蒸留酒の製造
【蒸留酒の製造】
ラ・シエル街では醤油に似た調味料が売られている。
調べてみると、メーカーの責任者はドワーフだった。
名前をゴブリエルという。
どうも、ドワーフの語尾のエルは息子という意味らしい。
つまり、ゴブリさんの息子、という意味になる。
欧州のストイコビッチとかミケルセンとか、
あれと似たような意味だ。
ガリエルさんと一緒にゴブリエルさんの醸造所を尋ねる。
「おー、よく来たな。どうした?」
「いやね、おまえんとこ調味料を醸造してるだろ?それを応用できないかって、この坊主が言うんだよ」
「はじめまして、ジョエルって言います」
「おお、宜しくな。ゴブリエルだ」
「ゴブリエルさんとこって、大豆醸造品を作ってるでしょ。僕はその醸造大豆を利用して、酒を作れないかって」
「大豆酒か?あんまり旨くないぞ」
「いや、醸造酒じゃなくて、蒸留酒をつくりたいんですよ」
「蒸留酒?」
「ちょっとこれ飲んでみてください」
「?酒か……ブホッ、なんだこれ、えらく酒精が強いな」
「多分、50度位のアルコールです」
「50度?たまげたな。そんな強い酒があるのか?」
「本来は90度くらいのアルコールなんですが、それを薄めました」
「!」
「醸造酒の酒の成分だけを蒸留していくんです。何回も。そうして作ります」
「はあ、なるほど。アルコール分だけを集めていくということか」
「ええ」
「それをうちでやれってか」
「はい。お願いできませんか」
「いや、こちらから頼むわ。是非やらせてほしい」
「だろうと思って準備してきたわ。ちょっと待ってろ」
蒸留装置を無馬車で持ってきていた。
「これで蒸留するんか」
「そんなに難しいもんじゃない。温度管理だけしっかりしてもらえばいいんだ」
「よし、すぐにとりかかるぞ」
◇
酒の蒸留は、精油の蒸留とはタイプが違う。
精油は水蒸気を利用する。
しかし、酒のほうは水を沸騰させない。
アルコールの沸点が80度ぐらい、
水は100度ぐらいだ。
アルコール蒸留はその差を利用して、
アルコールだけ沸騰させて蒸留するのだ。
やがて、ポタポタと蒸留されたアルコールが
瓶に溜まっていく。
「どうだ、2回蒸留させたぞ。大豆蒸留酒第1号だ」
「おお、やはりきついな」
「これは少し寝かせるとまろやかになりそうですね」
「大豆調味料も熟成させるもんな」
「それにしても独特の風味があるな。大豆特有の香りなのか?」
「少し、植物成分が出ていますね。これはこれでいい感じじゃないですか?」
「だな。とにかく酒精の強さがたまらんぞ」
「醸造酒さえあれば、どんな酒でも作れます。エールとかライ麦酒とかとうもろこし酒とか」
「おお、そうか。ちょっといろいろ試してみるわ。エールはギルドがうるさそうだから、ギルドで守られていない酒で作ってみるか」
◇
「おーい、どうだ。とうもろこしとライ麦で作った酒だ」
「おお、これはワイルドで素晴らしい風味だな」
「ああ、名付けさせてもらってもいいですか」
「おお、構わんぞ」
「バーボンでどうですか」
「ああ、なかなか美味そうな名前じゃないか。よし、これはバーボンだな」
「これはですね、オークの樽で熟成ですかね」
「オークがいいのか?」
「オークじゃなくてもいろいろ候補があると思いますが、樽を焦がして熟成させるといろいろなフレーバーが出ると本に書いてありました」
「この坊っちゃんはな、アカデミー迷宮学園の秀才でな。数々の成果をあげているんだ」
「ほー」
「これも古代書にのっていた知識です。僕が作ったわけじゃないから、頭でっかちで申し訳ないんですが」
「小さい樽なら早く熟成しそうだな。とりあえず、これで一ヶ月後に試飲してみるか」
大きい樽を利用すると、熟成するのに数年かかるのだが、
小さいのにすると、一ヶ月から数ヶ月で熟成していく。
◇
「このミニ樽バーボン、いいできじゃねえか」
「ああ。これなら大量生産いけそうだな。いろいろな樽用意して、生産開始してみるか」
「でも、売れるか?」
「人族はわからん。奴らはなまっちょろいからな。しかし、ドワーフの間では争奪戦になるぞ」
「ああ、ちげえねえ」
「こうなると、ドワーフの村長に挨拶しといたほうがいいか。よし、お手数で申し訳ないが、ジョエル、つきあってくれんか」
「え?」
「ドワーフ村村長のところへ行くんだよ。そうじゃないと、ドワーフの争いに巻き込まれるぞ。ドワーフの酒好きをなめちゃいかん」
「はあ」
というわけで、俺はいつの間にかドワーフ村に拉致された。




