省エネ燃費技術
【省エネ燃費技術】
夏休みに突入した。
学園のあたりの夏は気温こそ30度以上になるが、
湿気があんまりないから過ごしやすい。
それと、内陸のせいか朝晩の寒暖差が結構大きい。
朝方とか、半袖ではいられないほど涼しい。
さて、最近は俺たちに絡んでくるものがいない。
一方、俺には休む暇がない。
研究に没頭していたのだ。
それも秘密裏に。
ロレーヌたちにも内緒にしてある。
研究内容がやばいからだ。
「どうだ、これで」
試作品をいくつ作ったろうか。
度々爆発騒ぎを起こした。
部屋は防音・防御室になっている。
少々の爆発には耐えられるが、
それでも部屋がめちゃくちゃになることもあった。
「今度こそ」
理論は完璧のはずだ。
あとは動きさえすれば。
俺はできあいの魔導具に俺の開発した魔導具を取り付けた。
「動いた!」
いや、俺の思惑通りに働いているかどうか。
できあいの魔導具には、魔石の消費量を測定する機器がついている。
「おおお!ちゃんと働いている!」
俺の作った魔導具とは、
魔石の消費量を劇的に下げる省エネ魔導具であった。
次は耐久性だ。
1週間ぶっ通しで稼働させた。
問題ない。
耐久性については引き続き実験していくとして。
「さて、この成果をどうするか」
理論値では魔石の消費量を10分の1に下げるものだ。
今後の改良で省エネ効果はますます良くなるはずだ。
こんなものが世の中に発表されたら。
「経済が破壊されるぞ」
世の中は魔石を中心に動いている。
魔石で魔導具を動かし、
魔石が通貨の代わりをし、
そして、魔石を採取し売買することに多くの人が従事している。
その魔石の価値が10分の1になる。
そして、研究次第ではその価値はどんどん下がるかもしれない。
この技術を発表するわけにはいかない。
みんなが大挙して俺を殺しにくる。
飛杼って知ってるか?
前世イギリスで産業革命の端緒の一つになった道具だ。
あんなしょぼい道具一つでも開発者は襲撃を受け、
外国に逃亡せざるを得なかった。
俺の発明はそんなもんじゃない。
この世界を根底から変えそうな発明なのだ。
「だが、利用しないのはあまりにも勿体ない」
俺はガリエルさんに相談することにした。
担当であるガブリエルさんに黙っているのは、
先生の立ち位置がよくわからないことと、
先生に災いがふりかかるのを恐れたからだ。
アカデミー迷宮学園は、表向きは中立の学校だ。
しかし、その実、体制にしっかり組み込まれている。
官僚養成学校との別称があり、卒業生の多くは役人になる。
そんな学園が自由な気質の学びやだとはとても思えない。
俺が反守旧派の物品を導入するだけでも
ひと悶着もふた悶着もあったぐらいだ。
ここに務めている教職員の多くが多かれ少なかれ
守旧派の影響を受けている。
ガブリエル先生もそうだ。
特に魔導具は予算を大量に消費するため、
どうしても体制側に寄りやすい。
ラ・シエルアカデミー迷宮学園はラ・シエル街とともにある、
とはいえども、守旧派にかなりの蚕食を受けているのだ。
学生の多くは守旧派、
卒業生の多くも主に守旧派の官僚となっていく。
自然な流れである。
その点、ガリエルさんは市井の魔導具師だ。
しかも、ラ・シエル街の魔導具師で、守旧派の影響を受けにくい。
◇
「とんでもないものを持ち込んできたな」
「すごいだろ」
「ああ。世の中がひっくり返るってーの」
「これさ、こっそりと魔導具に組み込んでいきたいんだけど」
「うむ。ブラックボックス化すれば問題あるまい。量も限定してな」
「式は古代語だし、暗号でガジガジに固めてある。解析するのは至難の技だと思うよ。とりあえず魔導原動機に採用するってのは」
「おお。すぐにとりかかろう。原動機は魔石消費量が莫大でな。苦労してたんだ」
◇
「凄いな、この省エネ魔導具。取り付けただけで動いたぞ」
「簡便性も特徴なんだ。難しいことはほとんど不要さ」
「この魔石消費量測定器、これも便利だな。これによると、消費量は約十分の一になったということか」
「原動機の実燃費も測定しようよ」
◇
「ふむ、実燃費も約10倍になってるな」
「あとは、無馬馬車、魔導自動車への搭載かな?」
「ああ、これもすぐできるぞ。ちょっと待っておれ」
「おまたせ。取り付けたぞ」
「簡便性が特徴とはいえ、はやいね」
「じゃあ、試運転してみよう」
「これは表でやるわけにはいかないね」
「ああ。裏庭でやるしかない」
◇
裏庭での試運転は快調だった。
引き続き、魔導原動機を農機具に組み込んでみる。
農機具はバジルさんとこのものに搭載したから、
思いっきり実験できた。
すでに稼働しているものに取り付けているので、
不具合はほとんど出なかった。
そして、これら魔導原動機を発表。
魔導自動車もだ。
センセーショナルな話題となった。
ものは市議会に贈呈され、公用車になることが決定した。
そして、俺たちの要望通り、市バスとしての運行が決まった。
そのために何台か発注を受けた。
俺たちは金がほしいわけじゃないから、
必要経費をのぞいて全額孤児院に寄付した。
ただ、その後が続かない。
全てが手作りで生産性が悪いのと、
道路状況がお粗末なので性能が発揮しづらく、
馬車と比べてアドバンスがある、というわけにはいかないからだ。
◇
「どうなってやがる?」
「すみません。機械的なものはなんとか真似できるんですが」
市議会の一人から要望を受けた工房では早速
リバースエンジニアリングを行う。
要するに分解して調べるわけだ。
で、似たようなものは作れる。
しかし、魔石消費量の莫大さで開発がとまる。
魔法陣が組み込まれてある魔導具、
特に省エネ魔導具に関しては、厳重な結界が貼られている。
結界を解いたとしても、
古代語かつ例の暗号プログラミングで書かれてある。
俺以外には解析できない。
だが、これは重大な契約違反だ。
俺たちにバレないはずがない。
彼らもなぜバレないと思ったのか。
魔法契約書の厳重さはよく知っているはずなのに。
しかも、魔法契約書解除魔法なる禁じ手を使ってまで。
「魔法契約書違反その他でお前たちを逮捕する」
市議会の役員は各種違反で逮捕された。
彼の場合は特に罪状が酷く、処刑された。
俺たちは、魔導機の原理機構だけは発表することにした。
完成品を作るものは出るだろう。
だが、魔石消費量の莫大さで頭を抱えることになる。




