広域結界魔導具の開発 バジル農園での不穏な出来事
【広域結界魔導具の開発 バジル農園での不穏な出来事】
「お陰で、農産物の収穫が飛躍的に伸びたよ」
バジルさんは俺たちに会うたびに、感謝を示してくれる。
バジルさんの農園。
バジルさんは元有能な冒険者で、潤沢な資金でもって広大な土地を取得した。
元々は農家出身だから、農業への不安はなかった。
それどころか、一般的な農家に比べると随分と贅沢な農法を施した。
しっかりと肥料を与えたのだ。
王国で使用されている肥料とは、
緑肥、家畜の糞、家畜・獣の骨粉、魚肥、腐葉土といったところだ。
この世界では肥料は年1回与えればいいほうで、
数年に一回という場合もある。
バジルさんは、例えば小麦ならば年に3~4回施肥する。
これが小麦にとっては理想的な施肥回数であることは昔から知られていた。
しかし、肥料は高い。
大多数の農家は貧しい農地のまま耕作を続けるしかなかった。
その結果は明らかであった。
小麦だと、平均収穫量は1haあたり1トン程度の収穫量が普通だ。
バジル農場だと、2~3トン程度の収穫があるうえに、
味も随分と向上している。
そこにくわえてアンリ製肥料が加わった。
これが素晴らしい収穫の向上に繋がった。
収穫量は5トン以上、
ひょっとしたら10トンが見込めるところまでに至ったのだ。
しかも、さらに味が向上している。
「順調そうですね」
「いや、それがね。順調というわけでもないんだ」
「何か問題でも?」
「もちろん、農作物に関しては順調すぎるんだ。でもね、周りの目がね」
農家というものは、近隣とのトラブルが多い。
除草剤を散布したら農作物が枯れたとか、水利権の問題とか。
バジルさんが導入した農機具の騒音トラブルも発生した。
農家だけではない。
肥料や家畜の臭いがするとか、花粉が飛んでくるとか、
通行トラブルとか。
一般家庭から見ると、農作業には困惑させられるものが多い。
トラブルが多発するところに、感情的なものが加わるわけだ。
やっかみ、嫉妬心である。
「夜間なんかに畑が荒らされるんだよ」
「敵対してる人がいるということですか」
「敵対というかね。単に面白くない人もいるからね」
「上手くやりやがって、ということですね」
「うん。しかもね、農作物を盗むのも日常的さ」
「ああ、食糧が眼の前にたわわに実ってるんですものね」
「うむ。困ったことに、飢えたら隣の畑からちょろまかす、っていうのは日常的すぎて犯罪だと思っていないことが多いんだよ」
「まさか」
「あのさ。下手すると、隣村の連中が総動員して盗みにくるんだよ」
「はあ」
こうなると、犯罪というか紛争レベルになる。
「対策はしてるんでしょ?」
「もちろんさ。警備員をおいたりはしてるんだけど」
「ふーむ、結界を張ったりしないんですか?」
「畑が広すぎるだろ。個人レベルでは無理だよ」
なるほど。
ここはオレたちの出番だな。
「バジルさん。俺たち、効率のいい結界魔導具を開発してるんですよ」
「ホントか?」
「結界強度や範囲にもよりますが、従来の10分の1以下の魔石使用量で結界が張れるかもしれません」
「凄いな!オレの農園の広さだと1日結界張るのにどうしてもC級クラスの魔石が必要なんだよ。でも、ジョエルの話だとD級の魔石をいくつか用意すればいけるってことか」
「ですね。ホブゴブリンクラスの魔石でいけそうですね」
ちなみに、C級オークの魔石は買うと9万sする。
1年中結界を張ると、3千万s前後はかかることになる。
バジルさんクラスの農地だと、さらに数倍。
これがホブゴブリンクラスでいいとなると、
バジルさん自体がダンジョンで狩ってくることができるようになる。
ホブゴブリンクラスの魔石は自分用に限りダンジョン外に持ち出せるのだ。
対して、それ以上のクラスになるとダンジョン入り口で売る必要がある。
その差は大きい。
「ホブゴブリンクラスなら、今のオレでも無理なく狩れるしな。1日十体程度ならサクッといける」
「今でも、ダンジョン潜っているんでしょ?」
「ああ。レベルは落とさないようにしてるよ。オレはB級だったからな。レベルを落とすのはもったいない」
「警備員を雇うことを考えれば、魔石を買ってもペイできそうですね」
「だな。まあ、結界魔導具、期待してるぜ」
バジルさんの期待にこたえるべく、
俺とガリエルさんとで高効率結界魔導具を製作した。
というか、従来の製品に省エネ魔導具をつけ、
バジルさんの農園に合うように調整しただけなんだけどな。
◇
「おお、素晴らしいじゃないか!」
「ホブゴブリンの魔石10個で1日稼働します。人間はもちろん入ってこれませんし、強い魔法でなければ、攻撃も受け付けません」
「他の奴らに紹介してもいいよな?」
「もちろん!どんどん広めてください」
「よし、わかった。農家ならたいてい同じ悩みを共有してるからな」
「あとですね、結界魔導具の応用でこんなものも作ってみました」
俺が作ったのは、【温室結界魔導具だ】
「なに、結界内では温度・湿度が一定に保たれれるのか?」
「ですね。結界魔導具とエアコン魔導具を組み合わせたものです」
「ほう。すると、季節外れの野菜を作れたりするってわけか」
「ですね」
「よし、買った!画期的な製品だな!」
「これはですね、まだ机上の空論レベルなんで、バジルさんが実験的に試してもらいたいのですよ」
「おお、オレも共同開発者ってわけか?」
「ですね。バジルさんの経験をフィードバックしたいので、しばらくお願いします」
「よっしゃ、まかせろ!」
こうして結界魔導具や温室魔導具がバジルさんのところで展開、
その後、少しずつ他の農家にも整備されていった。




