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1章6節 汝、努力ヲ怠ラズ



「私は、獅羊族のメヌェルォス・アルュケァオス・ブリガドドルガォスと申します。その、失礼を承知で伺いたいのですが、貴方は『眷属』なのですか?」


 のぁーん、覚えにくいよー。発音しにくいよー。でも頑張って覚えるよ。大切な信徒一号さんだからね。

 しかし、世の新興宗教やってる教祖さんに聞きたいんだけど、信徒第一号をどうやって作って、その後どう扱ってるんだろう。それとも最初っから身内かグルを周りに置いとけばいいって?確かにそれが一番楽だな。でもそ~はいかないんだよウチの場合は。オンゲだと友達を得点に付けてくれ~なんてよく言われてるけど、教祖やる時にも初期得点で事情を理解している身内信者が欲しいですよ御主神様。

 それはともかく、えーっと、獅羊族は別に名前に凄いこだわりがあるって種族じゃないはずだから、あとであだ名でも付けようかしら。俺も呼びやすくなるだろうし、本名で名乗らせているとこの子の親族が嗅ぎつけるかもしれないし。

 

 それにしてもこの子、凄い体だな。世の彫刻家が見たらあまりの理想形に泣き崩れてぜひモデルにさせ下さいと全財産をなげうってでも頼み込むかもしれない。筋肉と女性らしさが超ハイレベルでマッチしているような、いかん、そんな事考えている場合じゃないね。女の子、信徒第一号ちゃんも俺の視線で自分の今の格好を思い出したのかハッとして腕で要所を隠してしゃがみ込んだ。まあモツ塗れ血塗れすぎて欲情するとかそういうレベルじゃないんですけどね、でも恥じらいがあるのはグッドですよ。男ってのは開けっ広げにされると逆に興奮しないんです。まぁ、白い癖っ毛についた血を見ても欲情できるかは別問題だが。


「すみません。気が利かなかったですね」


 それはそれとして、かわいそうなので俺のスーツを肩からかけてやる。ごめんよちょっとボロで。でも肌触りは保証するよ。ふいー、しかしなんか暑いからちょうどいいな。俺は第二ボタンまでワイシャツを開け、腕まくりををした。

 

「先ほどの問いかけの答えですが、そうです。私は信徒ではなく正式な『眷属』です。先ほどの力も眷属としての力であると理解をしてください」


 あと教祖ね。教団の長だよん。さっさと後進育てて席を譲りたいよん。そうじゃん。ずっと俺が教祖やる意味ないし早くお飾りになりたいもんだね。人生其れくらいがちょうどいいのよ。

 俺が自分を眷属であることを認めると、信徒第一号ちゃんはいくらか安心したような顔になった。だろうね。俺の力はこの世界でもあまりに異質だ。多少は回復する様な能力はあるらしいが、俺みたいに明らかに致命傷を受けているのに悲鳴一つなくピンピンしているのは明確な異常だ。そして人は理解できない物を恐れる。だが、その不可思議に明確な理由があると知ると途端に納得して恐怖を和らげる。起きている事象そのものが変わったわけでもないのにね。でもそうやって人々は昔から恐怖を克服してきたんだ。

 さて、どんどん話を進めなば。いつまでも信徒第一号ちゃんをこのままってわけにはいかない。


「まず、我が主神に代わり正式な信徒になってくれたことを教祖として感謝します。我が教団は現在信徒絶賛募集中でしてね、貴方一人しか今は信徒が居ないのです」


 隠していても仕方ないので俺が率直に今の我が限界教団の悲惨な状態を伝えると、信徒第一号ちゃんは凄く困惑したような顔になった。でしょうね。信徒1人ってどんな限界教団よって感じでしょうよ。


「信徒になってお礼を言われるなんて不思議な気がします。それがこの教団の『教義』なのでしょうか?」


 そっち?ああそうね。そっか。この世界にとって神の加護は求めても与えられる物ではなく、神が気まぐれで授ける物だ。人々が感謝しても神側から感謝される事は無いのだろう。でもウチ限界零細教団だからね、仕方ないね。


「あの、重ねて質問したいのですが、この教団の『名前』って…………」


「あっ」


「え?」


 そーなんですねぇ。この世界って同じ神に信仰していても全員が同じ教団に所属しているわけじゃないのよねぇ。ほら、カトリックとかプロテスタントとか、浄土宗とか真言宗とかあるでしょう?そんな感じ。こっちの場合だと単独の神でも複数の性格と顔と名前(ケンノウ)を持つケースが普通にあるから余計にややこしいことになる。しかも『神の名』は非常に価値があるので、教団にそのまま神の名を付けるのはNG行為。リアルで言えば、天照大神教とか、ゼウス教とか、ロキ教とか名乗っちゃダメってこと。この世界だとめっちゃ不敬。だから人々が自分達で名前を考える。

 でもって教団の名前がそのまま神の代名詞みたいになるので自分の所属を示すうえで教団の名前ってすごく大事なのね。教団の知名度がそのままバックの強さってことになるし。


【あの、教団の名前なんですけど】


 仕方ないので神託コール。助けて御主神様。


【好きにしてください】


 丸投げしやがった。なんて奴。


――――――――――――――――――

【汝、教祖としての務めを果たせ】

・教団の名を定めよ

――――――――――――――――――


 なにこれ。現代っ子の為にゲームっぽく神託投げてきたんですか?その気遣いができるなら名前くらい自分だけ考えといてくれないかなぁ。いいのか?俺が眼前暗黒感教とか名付けても。因みに眼前暗黒感は『めまい』の正式名称である。


【貴方が教祖を務めるのですよ】


 だから恥ずかしくない名を付けろと。はいはい。そんじゃ皮肉たっぷりな名前でも付けたろうかな。うーん、でもなぁ、確かに自分の名乗る教団だろう?バカな名前にすると今後名乗る時に尾を引きそうで嫌だな。


 さて、この不安そうな少女の為にもパパッと決めなば。

 ウチの御主神様は多分殺しとか拷問がお好きで、俺の見る限り鎖に囚われた真っ黒な女ですけど、流石にキラーとかマーダーとかみたいな殺しに関連するワードを入れるのもなぁ。この子にとっては異世界の言葉だから絶対に理解できないけど気分はよろしくない。うーん、でも無関係ってのもなぁ。あまり長いのも嫌だし。あと他の教団と名前が被っちゃダメでしょ?拷問と言えばファラリスの牡牛とか鉄の処女(アイアン・メイデン)とかが思いつくが…………あ、いい事思いついた。


「我が教団の名は【鎖の(チェイン)乙女(メイデン)教団】です。その名をしかと心に刻む様に」


「わかりました。チェイン・メイデン教団ですね。信徒として、その名を心に刻みます」


 チェインメイデン教団。うん、悪くないんじゃないか?この世界の人々には名前の意味なんかわからんだろうし、俺だけがその意味を理解していればいい。ウチの御主神様を鎖から解き放つ為の教団だもの。乙女かどうかは知らんけどね。精神衛生上、むさい親父より美人に扱き使われている方がまだ我慢できるから勝手に美女だと思い込んどりますけど。

 信徒一号ちゃん的にも発音が難しいって感じじゃないし、良いね。


【信仰が確立したので教祖ポイントを10点、努力点を2点あげましょう】


 え、なにそれ?ポイント制なの?余計にゲームっぽくなってきちゃったよ。いやまあわかりやすいけども。得点貯めてチートと交換しましょうってこと?スキルツリーじゃないだから。因みに努力点とはなんですか?


【貴方がこの世の愚かさと恥を凝縮したように泣いて喚いてねだった漫画や小説、アニメなどの閲覧するための点です】


 2点?教祖ポイント10点に対して2点?あれだけやって2点?交換倍率次第ではストライキも辞さない。1点で1ページとかなら普通にキレちゃいますよ。


【そこまで厳しくはないです。卑しいことに飴を与えなければ貴方は動かないですからね。しかし、同時に全てが私の胸三寸ですよ】


 この御主神様、俺の使い方をよく理解してやがるよ。てかホントにフランクだな神託。この世界だと神から直接言葉を賜るだけでも名誉らしいのにさ。ちょっと有難みがないよね。もしかしてこんな事言い出したの、教祖をさっさと後進に譲ろうとか考えたから?


【神託、要らないのですか?】


 便利なので欲しいですが、Bot化はやめてください。普通に邪魔です。自分でオフにできないアラームとか普通に拷問だから。


 さてさて最低限体裁は整ったので動かなきゃ。

 信徒出来ても、今の俺達には住むべき家も何かも無いのだ。てか結局この子がなんでここに居るかもしらないので下手するとこの少女の親族一団に襲われて死ぬかも。おお怖い。


 まずは、そうだな。盗賊の残した物全部鹵獲しよっか!


 




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― 新着の感想 ―
[良い点] 教団の名前というガワは作ったからこれから中身の教義なんかを作っていかなきゃならないのか [気になる点] 教区長!セクシー大根教にこのたび入信した者なのですがこの宗教の規則をお教えいただく!…
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