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職員の間では・ある学生の心の中

【職員の間では】


「本当にあの大猿を討伐したのかね?それも2回も」


「ええ、しかも圧倒していました。彼はかすり傷追わずに完勝です」


「信じられない。学園の職員でもあの大猿を倒すとなると、10人以上必要だ。ましてや、彼はソロで成し遂げたのだ」


「正直、私も目で追いきれていません。そのくらい、移動速度が異常でした」


「スキルについて聞くことはマナー違反なのですが、彼はヘイトコントロールに関するスキルだっていってました」


「ああ、なんらかの形で大猿のヘイトをそらしているのか」


「ひょっとしたら分身スキルがあるのかもしれません」


「分身?」


「そういうスキルがあるのは聞いたことがあるが、随分とレベルを上げないと取得できないんじゃなかったかな」


「ええ、レベル30前後は必要でしょ」


「彼のレベルは申告では18だ。それはいくらなんでも違うだろう」


「19階のヘルハウンド集団戦でもソロで立ち向かい、数秒程度で全滅させています」


「ううむ。分身スキルはともかく、おそらくレベル30近い実力はありそうだね」


「前期の座学のテストもダントツの1位だったな」


「ええ」


「彼は補欠合格というじゃないか。入試日は体調でも悪かったのかね?」


「それはわかりませんが、近年稀に見る極めて優秀な学生であります」


「それと、彼について気になる噂が」


「なんだね」


「彼は授業がつまらなさすぎるってこぼしているそうです」


「ああ、さもありなん」


「困ったことに、アカデミー在籍に疑問をもっているとか」


「なんと。伝統あるわが校も舐められたものだ」


「彼の実力を目の当たりにすると仕方ないでしょう」


「彼は官僚になりたいとかはないのか?」


「わからんですが、そういうタイプには見えんですね」


「かなり独立心が強い」


「それと、周りに無頓着な傾向があります」


「ああ、それは役人には向いていないかもしれんな。だが、このままでは本当に学園をやめかねん」


「2年生になにか特別な科目を設置したらどうかね」


「特別というと」


「専門性の強い科目」


「彼の魔法属性は?」


「無属性ですね」


「それはまたやっかいな属性だな」


「無属性は研究が進んでいない属性で、わが校には無属性の専門家がいない」


「戦闘術も駄目だろう。彼の得意は拳だが、これも教える人材が学内にいない」


「おそらく、学外の達人クラスじゃないと、無理でしょう」


「魔導工学はどうでしょうか」


「うむ。それなら人材はいるな」


「彼が興味をもってもらえるかどうかわからんが、選択科目に魔導工学を加えてみるか」


「魔導工学関連で魔法陣講座もいいかもしれませんね」


「難しすぎないか?」


「学生というか我々でも難しい講座ですが、彼なら大丈夫じゃないでしょうか」


「うーむ、我々より彼のほうが優秀ということか」


「ひょっとしたら、ずっと優秀かもしれませんよ」


「まさかと思いたいが」



【ある1年E組の学生】


 生まれてこの方、一番驚いたこと。

 ジョエル。


 入学時は全く冴えなかった。

 補欠合格だった。

 身長は低く、しかし、体重は100kg近い。


 僕は士族だ。

 父親が騎士なのだ。

 父親は小さい頃から厳しかった。

 しかも、決して裕福ではない。

 とても太る暇などなかった。


 つまり、彼は裕福で、厳しい訓練をこなしてこなかったのだ。

 入学当初は侮っていた。

 見栄えのしない、しかも自己規律に欠けた人物と。



 ところが。

 みるみるうちに頭角を現した。


 まず、僕たちのクラスには当初、嫌なクラスメイトがいた。

 僕と同じ騎士の息子3人組である。


 彼らは守旧派であり、僕の父親は冒険者あがりの自由派だから、

 あまり近づかなかったのだが、

 とにかく、彼らはやたらマウントを取りたがっていた。


 特にひどかったのは、ジョエルに対してだ。

 それに対して、ジョエルはうつむくばかりであった。


 ところが、いつの間に立場が逆転していた。

 いじめっ子3人組はジョエルにヘコヘコしていた。


 信じられないのだが、

 ジョエルは3人組に『指導』したという噂が流れていた。


 次はクラス別対抗戦。

 ジョエルは、彼と似たような二人の女子とチームを組んだ。

 実に暗くて地味なチームだった。


 これが、いつのまにかE組で圧倒的に強くなっていた。

 他チームの罵声の中、A組に次ぐ2位の成績をあげた。

 他のクラスを黙らせたのは痛快だった。


 まあ、僕たちも彼から『指導』を受けたのだが。


 このとき以来、D組の僕たちに対する嘲りは影を潜めた。

 僕たちはD組の態度にストレスを高めていたから、

 D組の奴らが僕たちを見ると目線をそらせたりするのを見て

 本当にすっきりした。



 次は前期試験。

 筆記部門でなんと、ジョエルは学年でトップになった。

 それもダントツだ。

 1000点満点で、982点。

 僕とは200点もの差があった。


 そして、最高に驚いたのが後期クラス別対抗戦。


 なんなんだ、この男は。

 ダンジョンの20階に行って、

 そこのボス、大猿を2頭、しかもソロで討伐したのだ。


 冒険者レベルでAクラス間違いない強さである。

 学生は当然のこと、学園にいる教職員でも、

 強さでは彼には及ばないのではないか。


 半年前には思いっきり馬鹿にしていたのに。

 今じゃ、立場が逆転どころじゃない。

 というか、補欠合格自体がおかしい。

 おそらく、入試で体調を崩していたのだろう。


 身長も伸びてきている。

 入学時は身長160ぐらい、体重は100kg近い、

 そんなタプタプ体型だった。


 今は身長は僕とあまり変わらないぐらいだ。

 175ぐらいある。

 タプタプしていた体はまだ太めではあるものの、

 随分と引き締まってきている。



 彼は、僕たちが彼のことを馬鹿にしていたことを

 気にしているそぶりはない。

 強いからといって僕たちを下に見るようなこともない。

 実にフラットな態度だ。


 立場が逆転して本当によくわかった。

 僕たちは彼を侮っていた。

 しかし、今は彼は僕たちを侮らない。

 そういう上下関係に興味がないようだ。


 僕は自分の愚かさに本当に後悔している。

 彼を補欠合格だから。

 或いは見栄えのしない体型だから。

 そういう考えを持っていたことに。


 彼が現在超人のような存在だからではない。

 すぐに上下を決めたがる僕の性格を直さなくてはならない。


 彼を見ていて、反省することしきりなのである。





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