1章1節 汝、信仰セヨ
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「(さーて、神託曰くここら辺にいるって話だったが…………)」
野山を駆けながら周囲に耳を澄ます。
こんな風に自然の中を全力で駆け抜けたのはいつぶりだろうか。強靭な肉体は悪路をものともせず、草木程度では傷一つつかない。
「助け、て………」
聞こえた。漸く聞こえた。すえた匂いがする。これはあまり想像したくない光景が広がっていそうだ。
「いい加減にしろやこのアマ!なに言ってるのかわかんねぇってつってんだろ!?まだまわされてぇか!?次はそこの畜生で試してやろうか!?テメェの神はよぉ、テメェを見捨てたんだよ!!」
あーはいはい。テンプレ乙。まぁこの世界的には『当たり前の光景』ってんだから嫌な事だね。
そんじゃ栄誉ある信者第一号候補保護に向けて、いっちょ一肌脱ぎましょうか。
「あん?お前どっから」
「あの、腹減ったのでご飯ください」
それはそれとしてお腹空いたので飯を恵んでください。
異世界人とのファーストコンタクト。俺はまず盗賊みたいな奴等に綺麗な土下座をした。
なんでこんなことになったんでしょうね。
ねぇ、我が御主人様よ。
◆
「うがぁ!?………あ、あ?がぁ、い゛ったぁあああああああ!?」
俺は奇声を上げて飛び起きた。自分でも久しぶりにこんなデカイ声出したと思うくらいには凄い声が出た。というかこの空間に響き渡る絶叫が自分の声であることに今気づいた。
最後に覚えてるのは……幼女を力の限り突き飛ばす自分の手、悲鳴、それと金属と何かがひしゃげてぶっ壊れたみたいな音。
体が熱い。熱湯に突き落とされたみたいな熱さ。なのに寒い。天地が歪むほど熱くて寒くて、いや違う。これは痛いんだ。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
痛みにのたうち回り、そのせいで余計に体を痛め、更に痛みが増す最悪の悪循環。なのに体の動きが抑えられない。小学生の時に鉄棒の上に立つという馬鹿ムーブをして落ちて骨折した時脂汗と冷や汗が止まらなかったが、この痛みはそんなもんじゃない。
「ぶはっ、げはぉっ!」
口から血が噴き出した。噴水の様に出た。アニメで気軽に血を吐くの見て「いや死ぬだろそれ」って偶に思ってたけどそれよりも勢いよく血が出た。
………………………………?
なんだこりゃ。何が起きてんだ?時間の感覚すらも分からない。俺が意識を取り戻してから何秒経った?何時間経った?激痛が全ての感覚を支配して凡ゆる基準点を狂わせる様で脳が情報の処理をやめてしまったかの様だ。
真っ暗な空間の中には何も見えない。何も聞こえない。なんだこりゃ?俺は植物人間でもなったのか?いや、口からモツごと血を吐いた感覚はなぜか理解できた。全てを失ったわけじゃない。いやまて、なんでこんな痛いのにどこか冷静に頭が動いてるんだ?つまり脳は無事?
誰か救急車を、いや助かるのかコレ?目も耳もおしゃかならいっそ死んだ方がマシじゃないか?
あれ?ちげぇな。俺の叫び声は聞こえてるんだから耳は生きてるな。じゃあ今どういう状況なんだ?
『漸く、目を覚ましたのですね。死なないようにして放置しておけばいずれ勝手に祈るかと思っていたのですが、貴方は何をずっと考えているんですか?』
あまりの痛みに思考が飛び過ぎて一周回って妙な冷静さが湧いてきた。悶えながら現状を整理しようとしていたら、こらえきれずに思わずと言った様な、何か凄く面倒な物を相手にするような大人の女性の声が聞こえた。
「だ、るぇ、ぐほぁ、ぁ」
訂正。ダメ。痛すぎる。声出そうとしたモツと血のペーストが出た。血錆の香りが口と鼻を制圧している。
『言葉で言わずとも考えていることはわかります。さぁ、いい加減疾く祈って下さい。祈らなければ私の力が尽きるか飽きるまでそのまま放置しますよ』
そのままってのはこのクソみたいに全身余すことなく熱くて寒くて脳みそに電気流し込まれたみたいに痛くてしょうがない今の状態の事?これがずっと続く?まさか思考が妙にクリアなのは発狂させないため?なに?拷問のプロ?
『そうですね。拷問術にも長けていますよ』
んねぇ違うじゃん冷静にそうですねじゃないっすよこれ本当にどうなってるんですか?祈れって何にさ?ウチはハーフなんで宗教ごちゃごちゃだが!?盆にクリスマスケーキ食って坊さんにハロウィンの仮装させてサンタに除夜の鐘打たせるが!?
『…………随分余裕そうですね。痛覚の制限をもう少し緩めましょう』
「だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああ!!!?」
痛みが爆発した。比喩じゃない。本当に体の中で何かが爆発したような感覚の後に痛みが脳天から骨を通り抜けて全身を貫いた。でも狂えない、気絶できない。人間は本来脳みそにセーフティ機能があるので限界以上の痛みを味わうと気絶する。無論、人によっては耐えられることもあるが、そもそも俺に耐える気はない。でも全く気絶できない。こんなに痛いのにどこか冷静に思考が動いている。
『まだ祈りませんか。では貴方の状態について伝えれば満足致しますか?頭蓋骨骨折、脳の一部損傷、左眼球破裂、頸椎損傷、肋骨、腕、脚、腰の一部開放骨折、圧迫骨折或いは粉砕骨折。折れた骨が内蔵に刺さるか、或いは一部の内臓が破裂しています。常人であれば即死の状態です』
は?いやでもそれを聞いてなんか納得した。そーかい。どーりで全身死ぬほど痛いし自分の力で体を殆ど制御できていないわけだ。もはや叫び声を上げられている方が奇跡のレベルだろう。
いやでも長いなこの件。
祈れって言うならさぁ!せめて祈る対象を教えてくれないかなぁ!?ポーズだけでいいならトイレのスリッパにだって俺は土下座できるぞ!てか痛みに干渉できるってことは少なくともこの痛みを止めることもできるってことであってますか!?祈ったら痛みを消してくれんですか!?あとついでに救急車、いやそのまま安楽死させてください!生まれは選べないんだから死に際くらい選ばせてくれ!
『ならば祈りなさい』
だから何にだよぉ!
あーもういい。わかった適当に祈ってやる。ジャパン育ちの無節操さ舐めるなよ。
さぁ我をお助け下さい神様仏様御先祖様塩化カリ『それでよろしい』
えっ?塩化カリウム様で合ってた!?
『…………貴方は愚か者なのですが?おかしいですね、十分に選定したはずなのですが』
センテイ?剪定?いや違うな多分選定だな。え、なに?拷問にかける人は性癖的に美男子の方がいいなってこと?やだなぁもうごめんなさいね色男で!
『ふむ、一周回ってやはりこれぐらいで良さそうですね。どうせ選び直しも手間ですし』
とりあえず痛みが治まったおかげで冗談を考える程度の余裕はできた。ふぅ、もう一生分の冷や汗と脂汗を身体から絞り出した気分だ。ところでこの口に引っかかったモツとってくれませんか?気持ち悪いです。
『少し黙りなさい。しかし、祈らせるだけでここまで苦労するとは』
OK。そろそろ真面目な話をしますか。
俺が植物人間になった挙句現実逃避の為に作り出した空想世界でない事を信じて。てか空想だとしたらなんでこんな痛い目に遭ってんだ。俺はマゾじゃねぇ。
んで、さっきから、今貴方の脳内に直接話しかけています、をガチでやってるのは神様?仏様?それとも大穴で御先祖様?さて誰なんでしょうか?
『貴方の認識する概念とは異なりますが、極めて広義の意味で言えば『神』に類する存在です』
へー、神様なんて本当にいたんだ。それは驚き桃の木桃源郷。まあ俺の思考をハッキングしてる時点で神だろうがなんだろうが敵わない存在って最初から格付けが済んでる分話は早いですね。俺が下だ。神でも仏でも正直代わりは無い。
ところで幾つかお聞きしたいのですがここは何処で俺はなんでこんな状態になっているんでしょう。あと視界が相変わらず真っ暗なのは失明しているのか部屋に光源が無いのかどっちなんでしょう。
『貴方は私が話すと3倍以上の量で返す癖を止めなさい。騒がしい脳みそですね』
しょーがないね生来のお喋りなもんで。ウチの一族大体そんな感じだから『黙りなさい』
あが!?全身に再び激痛が走った。一瞬だが僅かに神とやらからの怒りを感じた。
『端的に言えば、ここは私の根城。貴方は不運な出来事により瀕死の重傷を負い短い人生を終えようとしていたところを私が寸前で回収しました』
あ、そう。やっぱりそんな感じなのね。直近の記憶が凄い曖昧だけど、何かヤバい事が起きたことだけは朧げに思い出せる。
『驚かないのですね』
死ぬより辛い激痛を延々と味合わされた気分なのでショックに対する耐性が大きくなったのかもしれないですねぇ。誰のせいとは言いませんが。
ところで御用件は終わりですか?散々いじめておいてやらせたかった事が神に祈らせる事だけ?そんなわけ無いですよね流石に。
『ええ、その通りです。貴方は神に助けを祈り、私は祈りに応えた。次は貴方の番です』
それマッチポンプも良いところの論理では?神も詐欺まがいの事するんですねぇ。或いはそうでもしないといけない事情でもお有りで?
救ってもらったらしい手前言うのも何ですがそもそも死なせてくれれば地獄みたいな苦しみを味合う事も無かったのでは?
『違います。貴方は命尽きる寸前にも確かに祈ったのですよ。覚えていない様ですが』
覚えてないっすね~。気持ちとしてはもう絶滅間近のアダルトサイトの架空請求メールを見たくらいの気持ち。だってホントに心当たりないし。もし死ぬ間際だとしても神に祈るような信心深さが俺にあったかなぁ?ここまで体ぐちゃぐちゃになるレベルでの何かしらに巻き込まれる瞬間ならもう諦めてる気がする。
『貴方は確かに祈りましたよ。そうでなければその願いを叶えることはできないのですから』
でも俺が毎年神社で当たりの宝くじを偶然に拾えますよーにって願ったけど拾えた試しなかったんですけど。
『管轄違いです』
家族の無病息災を願っても祖父も病気で亡くなったのですが。
『管轄違いです』
お役所仕事ですか?
『お役所仕事より制約が多いですよ』
えぇ…………神様って大変そうですね。
『大変だと思えるのなら、手助けをして下さい。さぁ契約を進めましょう』
契約?
『私は貴方の体を完全に修復する手立てがあります』
ほぅ、それは凄い。俺の体の修復は管轄内なんですね。
『嫌味ですか?』
あいにく神様のルールが分からないので。俺みたいなのを助けるくらいならもっと助けがいのある人いると思いますよ。
『話が進まないので率直に用件を伝えます。貴方にはこれより貴方が元いた世界とは異なる世界『神層域』にて、私を主神とする教団の成立、及び教団を率いる教祖となり、信徒の増加を目的に活動をしてもらいます』
あん?それはつまり。
『貴方には、私を信仰する教団の教祖になっていただきます』
お断りしまぁす!