表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/47

第一話:最後の賭け

 大歓声の鳴り響く闘技場の中心で、二人の男が剣を交わす。

 一人は黒髪の生意気そうな少年で、もう一人は筋骨隆々の大男。

 少年の手のひらから放たれた吹雪と、大男が吹き出す炎が衝突し。

 キラキラと虹が掛かり、観客はより一層の声援を飛ばす。


「きえええ!!! エルク!!! 負けたらどうなるか分かってるんでしょうねええええ!!!」


 そんな幻想的な盛り上がりを。

 この王国武闘会という年に一度の大舞台をひときわ高い席で眺める、身なりの良い一人の少女。

 整った顔立ちに不釣り合いな、血走った真っ赤な目をして、ボサボサな金髪を振り乱し。

 咥えた煙管に煙をくゆらせ、必死の形相で叫ぶ。


 やがて眼下に立つ、黒髪の少年が膝を付き。


「……っ! ヴァネッサお嬢様……すみません……」


 悔しさに歯噛みし、そう言い残して崩れ落ちると。


「は、破産ですわああああああああああああああああああああ!!!!」


 叫ぶ少女の手にした、エルクと名前の書かれた紙片が宙に舞った。



――数日後



 王宮の玉座の間に、うつろな目をした少女が跪く。

 彼女を見下ろす国王は、心から悲しんだ目で。

 信じられないと震える声で、言葉を絞り出した。


「……ヴァネッサ・ソルスキア暫定公爵。貴殿は……こう……なんというか……」


「はい」


 生気のない相槌。

 国王は何度かため息を付き、彼女の罪状を繰り返し読み直し。


「令嬢の身でありながらソルスキア公爵家を破産させた罪、領地を外国に無断で売った罪で、取り潰しと……それと……」


 父のせいで可哀想に。とは言葉に出さずとも、国王は同情的な視線を向けて。

 しかし、家を継いだ以上は彼女の責任になるなと何度もため息をつく。

 ふと横の王子……彼女の婚約者であったヘクトル第二王子を見ると。

 炎のように燃える真紅の髪と瞳の彼は、筋肉の鎧に覆われた身体を震わせ、国王の代わりとばかりに叫んだ。


「俺との婚約破棄でしょうが父上!! どうやって、たった二年でソルスキア家の財産全部食いつぶすんだよこの馬鹿女は!! だいたい父上も!! こんな馬鹿と結婚させるつもりだったとか人を見る目が無さ過ぎるにも程があるだろ!!」


 ヘクトルは誤解しているのだが、ヴァネッサが全財産を食いつぶした訳ではない。

 むしろ遊び呆けたのは父で、彼女はその債務だけを負った。

 ただ、家の責任は全て当主の責任だと。

 それを理解している彼女は黙って断罪されていた。


「ヘクトル、ま、まぁいいじゃないか。結婚前なんだから……」


 どうどうとなだめる国王に、彼は更に怒りをつのらせて。


「良くないわ!! 婚約の発表しちゃっただろ!? 俺がソルスキア公爵継ぐ事になってただろ!? 破棄するのは当然として、国民にどう説明すんだよ!!」


「……どうしようか……」


 頭を抱えて縮こまる父の薄い頭に唾を飛ばす。

 そして王子はしばらく顎に手を当てると、心底幻滅した瞳で彼女の前に歩み寄り。


「婚約者であり、幼なじみでもあるが擁護はできん。見損なったぞ」


「……」


「最後の情けをくれてやる。死んだことにしろ。借金はチャラにしてやるから……この国から失せろ!!」


「……はい」


「父上! これでいいですね!! もうあんたの持ってくる縁談には乗らないからな!!」


 静かに項垂れるヴァネッサの前に唾を吐き、背を向けて。

 頭を抱える国王と、三指を突いて床に額を擦り付け土下座する彼女を残して去っていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら評価やブクマ、いいねなどして頂けたらとても嬉しいですm(_ _)m

本日は第四話まで投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ