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1章7節 汝、衣食足リテ



 人は衣食足りて礼節を知るとは人の本質を最も理解している言葉だと俺は思っている。

 教祖ってのは別に信者の生活を一から面倒見る必要はないんだが、限界教団なのでできるだけ丁重に扱わなければならない。今でこそ活力を取り戻していたが信徒一号ちゃんは本質的な面では体も精神的にも早急な休息が必要な状態だったので、盗賊が使っていた物の中でもマシな物を地面に敷き詰めて暫く寝てもらうことにした。

 トラウマが刻まれたこの場所で休むのは色々と思うところはあるだろう。しかしある程度我慢もしてもらわなければ。戦略的にこの野営地から離れた場所に移動するメリットが無さ過ぎる。あと、彼女的にも教祖が動いているのに自分が休むことに後ろめたさがあるみたいだが、それで無理して動けなくなられても困ると厳しい言葉で説得して寝かせた。本人が気づいていないだけで色々と限界が来ていたのだろう。説得してもまだなんとも言えない顔をしていたが、焚火の近くで寝ころぶとすぐに死んだように意識を失った。思わず呼吸を確認した位である。


 さて、ここからは俺の仕事だ。幸い数十人分の野営用の道具がある。

 散々盗賊盗賊言っていたアイツらだが、アイツらは単なる盗賊ではなく教団の集まりだ。盗賊行為を是としている教団の集まりなのだろう。うん、そうだな。手の紋章でどこの奴等か分かった。でも今は気にしない。あとで神がいちゃもんつけてくるかもしれないが知らん。お前の信徒はありがたく我が教団の贄とする。


 まずは死体を集める。浪羊族の子達は申し訳ないがウチの御主神様に捧げた。

 埋葬してやれないのでいくらかマシかと思ったが、どうなのかね。儀式用の陣をを書いて死体を置いて暫くの間祈りを捧げると、死体の山が凄い勢いで圧縮されて直径5㎜程度真紅の球体になった。よかった、信徒一号ちゃんにこの光景を見せずにすんで。しかし、なんとも悍ましい魔法だ。ウチの御主神様の権能に連なる儀式らしいが、見た目がヤバい。死体を圧縮して作り上げた狂気の球体を俺は拾い上げるとそのまま口に入れて飲み込んだ。

 俺の体は御主神様に繋がっている。御主神様は俺を通してしか今の所世界に干渉ができない。逆もまた然り。供物は俺を経由して捧げる。

 因みに、これ本来はビビるほど時間かかる儀式らしいけど俺の場合は送り先と直接つながっているので失敗確率0%の現場猫もニッコリの前提でやってます。失敗すると死にます。

 要するにそれぐらいの儀式って事。

 

 お次はスプラッタな盗賊たちの死体。信徒一号ちゃんが主人公覚醒ばりに暴れたので死体がバラバラに飛び散っているがこいつらはまだマシ。俺の散弾によって痛みと大量出血で随分苦しんだ挙句に死んだヤツらの顔は世の苦悶を詰め込んだような顔だった。俺に彼らを責める権利はない。彼らも信仰の元行動した結果だ。本質的に俺が彼らを裁く権利などない。あるとしたら被害者だけだ。だから俺が下す裁きは、御主神様に対する不敬だけ。多少私情が入ったけどね。


 さーて、この死体も有効活用しなきゃ。儀式に使うためにもう少しバラすか。でもそれを区別して保存する手立てが今の手持ちだと用意できない。知識と魔法があっても出来ることには限界があるからな。さっきの圧縮も無敵ってわけじゃなくて、俺の血を撒いたりとか面倒な手続きを踏んでようやく発動しているし。てか『眷属の血』が儀式の材料して優秀すぎるのよね。俺の場合裁量権も多いからそんじょそこらの眷属より神力濃度がクソ高いみたいだし。


 しかしウチの御主神様に捧げるにしては下劣な奴らだからなぁ。とりあえず適当に捌いて『可食部を選り分ける』。

 なに?タンパク質だよピーピーいうな。この世界、地球よりも食人のボーダーが低いのよ。倫理的じゃないと喚くより適応した方が早い。変なこだわりは捨てた方が良い。合理的にいかんとね。ウチの教団に食人を禁止する決まりはありません。今から無防備な少女を放置してあてどなく狩りをするより効率的だ。今ある物を食った方が早い。

 てことでゴリゴリ切り分けて毛深い皮を剝いだりして選り分けひとまとめに。他の干し肉などの肉も集めます。うえぇ、もう手もシャツも血まみれだぁい。あとは其処らへんに生えている薬草や盗賊がため込んでいた物も持ってきます。それを使って肉ごと儀式で強引に殺菌、圧縮!てれれってれ~『混ぜ物肉ブッロク』。これで原型も食感もクソもありません。味?知らんな。保証するのは栄養効率だけだ。

 肉の塊を食えるサイズに切り分けてあとは盗賊たちの持っていた道具を使いまわしてそのまま燻します。盗賊たちも放浪の民なのでその手の道具はやたら充実してます。初めてやるけど御主神様が外付けハードディスクで突っ込んだ知識領域内にちゃんとやり方があったのでこれで間違いはないはず。煙が出てますがこの間に獅羊族に襲われたら大変なことになるだろうけど気にしない。だってもう死体なし。明確な証拠は全て葬り去ったのさ。ワハハハ。


 さー、どんどん作業を進めるぞー!眠らなくていい体万歳!強靭な肉体のせいか全然疲れない!やっぱりウチの御主神様しか勝たん!

 …………教祖ってこんなに忙しいものだっけか?もっと偉そうにふんぞり返ってるイメージあったんですけど。





「お、おはようございます」


「ん、おはようございます。そこに食事は用意しておきました。肉体的に消耗しているでしょうし、気分が乗らなくとも口にしておきなさい」


 お天道様がてっぺんに差し掛かった昼、朝方の冷え込みが和らいできて俺が何度目かの焚火の世話していると、物音で目が覚めたのか信徒一号ちゃんがガバッと悪夢から覚めたように跳ね起きる。体に付いた血がガビガビになってるな。結局もう洗うところの話じゃなくて先に寝させたからな。俺のスーツはもうダメかもしれない。スーツの上から掛布になりそうな物をかぶせておいたけど、大丈夫だったかな?


 昨日は色々と散々だったが、悪い事ばっかりじゃない。寝ずに頑張ったおかげで当面の衣食に関しては大丈夫そうになった。ほんと、盗賊共は品性に関しては赤点だったが自分たちの生活をよくしようという気持ちはしっかりしていたようで、自分たちで作ったのか奪略したのか旅の為の道具はやたら充実していた。なのでそれを選別し、一部は儀式に使用。一部はバラシて作り変えてもっと使いやすくしてと道具に関しても圧縮を行った。

 なお、一番の成果は鹵獲した馬車とそれを牽く馬かもしれない。まぁ馬じゃない異世界生物なんだけど、恐らく盗賊たちが荷物を運ぶ荷車を牽かせるために使っていた生物だ。精神的に図太いのかどんくさいのか野営地のすぐ近くにいたのにのんびり寝てやがった。フォルムは水牛に近いのかな?多分草食動物だ。異世界と言えど環境が根本から違うってわけでもない。そうでもなきゃ俺もどうにもならない。そのせいかある程度収斂進化の考えがまかり通るのか野生動物も極端に奇妙な形状をしている感じではない。

 この動物も一部は殺して食料にさせてもらった。数十人の旅団の為の家畜は2人には逆に多すぎるからな。3匹残して後は供物か食料、儀式の道具にさせてもらった。


 あと、樽の中にこの動物の牛(?)乳らしきものがあった。これは大きな発見である。これは腐らないように清める程度で大きく手を加えなかった。味は水で凄く薄めた乳製品っぽい。それでもないよりは遥かにましだ。外付け知識を参照するに栄養価も悪くない。


 てな感じで一晩で俺はとても頑張った。人って追いつめられるとこうも頑張るのかってくらい働き続けた。父親ってわけじゃないが暫くは信徒一号ちゃんを養っていかなきゃならないからね。ええ、色々と頑張りました。


「怖いですか?」


「え?」


「無理もありません。貴方の体験したことは男性に対して恐怖心を抱くのに無理のない物でした」


 まあ感謝は元から求めていない。結局これも御主神様の為、俺の為だ。彼女を助けたくて俺は助けたわけじゃない。利用できるから助けただけなのだ。だが、それでも、若干の恐怖心とほんの微かな敵意が混じったような感情を向けられると、少しやるせないというか、悲しい気持ちになる。

 なんでだろうな。彼女のマイナスの感情が今の俺には手に取るようにわかる。昨日もそうだった。盗賊たちの感情の動きが妙にハッキリと感じられた。肉体の変化に伴い勘が鋭くなったのだろうか。勘ってのは結局無意識の情報処理から編み出された感覚だ。肉体の感覚が鋭敏になったことで勘の精度が上がっても不思議な事じゃない。


「いえ、わ、わたしは」


 俺が指摘すると、彼女から微かな敵意が霧散し申し訳なさをにじませたような感情がたどたどしい弁明と共に向けられた。その向けた敵意は彼女にとって無意識的で、反射的な物だったのだろう。でもそうなっても仕方ないさ。こうして普通に話せてるだけ彼女はとても強い。


「無理しなくていいですよ。最初から全ての信頼を預けろと命ずるつもりはありません。とにかく食事をしなさい。いえ、気分も乗らないでしょうし先に身体を清めますか。水は今は貴重なので使わせられませんがいくらか手立てがあります」


 今はその罪悪感も有効活用させてもらおう。俺は半ば強制的に彼女を立たせて、用意していた陣の中心に立たせた。


「陣の線を踏まない様に気を付けて」


 本当は体を綺麗にする陣と言うよりはとある作用を持つ陣を悪用しているだけなので計算外は困るんだ。こう、なんかなぁ。もっと簡単に『清潔の魔法』みたいなもんないの?まぁ魔法で除去する対象指定が難しすぎてダメなんだろうけど。てことで掛布は置いて。スーツだけは羽織ってていいよ。それ以外は置いておかないと魔法で消し飛ぶので脱いで。別に裸が見たいわけじゃないからね。言い訳ではなく真面目な話だ。てかそれどころじゃない。スーツだけは俺の体の延長扱いみたくなってるっぽいので例外的に着てて大丈夫なんです。

 そうそう。俺のシャツ、槍に貫かれて穴開いたけどいつの間にか塞がってたの。マジで肉体の延長カウントされてるっぽくて修復されてたのよ。なんかほんと、ゲームのバグみたい。着ていた物まで祝福が乗っかるとはね。まぁありがたいんだけどね。


 少々の詠唱の後、恥ずかしそうに陣にしゃがみ込む一号ちゃんにできるだけ視線を向けない様にしながら儀式を執り行う。これは信徒以外の異物を取り除く強力な陣だ。なんかに憑りつかれたり時や呪われた装備を破壊する時に使うらしく、本来は教団総出で執り行うもっとクソ面倒な儀式なんだけど『眷属の血』チートで省略しまくりです。陣が発動すると光が陣から照射され、一号ちゃんの汚れやこびりついた血などが一気に消滅した。

 よかった。スーツも無事です。ただのスーツだけど今となっちゃ地位時代の思い出の品である。簡単に捨てたくない。


「元は奴らの使っていたの物ですが、ある程度清潔で綺麗な物を使って貴方が着られるように作り直しておきました。そこの白い包みの中にあるので着なさい。その後に食事をとりなさい。いいですね」


 もうこの子には有無を言わさずある程度命じた方が話が早く進みそうだ。

 さて、彼女が色々とやっているうちに残りの作業も進めましょうかね。 



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― 新着の感想 ―
[一言] ある邪教ゲーの実況を見たことがあるw 主人公はある邪神に選ばれし教祖で、敵と戦ったり、食料を準備したり、信者の面倒をみたり、儀式を行ったり、集落を開拓したり、集会を開いたり、供物を捧げたり……
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