに戻りな」
「いや、それは」
「そう。じゃあ、さよなら」
それにしても、改めて思うのが俺の短気ぶり。
チートスキルもちだから、じゃなくて、この世界は基本脳筋だ。
俺も小さい頃からどちらかといえば頭に血がのぼりやすかった。
それを加味しても、今回は短気すぎた。
奢りがでているのかもしれない。
ちょっと反省。
でも、こういう対応は割りとこの世界ではあるあるである。
口より手が先に出る人のほうが多い。
そして、そのほうが好まれるのだ。
◇
「おい、ジョエル。ガリエルとドワーフ連中が来てるぞ」
「ああ、帰ってもらってくれ」
「何言ってる。お前とガリエルが喧嘩しようが、俺とガリエルの人間関係を壊すな」
俺は仕方なくドワーフたちにあうことにした。
「ジョエル、この度は誠に申し訳なかった。あのあと、村長は村の住民からボコボコにされた」
「ヒゲもさっぱり切り落とされ、ペーペーからやり直しに決まった。これはドワーフの刑罰の中では最も恥ずかしいものだ。ほら」
ガリエルさんは、俺に袋の中身を見せる。
「元村長のヒゲだ。ヒゲはドワーフの命の次に大切なものだ。これで許してくれんか」
ガリエルさんが言うには、村長、今となっては元村長は、
あの酒で頭が吹っ飛んだという。
「言い訳がましいが、ドワーフは酒で見境のなくなる連中が多い」
「うむ。俺もついついカッとなっちまった。ここらで幕引きしよう」
「そうか、許してくれるか。じゃあ、酒の話は続けるぞ」
「ああ。酒は後日改めて話し合いだな」
「その件で大事なことがある。本来ならば、村で話すべきことだったんだが」
「何?」
「実はな、ドワーフは3つに分裂している」
「3つの村があるということか?」
「そうだ。分裂した原因なんだが、古代書の解釈なんだ」
「なんの古代書?」
「それがな、ドワーフ村を創生する魔導具に関する秘技が収められているとされておるんだ」
「ドワーフ村を創生する?」
「そうだ。理想的なドワーフ村を造る秘技だ」
「それはそんなに凄いことなんか?」
ドワーフはモノづくりを最大の価値とする。
金銀宝石には財産的な興味がない。
魔石にも。
財宝類は、ただ単に素晴らしいものを作る
その目的に向かうためにある。
モノづくりの最上位がドワーフ村の建設だ。
これが半端なものではない。
ドワーフの最大の住処は地中である。
建設には途方もない費用と時間が必要だ。
建設しても、維持も大変である。
それを一気に解決する魔導具。
それが古代書に載っているとされる。
これがドワーフに論争を生んだ。
古代書の解釈による違いで3つの派閥に別れ、
それぞれ自分たちにの解釈の正しさを証明するために
ずっと争ってきたのだ。
「古代書なら、ジョエルの出番じゃねえか」
「……」
「いつまでも拗ねてんなよ。ちょっと見てやってくれ」
「まあ、いいけど」
俺は気乗りがしなかったが、
いつまでもグズグズしてるのは実にカッコ悪い。
向こうも誠意を見せてくれてるしな。
◇
「以上が俺が解読した内容だ」
「それ、本当なのか?」
「ジョエルの解読力はアカデミーのお墨付きだぞ」
「まるでとは言わんが、3つの村とも見当違いの解釈をしてたのか?」
「おい、他の村の代表も呼んでこい」
緊急3村合同会議が開かれた。
俺もオブザーバー参加だ。
「その解釈では一つ大きな障害がある」
「使用する魔石が莫大すぎる」
「ジョエル、いいか?」
「ああ」
「その件はジョエルが助けを出せる。ブラックボックスの形になるが、魔石消費量を劇的に下げることができる」
「なんだと?!」
「魔石消費量は10分の1ぐらいになるはずだ」
「なんだ、凄い話だな」
「この件は大っぴらにできないので、どうぞご内密に」
◇
3村合同で新たなドワーフ村建設が始まった。
この村は3村統合の象徴として、贅と知識を尽くしたものとなる。
俺はドワーフ特別名誉村民になった。




