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3章4節 汝、煽リテ




 さて、まずはジャブだ。取引したいなら代表者が近づいてこいと通訳には強気な態度で出てみると、暫くの逡巡して取りまとめと思われる男たちを数人連れてきた。

 リーダーはプレーンな人間、40才くらいの男。集団の中には子供もそこそこ混じってるから幾つかの家族が混じるついでに子供世代への教育も兼ねている感じか。あるいは種族的なアレか。けど装備や雰囲気的にガチ中のガチの遠征部隊じゃない。最初はこことはちょっとずらした地域の言葉で話したのブラフくせーな。相手のわからん言葉で話せば秘密のやり取りができる、それこそ俺とケテトがやったみたいにね。通じないならそれでよし、通じたら相手の素性を少しでも割っていける。よく考えているじゃないの。

 でも残念。俺はおそらくこの世界で使われている言語ほぼ全てに通じてるんだ。過去の言葉だろうが暗号だろうが無駄だぞ。俺がお手上げ状態になるとしたらそれこそ未来の言葉くらいだ。

 ケテトも俺ほどじゃないが色んな所を旅しているので言語はそこそこ堪能だ。言語と言っても海を超えないかぎり根本から全部違うってのは稀だからな。3種類くらいパターンを覚えておくと類似性からニュアンスで掴めるようになっていくんだ。


 リーダーは簡単な挨拶をそこそこにこう語った。ちょいとトラブルによるゴタゴタで道を見失い、進路に自信がない。最寄りの大きな街はどこだったろうか、或いは貴方が最近発った場所の方角でも教えていただけないか、と。無論お代を、そう通訳が言いかけたところで俺は食い気味に一番近い大きな街の方角を指さしてやった。おそらく奴らが発った街の方向を、だ。

 知ってるんだよお前らの手口。予習してんだこちとら。あの手この手でさりげなく相手から情報を抜こうとし、最初に軽く金を握らせて取引に対するボーダーを下げて商品の取引を持ち掛けて、相手の調子を見つつ雪だるま式に事を大きくして賭けに持ち込む。

 大事なのは最初の金を安易に受け取らないこと。こいつらから金を受け取るってことは商売に応じますよって印になっちまうんだ。だまし討ち的なやり方だがそれがこいつらの教義である。


 そしてもうこの時点で色々と見られている。相手は自分たちを知っているのか知らないのか。教団を示すエンブレムはちゃんと馬車に張り付けてるくせに教団名を名乗らずに話をさりげなく始めたところもなかなかうまいじゃないか。だから示してやった、お前たちの事を俺たちは知っていると。


『この反応…………我々の事を知っているのか?』

『私から名乗っていませんよ。単にお人よしの可能性もあります』 


 ごめんね話してる言葉全部筒抜けです。さあ迷え迷え。


「情報提供はしましたよ。私達も急ぎでね。それでは」 


 でも悠長に話し合っている時間を与えると言った覚えはない。俺は馬車を降りると謎生物を引っ張り方向転換しようとする。 


「しょ、少々お待ちください。そんなわざわざ我々を避けるように通らなくとも」


 通訳が慌てて引き留めてきた。その反応はダメだなぁ。用事がすんだのに食い気味に引き留めるのは「別の用事があります」って白状しているようなもんだぜ。商人は弱みと目的を簡単に見せちゃいけない。


「しかしですね、さりげなく我々のフードの中を覗き見ようとしたり荷台をどうにか確認しようとしている怪しい者達に近づけというのも変な話ではないですか?商人とは信用商売ですから、正式な名乗りもなしに一方的に近づかれても我々としては対応に困りかねます」


 おっ、くっ付いてきた男たちの動きが変になった。やっぱりこの地方の言葉もちゃんとわかってるな。いや、分かっている奴を連れてきたのか。大声で威圧するように言ってやったら図星を突かれて動揺してらぁ。

 バレてんだよねぇ。俺の悪意センサーに引っかかってるんだよ。何気にこのよくわからんセンサーにも凄い助けられてるな俺。誰を信じて誰を警戒すべきかの判断の一つの指標として非常に役立つ。これなんなんだろう。


 よく見ていなければわからないだろうリーダーと通訳の刹那のアイコンタクト。方針を変える気かな。


「大変失礼致しました。我々、この地方より南方に拠点を置く【金水賽教団】であります。実はですね。最近この地に商人を装った盗賊が出没しているとの話を聞いていましてね。少し警戒しすぎてしまいました」 


 うーん、真実の中に嘘を織り交ぜているな。言いなれているし方便の一つなんだろう。しかし赤点だ。このリーダーならもっとうまく言っただろうに、通訳の子はまだかすかな緊張を感じる。


「そうですか。たった3人で貴方方を襲うと?襲われると警戒していたのに自分たちから接近を?随分と勇敢ですね貴方達。戦力的にはそこまで充実している感じでもないのに。実は私達も同じことは聞いていましてね。その盗賊たちは子供を連れることで警戒心を下げ、他の教団を騙る事すら恐れぬ恥知らずの無法者だそうです。自分より少数の商人隊を見つけると如何にも街の方向を見失ったなどといって近づいてきてですね…………」


 嘘に真実を織り交ぜる。あり得る話を作り上げる。あら不思議。どこかで見たことある人たちですね。俺のチクチク嫌味攻撃に通訳ちゃんが見る見るうちに気まずそうな顔になる。そうだよねぇ。大義名分がありますと暗に伝えようとしてカウンターされたんだもん。そして客観的にどっちが怪しいかはわからなくなった。他の教団を語るは大嘘だけど、その前提があると自分たちの怪しさの方が増していくんだ。


「い、いえ、私達は本当に【金水賽教団】ですよ。ほら」


 通訳ちゃんが焦って手のひらを見せてきた。そこには確かに教団の紋がある。神の刻んだ信徒の証だ。それは馬車のエンブレムとも一致している。これが知名度0のチェインメイデン教団だと「結局おたくどちらさん?」って話になっちゃうんだけど、主要な教団に数えられる【金水賽教団】の場合これだけで身分証明になっている。だから有力な教団程人気になるんですねぇ。

 でも、それは君達の常識が通じる相手だけだぞ。


「ふむ、しかし我々はそう言われても貴方達が安全な存在か判断する基準がない。無知を晒すようだが、【金水賽教団】を存じませんのです。情報提供を大義名分に他の商人の邪魔を恥知らずにもする同業の教団など」


 チクチクチクチク。遠回しの嫌味攻撃は基本です。絶対簡単に主導権なんか取らせねぇぞ。君達初動完全にミスったねぇ。エンブレムも掲げてない弱小商人か怪しい雑魚だと思って若い子に任せたんでしょ。通訳名乗り出る流れも打ち合わせの内でしかない。話している内容がバレている時の保険をかけていたつもりが、逆に一方的に詰められている。舐めんなよ。こちとらもうよく覚えとらんが家庭事情のせいでレスバだけは特技に明記できるくらいにはやってきてんだ。そしてネットじゃ少しでも弱みやミスをすれば鬼の首を取ったように追及されるクソみたいなレスバもしてきてんだ。議論ズラしから人格攻撃があたりまえの世界だぞ。

 金水賽?そうですねそう名乗れば今までの商人たちは一歩引いた対応をしてくれたんでしょう。基本的に自分たちが上で話が進むからな。けどチェインメイデン教団は商売を基本としている団体ではないのでコイツらと商売上敵対してもあんまり怖くない。悪評を流すにしてもそもそも俺達の素性が全く分からない。容姿すらつかめてないだろう。明らかに焦りを感じる。


『あ、あの、リーダー、えっと、どうしたら…………』


 ここで通訳ちゃんギブアップ。リーダーに泣きつきます。多分教団の威光が通じない相手との交渉は初めてだったんだろう。そりゃここらで商売活動して【金水賽教団】知りません、は普通あり得ないからな。そんなこと言う方が普通は恥だ。素寒貧にしてやるのも面白いが、このまま逃げ切ってしまっても俺にとっては勝ち。けどこいつらは名乗っちゃったからな、簡単には引けなくなってる。知らん奴らに一方的に言い負かされて終わるなど商人と教団の沽券に関わるだろうよ。


 さあどうする。どこで折れる?いつごめんなさいする?

 お前達が迷っている間にも俺は強引にも馬車の方向を変えているぜ。要件は済んだはずだ。これ以上俺達を引き留めるには明確な理由が必要だ。


「待て、どうしてそうも早急に立ち去ろうとする。なにか後ろめたい事でもあるのか?」


 ほう?そう来たか。遂にリーダーがこっちの言葉で話しかけて来たぞ。


「不思議ですね、先ほどまで通訳を挟んでいたのに急に我々の言葉が理解できるようになったのですか?」 


「我々も貴重品を運ぶので警戒は最大限しているのだ」


「なら怪しい物に絡まないのが商人の鉄則ではありませんか?【金水賽教団】に『治安維持を行え』などと言う教義があったとは、私存じあげませんので。それとも最近付け足されたのですか?」


 今の俺はとても悪い顔をしているだろう。お前たちの事など最初から全部分かっているぞ、とぶちまけたんだから。リーダーもちゃんとそれに気づいて微かに面白く無さそうな顔をした。そうだ。今のところ天下の【金水賽教団】であるお前達が道化だったんだから。


「貴方も御人が悪い。我々の事を知っていたのですね」


「いいえ?私は今も貴方が他の教団を騙る賊である可能性を捨てていませんよ。少なくとも私の知っている【金水賽教団】は街の方角を見失うとんだ間抜け集団ではないですし、それが嘘だとしても同業に聞くようなプライド無しの恥知らずでもないはずですし、自分たちの事が筒抜けである事すら察せられず目の前で愉快な漫才を披露するとぼけた集団ではないので」


 ハハハハハ、顔真っ赤になってらぁ。そうだろう。これは教団への侮辱ではないから教団の名を持ち出して表立って抗議できない。ここで噛みつけば自分たちが教団の恥をさらしたと認める様なものだ。すまねぇなぁ、俺は御主神様お墨付きで性格悪いんだよ。嫌味は大好きだよ。

 もう少しバカだったら生きやすいだろうに、なまじ頭がよくてプライドがあるから俺に怒鳴れないんだ。

 彼らにとって一番厄介なのは、俺達の所属を欠片も断定できていないことだろう。声からおおよそくらいの年齢はわかるだろうけど、全員顔を見せないようにフードを被って魔法的な覗き防止までしているし、手袋で教団も判らない。エンブレムも判らない。荷台を見たくてもそっちも魔法をかけてあるのでみせませ~ん残念でした~プププププ~。くやしいのうくやしいのう。

 情報アドバンテージがあれば脅しをかけたり交渉の糸口を掴めるはずなのに、まずそのとっかかりがない。この姿で幾つかの教団が候補に挙がってるかもしれないが断定できないんじゃ難しいよなぁ。しかも教団を敢えて隠すような教団なんて面倒な奴等ばっかりだ。【金水賽教団】側だって気軽に敵に回したくないだろう。


「自分たちが怪しくない者だと言い張るのなら、どこから来たのか、何を目的に行動しているのか、我々に何故接触してきたのか、全て正直にお話ししてもらいましょうか。忠告ですが、これ以上もっと恥をさらしたくないのなら嘘をつかない方が賢明ですよ」 


 アハハハハハ!トマトみたいに顔赤―――い!ウッッッケる~~~!!




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[良い点] ヤッター し・ん・さ・く (*´∀`) そして、連日2作品更新 [一言] 手の紋章に添わせる形で入れ墨とかって入れられますか? 流石に塗りつぶしはできないだろうけど、紋章に重ならない程…
[一言] のっくんどんな家庭環境でこの子育てたのよ…
[一言] 顔真っ赤のままゴメンナサイするか 腹の中か頭の中の真っ赤なものブチまけるか さぁどうするw
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