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1章9節 汝、教義ト戒律ヲ示シ

 我がチェインメイデン教団は常に教団員の笑顔があふれる明るくアットホームでプライベートでも仲良しで風通しの良い、ヤル気を大事にし、未経験積極歓迎で入信即幹部候補も狙える少数精鋭の新興教団です!


 うーん、クソ。ブラック臭しかしない。ブラックメイデン教団に名前変えた方が良さそう。でも8割ほど事実なのがウチの実態です。終わってます。


 と言う冗談はともかく、教義と戒律は真面目に決めました。


 教義はまずクソシンプルに、『主神への感謝を忘れない』『常に希望を持つ』『団員同士を尊重する』の3つ。ルールめいた感じもするが教義は方針でルールじゃない。でもどんな教団か雰囲気はわかる。ウチは農業主体とか狩り主体みたいな神様の宗教でもないので『そうだ、農業をしよう』みたいな教義にする必要はない。


 ウチの御主神様は仰った。


 何をしてもいい、と。傲慢でも、暴力的でも、自己中でも、淫楽に耽ろうと、怠惰に過ごしてもいいと。とにかく信仰を増やせと。

 だからウチの教団は教団員同士の間で大きな問題ない限りどんな希望を持って門戸を叩こうが許容する。農業したかろうが彼女作りにこようが勉学で一旗上げようとしようが構わない。日々を平穏に過ごしたい。それでもいい。

 一番ダメなのは、何の欲求(モクヒョウ)も持たないでいる事。組織として大きくなればそういう盲目的でゾンビみたいな奴がいると楽なんだけど、今はその段階じゃないし、他にも教団が多すぎてその手の盲目的な奴はそもそも自分の教団から離れようとしない。だからこそウチの教団だ。

 不満なくして自分のコミュニティーから人は勝手に去らない。その不満を、強い欲求を持つ者を、ウチは受け入れる。拾い上げる教団と言う事だ。要するに、主神への信仰さえ大事にして仲間の欲求を邪魔しない限りウチは受け入れますよってことだ。でもって戒律化しないのは万が一の時は目に余るほど教団の秩序を乱す馬鹿を排除できるようにするため。法律に殺人しちゃいけませんって書いてないのと同じ。(キボウ)は尊重はするけど度が過ぎたら俺が排除する。

 或いは、一号ちゃんみたいな一度心折れそうになっちゃった子のセーフティーネットになればいい。希望が無いのなら常に作ることを求められる場所に居ればいい。そういう教団が一つくらいあってもいいはずだ。


 んで、戒律はちょっと変な物をご用意。


 1つ、1日1回以上、意識がない場合を除き必ず主神に感謝を捧げる事。


 これは割と普通かも。けど明確化しているところは少ないかも。当たり前のことすぎてな。遊園地で「いきなり裸にならないでください」なんて言われないだろう?それは当たり前のことだからだ。でもうちじゃなんとなく敬ってますじゃ困るので教義でも戒律でもルールで縛る。


 1つ、1日1回以上、意識がない場合を除き笑顔を作る練習をすること。


 まず形から入るタイプなのよ私。幸福度を上げられる宗教って魅力的じゃない?馬鹿馬鹿しい規則に見えるが、明確なルールが存在すること自体が今は重要なのだ。誰でもできて、かつ労力も要らない。楽だが強制力を持つルールだ。あと、このままだと一号ちゃんが色々と抱え込みしすぎてパンクされてもあれなので、笑顔を忘れないで欲しいという願いを込めて。


 1つ、1日1回以上、意識がない場合を除き自分の目標か希望を口に出すこと。


 今自分が何のために生きてるのかってことを再確認させる。そのために生きることでそれを支える神にも信仰が集まる。大事な事だ。別に高尚な目標じゃなくてもいい。希望でもいい。今日は何が食べたいとか、何をしたいとか、そんな簡単な事でもいい。ウチの教団に入ってくる奴ならそう難しい決まりでもないだろう。これにかこつけて、教団への希望を言っても良しとしよう。戒律で定められていることをしているだけだから合法と言うことだ。まあ叶えるかどうかは俺の判断だがね。


 1つ、1日1回以上、特例を除き運動をすること。


 健康寿命を延ばしてくださいほんとに。研究者系の知り合いは生活捨てすぎな奴が多い気がするので一応ね。この世界じゃわざわざルールにする必要は無いのかもだけど、一応だ。暗黒期とも名高い中世ヨーロッパよりこの世界は遥かにマシとは知っているが、それでも健康意識は大切に。

 

 とりあえずこの4つ。供物やお布施に関する規定は今は設けない。ぶっちゃけそれどころじゃないので。

 入団、退団の規定も今んところはなし。本音を言うと退団に纏わる決まりは作っときたいけど我慢する。神様界ではその手のルールはクソダサいので設けないらしい。神が人に縋りつくとか必死過ぎ乙って煽られるそうだ。神は人より上だから、わざわざ引き留めなんかしねぇよって事らしい。逆に意地張ってるみたいでカッコ悪い気がするが俺が言っても仕方ない事だ。

 もし退団に重いペナルティがあったらチェインメイデン教団の団員増やすとか無理ゲーすぎだしな。こっち側にもメリットがある暗黙の了解なだけに何とも言えない。


 何が面倒ってこの世界、教団を脱退してもそれで即刻神の加護も消滅ってわけでもないってところ。神の加護ってのは一度与えるとそう簡単に消えない、神が明確に消してやろうと思わない限りね。だけどこの世界の神は変に度量が広いというか余程みみっちく思われたくないのか、相当な馬鹿をしないかぎりわざわざ加護を消したりしない。

 神様世界で加護の取り消しがどんな感じかをSNSに例えて説明すると、神にとって教団から抜けるってのはフォロワーから抜けるって感じのレベルらしい。だからといってフォロワーを抜けた奴のアカウントを目を血走らせながら見て住所や素性を特定できそうな情報を集めて現在地を推理してわざわざソイツの家まで突撃してなぜフォロワーを止めたのかと問いだすすかと言えば、それはちょっと病的と言うか恥ずかしくて異常な行為だと普通は思うだろう。神様に於ける加護の取り消しってこのレベルの行為らしい。やり過ぎというかあまりに余裕がなくて必死過ぎてダサイのだ。

 故に、それでも神が加護の取り消しに踏み切るレベルの存在と判定された『剝放者』は殊更恐れられているわけなんだが。

 要するに、神から見ても「こいつは加護を与えといたらヤバい!」て判断された人物ってことだからな。


 この手の神様的感覚に関しても色々御主神様から教わりはしたものの、未だに若干理解できないところもあるがごねても変わらないのでこちらが順応するしかないのだろう。


 俺が即興で決めた教義と戒律を聞くと、一号ちゃんはまるでいきなりラップバトルでも仕掛けられたのかってくらい目を見開いて唖然としていた。脳みそが理解を拒んでいるみたいな感じである。ポカーンって感じ。フリーズした?再起動ボタンどこ?


「特に理解がしにくい物でも守りにくい物でないでしょう。信徒として受け入れなさい」


 てか御主神様よ~、教義と戒律決めるって分かってたなら普通送り出す前に一緒に考えるもんなんじゃないの?もしかしてそうなるとめんどくさいし俺と余計に話し合なきゃいけないから追い出した?なんて酷い御主神様なんでしょう。


「それは、そうですが…………こんな程度で、いえ、あっ、申し訳ございません!」


 そうね。自分の教団の教義と戒律を『こんな程度』と言っちゃいかんよ。全く意味の無い物も人にとっては凄い価値があることもあるんだから。まぁこの場合だと本当に価値のあるか怪しい教義と戒律なのでその反応は間違ってないんだけど、それを伝える必要なないので黙っておく。


「簡単に見えますが、毎日続けるというのは難しい事です。当たり前の事を惰性にせず真面目に取り組み続ける。自分と向き合い続ける。それは単純なようで奥深い事なのです。小さな功徳でも積み上げれば我が主神は信徒に必ず応えます。目先の事に囚われ、場当たり的で格好ばかりの信仰を捧げるのではなく、それが自分にとって如何様な価値があるかを理解して信仰を捧げる。その当たり前の事をできる信徒は探してみると少ないのですよ。私は貴方に真に価値ある信徒であることを求めます。真面目に取り組みなさい」


「はい、必ずや教団にとって価値ある者になれるよう努力致します」


 …………本当に伝えたいことと幽かにずれて気がするが、まぁいいやそれで。僅かでも前向きになったっぽいし。そうそう。目標を設ければ人の足は勝手に一歩進むのよ。どこまでいっても俺は本質的に一号ちゃんの苦しみを理解してやれないんだから。一人で立ち直ってもらうしかない。無垢な少女に差し出すには俺の手は欲に塗れすぎている。


――――――――――――――――――

【教団としての信仰が高まった】

・教祖点20点

・努力点5点

を与える

――――――――――――――――――


 おいおいおい、どんどん神託が自動化してるんですが?まぁ、一号ちゃんを信徒にするより遥かに簡単なはずなのに得点多めだからいいけどさ。そう、俺ってば現金なのよ。査定は優しめでお願いします。

 とりあえず、あれだな。昨日の作業中に思ったけど、努力点でまず音楽かなにか交換しよう。警戒を怠っちゃいけないのは分かってるんだが静かすぎて飽きるんだよ。とりあえず長めの奴が良いから第九にしようかな。




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